税理士・会計事務所職員にとって、実務上絶対に理解しておかなければならない「加算税」ですが、その法律要件(国税通則法)・事務運営指針(通達)、そしてその解釈、さらには実務的な対応については理解されていないことが多く、また深く学んでみると意外にその判断は難しいことがわかります。
本稿ではシリーズ(連載)で、「過少申告加算税」について体系的かつ網羅的に解説します(なお、本連載ではわかりやすさを重視し、無申告加算税や加重部分の計算などはあえて省略しています)。
第4回目の本稿では、過少申告加算税が課されない要件の1つである「正当な理由」について解説します。
「正当な理由」を定める法律規定とその解釈
修正申告をしても過少申告加算税が課されない要件として、「正当な理由がある」(と認められる場合)があります。法律規定は下記です。
次の各号に掲げる場合には、第1項又は第2項に規定する納付すべき税額から当該各号に定める税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除して、これらの項の規定を適用する。
一 第1項又は第2項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となつた事実のうちにその修正申告又は更正前の税額(還付金の額に相当する税額を含む。)の計算の基礎とされていなかつたことについて正当な理由があると認められるものがある場合 その正当な理由があると認められる事実に基づく税額
ここに規定する「正当な理由」とは、税務上いわゆる「不確定概念」を呼ばれるもので、一律に判断することはできません。
本連載の第1回でも解説しましたが、「正当な理由」とは、「真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合」を指しています。
修正申告を提出することによって過少申告加算税を課すのは、あくまでも罰則に該当するわけですが、罰則を課すべきではない・ふさわしくない理由がある場合、過少申告加算税を課さないようなケースが「正当な理由」に該当することになります。
「正当な理由」の具体的ケース
では、過少申告加算税が課されない「正当な理由」とは、具体的にどのようなケースを指すのでしょうか。
過少申告加算税の取扱いを規定した各税目の事務運営指針において、「正当な理由」が例示されていますので、下記を確認しましょう(なお、下記は所得税の事務運営指針を引用しましたが、各税目ごとの事務運営指針の規定内容は若干相違があります)。
「申告所得税及び復興特別所得税の過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いについて(事務運営指針)」
https://www.nta.go.jp/law/jimu-unei/pdf/01.pdf
第1 過少申告加算税の取扱い
(過少申告の場合における正当な理由があると認められる事実)
1 通則法第65条の規定の適用に当たり、例えば、納税者の責めに帰すべき事由のない次のような事実は、同条第4項第1号に規定する正当な理由があると認められる事実として取り扱う。
(1) 税法の解釈に関し、申告書提出後新たに法令解釈が明確化されたため、その法令解釈と納税者の解釈とが異なることとなった場合において、その納税者の解釈について相当の理由があると認められること。
(注) 税法の不知若しくは誤解又は事実誤認に基づくものはこれに当たらない。
(2) 法定申告期限の経過の時以後に生じた事情により青色申告の承認が取り消されたことで、青色事業専従者給与、青色申告特別控除などが認められないこととなったこと。
(3) 確定申告の納税相談等において、納税者から十分な資料の提出等があったにもかかわらず、税務職員等が納税者に対して誤った指導を行い、納税者がその指導に従ったことにより過少申告となった場合で、かつ、納税者がその指導を信じたことについてやむを得ないと認められる事情があること。
「正当な理由」に該当する典型例として、上記のように「税務職員の誤指導」が挙げられます。
なお、上記事務運営指針の中では、所得税の規定にのみ、正当な理由として「税務職員の誤指導」を挙げていますが、他の税目で同じ取扱いになります。
「正当な理由」が認められた最も有名な判決
「正当な理由」が認められ、過少申告加算税が取り消されたもっとも有名な裁判は、「ストック・オプション課税」事件でしょう。
平成18年10月24日の最高裁判決において、課税庁が権利行使益の取扱いを従来の「一時所得」から「給与所得」に変更した後も、長期にわたって納税者に十分周知しなかった点を捉え、過少申告加算税の賦課決定を取り消す判断を示しています。
納税者が 平成12年3月に「一時所得」として確定申告をしたところ、課税庁により過少申告加算税賦課決定がなされた事案に対し、同決定を取り消した判決です。
外国法人である親会社から付与されたストック・オプションの権利行使益については、かつて「一時所得」と「給与所得」いずれに該当するかが大きな問題となっていました。
この点、課税庁は平成10年分の確定申告より以降は「給与所得」として統一的に取り扱い、最高裁も平成17年1月25日の判決で「給与所得」と認定しています。
ただし、平成9年分の確定申告以前は、課税庁でも「一時所得」とすることを容認しており、「給与所得」に統一した後も、平成14年の通達改正まで、法令・通達でこの取扱いを明示することはありませんでした。
最高裁判所はこの事実を捉え、納税者が一時所得として確定申告したのは、「正当な理由」があると判断したわけです。
過少申告加算税が課されない要件である「正当な理由」とは、不確定概念である以上、その範囲・解釈は難しいのですが、事務運営指針における例示、および裁決・判決では多数判断が示されていますので、本連載でも次回以降に詳しく取り上げます。