税理士・会計事務所職員にとって、実務上絶対に理解しておかなければならない「加算税」ですが、その法律要件(国税通則法)・事務運営指針(通達)、そしてその解釈、さらには実務的な対応については理解されていないことが多く、また深く学んでみると意外にその判断は難しいことがわかります。
本稿ではシリーズ(連載)で、「過少申告加算税」について体系的かつ網羅的に解説します(なお、本連載ではわかりやすさを重視し、無申告加算税や加重部分の計算などはあえて省略しています)。
第11回目となる本稿では、「正当な理由」を争った判決・裁決を取り上げて解説します。
誤指導が認められた裁決事例
過少申告加算税が課されない要件の1つである「正当な理由」については、本連載の第4回で解説しました。
「正当な理由」に該当する典型例は、「税務職員の誤指導」が挙げられます。
平成元年8月28日の裁決は、宗教法人において収益事業か否かの誤指導があった事案で、次回の税務調査で課された無申告加算税につき、国税不服審判所は下記と判断しています。
- 原処分庁の調査担当職員は、昭和53年8月に請求人に対して行つた税務調査において、請求人が本件事業から生じる所得は非課税であると申し立てたことから、その旨を記載した届出書を提出するよう指示したこと。
- 請求人は、原処分庁の調査担当職員の指示に基づき、昭和53年8月17日付で本件事業は法人税法施行令第5条第2項第1号に該当するため収益事業に含まれないので申告書の提出をしない旨を記載した届出書を原処分庁に提出し、その後の事業年度について確定申告をしなかつたこと。
- 原処分庁は、上記の届出書を受理した後、本件決定をするまで確定申告の必要がある旨の指導を請求人に対して行つていないこと。
誤指導による加算税取消しが認められた裁決事例
上記以外にも、「正当な理由」と認められた事例として、下記の裁決などがあります。
前回調査担当職員が、本件保険料の損金算入について問題を指摘し、その適否を検討したにもかかわらず、法令の規定を誤解し、何ら指導をしなかったことが推認されることから、請求人が本件保険料を是認されたものとして、その後も当該経理処理を継続したことには、無理からぬ事情があり、加算税を課することが酷な場合に該当するとして、過少申告加算税の全部を取り消した事例
前年の消費税の確定申告時に、原処分庁が請求人は簡易課税制度上卸売事業者に該当する旨指導したものと推認されることから、請求人が自己の事業区分は第一種事業であると誤認して申告をしても無理からぬところがあったと認められ、このことは国税通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」に該当するとされた事例
誤指導以外の正当な理由
そもそも「正当な理由がある」場合とは、最高裁平成18年4月20日の判決文にある「「正当な理由がある」場合とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合」ですから、上記のように税務職員が誤指導したケース以外でも、
- 税法の解釈に関して、申告当時に公表されていた見解が、その後改変され、修正申告をするに至るようなケース
- 国税局勤務者が官職名を付して編集または監修した解説書の記載内容に従ったケース
なども正当な理由に該当すると考えられています。つまり、納税者が間違って当初申告をしてしまったのも致し方がない、という状況です。
国税不服審判所のホームページに登載されている公開裁決事例では、下記もありますので、併せて参考にしてください。
「相続を原因とする所有権移転登記に係る登録免許税を不動産所得の必要経費に算入したことに基因する過少申告について正当な理由があるとした事例」(昭和57年2月17日裁決)
https://www.kfs.go.jp/service/MP/01/0602020100.html