過少申告加算税の論点を全整理・解説⑤
税務調査
過少申告加算税の論点を全整理・解説⑤

著者プロフィール

久保憂希也

久保 憂希也(くぼ ゆきや)

元国税調査官・株式会社KACHIEL代表取締役 CEO
1977年 和歌山県和歌山市生まれ
1992年 智弁学園和歌山高校入学
1995年 慶應義塾大学経済学部入学
2001年 国税庁入庁、東京国税局配属 医療業、士業、飲食店、不動産関連などの税務調査を担当、また、資料調査課のプロジェクトで芸能人や風俗等の税務調査にも携わる。さらに、東京国税局にて外国人課税に関する税務調査も担当。
2008年 株式会社 InspireConsultingを設立し、税務調査のコンサルタントとして活動し、現在は全国で税務調査対策研究会を開催し、数千名の税理士に税務調査の正しい対応方法を教えている。

過少申告加算税の論点を全整理・解説⑤

 税理士・会計事務所職員にとって、実務上絶対に理解しておかなければならない「加算税」ですが、その法律要件(国税通則法)・事務運営指針(通達)、そしてその解釈、さらには実務的な対応については理解されていないことが多く、また深く学んでみると意外にその判断は難しいことがわかります。
 本稿ではシリーズ(連載)で、「過少申告加算税」について体系的かつ網羅的に解説します(なお、本連載ではわかりやすさを重視し、無申告加算税や加重部分の計算などはあえて省略しています)。
 第5回目の本稿では、過少申告加算税が課されない要件である「更正の予知」で論点になる、「(税務)調査」とは具体的にどのような行為なのかについて解説します。

「更正の予知」における「調査」とは?

 本連載の第2回目では、過少申告加算税が課されない要件である「更正の予知」について解説しました。
 要点は、自主修正申告をしても過少申告加算税は課されない一方で、税務調査が行われた結果として修正申告を提出した場合には、過少申告加算税が課されるというものです。
 この「更正の予知」に該当するかどうかは、国税通則法第65条第5項「修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより~」と規定していることから、そもそもここにいう「調査」の行為が行われたのか、という判断基準が重要になります。

事務運営指針の規定内容

 国税が規定する「調査」(と「行政指導」の区分)を、事務運営指針の規定から見てましょう。

「調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)」
https://www.nta.go.jp/law/jimu-unei/sonota/120912/index.htm
第2章 基本的な事務手続及び留意事項
1 調査と行政指導の区分の明示
納税義務者等に対し調査又は行政指導に当たる行為を行う際は、対面、電話、書面等の態様を問わず、いずれの事務として行うかを明示した上で、それぞれの行為を法令等に基づき適正に行う。
(注)
1 調査とは、国税(法第74条の2から法第74条の6までに掲げる税目に限る。)に関する法律の規定に基づき、特定の納税義務者の課税標準等又は税額等を認定する目的その他国税に関する法律に基づく処分を行う目的で当該職員が行う一連の行為(証拠資料の収集、要件事実の認定、法令の解釈適用など)をいうことに留意する(「手続通達」(平成24年9月12日付課総5-9ほか9課共同「国税通則法第7章の2(国税の調査)関係通達」(法令解釈通達)をいう。以下同じ。)1-1)。
2 当該職員が行う行為であって、特定の納税義務者の課税標準等又は税額等を認定する目的で行う行為に至らないものは、調査には該当しないことに留意する(手続通達1-2)。

