税理士・会計事務所職員にとって、実務上絶対に理解しておかなければならない「加算税」ですが、その法律要件(国税通則法)・事務運営指針(通達)、そしてその解釈、さらには実務的な対応については理解されていないことが多く、また深く学んでみると意外にその判断は難しいことがわかります。
本稿ではシリーズ(連載)で、「過少申告加算税」について体系的かつ網羅的に解説します(なお、本連載ではわかりやすさを重視し、無申告加算税や加重部分の計算などはあえて省略しています)。
第6回目の本稿では、第5回に続いて「更正の予知」で論点になる「(税務)調査」とは具体的にどのような行為か、さらには実務的な対応について解説します。
過少申告加算税の実務的・現実的な問題点・論点
本連載の第5回目では、過少申告加算税が課されない要件である「更正の予知」を判断する基準としての「調査」について、主に国税内の規定内容から解説しました。
ここで、実務上の注意点ですが、税務署から電話連絡などで誤りの確認・指摘をされた場合において、結果として修正申告を提出すると、税務署の担当者は加算税を課そうとするケースが多くあります。
税務署の担当者は「調査だ」と言い張りますし、納税者・税理士は「行政指導(だから加算税は課されない)」と言い争いになりがちです。
あくまでも加算税が課される要件(の1つ)は、「調査により」ですから、「行政指導」によって修正申告を提出しても、加算税は課されないことになります。
事務運営指針の規定を主張する
税務署からの電話連絡で否認指摘を受けて、税務署の担当者と加算税の争いになった場合、大事なことはまず、「調査か行政指導を明示しなかった税務署が悪い」と主張することです。
前回でも引用しましたが、事務運営指針(の一部)を再掲します。
「調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)」
https://www.nta.go.jp/law/jimu-unei/sonota/120912/index.htm
第2章 1
調査と行政指導の区分の明示
納税義務者等に対し調査又は行政指導に当たる行為を行う際は、対面、電話、書面等の態様を問わず、いずれの事務として行うかを明示した上で、それぞれの行為を法令等に基づき適正に行う。
つまり、電話連絡で否認指摘を受けて加算税の争いになった場合、
「そもそも電話の冒頭で区分が明示されなかったわけなので、事務運営指針違反に該当します。」
と主張することです。もちろん、事務運営指針に該当(違反)するから調査ではなくて行政指導という結論には、論理的にはならないのですが、手続き違反をしたことを追及されると、税務署の担当者も対応を変えざるを得なくなる可能性が高くなります。
国税庁サイトのFAQにも記載がある
上記と同じ内容について、実は国税庁サイトにも記載・規定があります。
「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」
https://www.nta.go.jp/information/other/data/h24/nozeikankyo/ippan02.htm
問2 税務署の担当者から電話で申告書の内容に問題がないか確認して、必要ならば修正申告書を提出するよう連絡を受けましたが、これは調査なのでしょうか。
(答)
調査は、特定の納税者の方の課税標準等又は税額等を認定する目的で、質問検査等を行い申告内容を確認するものですが、税務当局では、税務調査のほかに、行政指導の一環として、例えば、提出された申告書に計算誤り、転記誤り、記載漏れ及び法令の適用誤り等の誤りがあるのではないかと思われる場合に、納税者の方に対して自発的な見直しを要請した上で、必要に応じて修正申告書の自発的な提出を要請する場合があります。このような行政指導に基づき、納税者の方が自主的に修正申告書を提出された場合には、延滞税は納付していただく場合がありますが、過少申告加算税は賦課されません(当初申告が期限後申告の場合は、無申告加算税が原則5%賦課されます。)。
なお、税務署の担当者は、納税者の方に調査又は行政指導を行う際には、具体的な手続に入る前に、いずれに当たるのかを納税者の方に明示することとしています。
税務調査と行政指導の境目は難しい
税務署からの連絡が税務調査なのか、もしくは行政指導なのかは明確な線引きが難しいことから、その後に加算税の論点でモメないためには実務上、連絡があった冒頭で税務調査か行政指導なのかを確認しておくべきでしょう。
また、「事務運営指針」とは通達の一種です。通達とは、上位官庁が下位官庁に出す命令であり、規則・ルールです。ですから、税務職員は事務運営指針を守らなければなりません。
一方で、国税職員もこの事務運営指針の規定を知らないことも多く、こちらから指摘する必要があることにも留意しておくべきです。