通達(法令解釈通達)も要確認

 上記事務運営指針が参照している通達も、併せて確認しましょう。

「国税通則法第7章の2(国税の調査)関係通達の制定について(法令解釈通達)」
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/zeimuchosa/120912/01.htm#a01_1
1-1(「調査」の意義)
(1) 法第7章の2において、「調査」とは、国税(法第74条の2から法第74条の6までに掲げる税目に限る。)に関する法律の規定に基づき、特定の納税義務者の課税標準等又は税額等を認定する目的その他国税に関する法律に基づく処分を行う目的で当該職員が行う一連の行為(証拠資料の収集、要件事実の認定、法令の解釈適用など)をいう。
(注) 法第74条の3に規定する相続税・贈与税の徴収のために行う一連の行為は含まれない。
(2) 上記(1)に掲げる調査には、更正決定等を目的とする一連の行為のほか、再調査決定や申請等の審査のために行う一連の行為も含まれることに留意する。
(3) 上記(1)に掲げる調査のうち、次のイ又はロに掲げるもののように、一連の行為のうちに納税義務者に対して質問検査等を行うことがないものについては、法第74条の9から法第74条の11までの各条の規定は適用されないことに留意する。
イ 更正の請求に対して部内の処理のみで請求どおりに更正を行う場合の一連の行為。
ロ 修正申告書若しくは期限後申告書の提出又は源泉徴収に係る所得税の納付があった場合において、部内の処理のみで更正若しくは決定又は納税の告知があるべきことを予知してなされたものには当たらないものとして過少申告加算税、無申告加算税又は不納付加算税の賦課決定を行うときの一連の行為。
1-2(「調査」に該当しない行為)
当該職員が行う行為であって、次に掲げる行為のように、特定の納税義務者の課税標準等又は税額等を認定する目的で行う行為に至らないものは、調査には該当しないことに留意する。また、これらの行為のみに起因して修正申告書若しくは期限後申告書の提出又は源泉徴収に係る所得税の自主納付があった場合には、当該修正申告書等の提出等は更正若しくは決定又は納税の告知があるべきことを予知してなされたものには当たらないことに留意する。
(1) 提出された納税申告書の自発的な見直しを要請する行為で、次に掲げるもの。
イ 提出された納税申告書に法令により添付すべきものとされている書類が添付されていない場合において、納税義務者に対して当該書類の自発的な提出を要請する行為。
ロ 当該職員が保有している情報又は提出された納税申告書の検算その他の形式的な審査の結果に照らして、提出された納税申告書に計算誤り、転記誤り又は記載漏れ等があるのではないかと思料される場合において、納税義務者に対して自発的な見直しを要請した上で、必要に応じて修正申告書又は更正の請求書の自発的な提出を要請する行為。
(2) 提出された納税申告書の記載事項の審査の結果に照らして、当該記載事項につき税法の適用誤りがあるのではないかと思料される場合において、納税義務者に対して、適用誤りの有無を確認するために必要な基礎的情報の自発的な提供を要請した上で、必要に応じて修正申告書又は更正の請求書の自発的な提出を要請する行為
(3) 納税申告書の提出がないため納税申告書の提出義務の有無を確認する必要がある場合において、当該義務があるのではないかと思料される者に対して、当該義務の有無を確認するために必要な基礎的情報(事業活動の有無等)の自発的な提供を要請した上で、必要に応じて納税申告書の自発的な提出を要請する行為。
(4) 当該職員が保有している情報又は提出された所得税徴収高計算書の記載事項の確認の結果に照らして、源泉徴収税額の納税額に過不足徴収額があるのではないかと思料される場合において、納税義務者に対して源泉徴収税額の自主納付等を要請する行為。
(5) 源泉徴収に係る所得税に関して源泉徴収義務の有無を確認する必要がある場合において、当該義務があるのではないかと思料される者に対して、当該義務の有無を確認するために必要な基礎的情報(源泉徴収の対象となる所得の支払の有無)の自発的な提供を要請した上で、必要に応じて源泉徴収税額の自主納付を要請する行為。

税務署・調査官の行為は

 このように、税務署・調査官から連絡等があり、結果として誤りが発見され、修正申告の提出に至ったとしても、その全てが「調査」によるもので過少申告加算税が課されるわけではなく、あくまでも(調査ではない)「行政指導」と判断される場合については、「更正の予知」がなかったものとして過少申告加算税が課されないことになります。

 税務署・調査官の行為が、(税務)調査か行政指導かで判断に迷った場合は、上記の事務運営指針および法令解釈通達に照らし合わせて判断する必要があるのですが、この実務的な対応方法については、次回(第6回)で解説しましょう。