“プロベート手続き” 対策⑤
海外資産の取引税務
“プロベート手続き” 対策⑤

著者プロフィール

金田一 喜代美

金田一 喜代美(きんだいち きよみ)

Kiyomi Kindaichi

中央大学法学部国際企業関係法学科、中央大学専門職大学院(MBA取得)、慶應義塾商学研究科修士課程修了。
大手監査法人にて上場準備経験有。
近年は、米国、豪州、シンガポール、等の相続法務税務、ITIN・Trust等諸手続きコンサルテーションに従事している。

【執筆】
「マンガでわかるかんたんQ&A」、「知って得するやさしい税金」、「相続から創続へ」、「国際相続・贈与がざっくりわかる~海を超える次世代資産~」、「税経通信」令和2年3月号 国際資産税特集 “財産取得者の納税義務の判断とその課税関係の調査” 等。

【Blog】
TAXINFOMATION

“プロベート手続き” 対策⑤

 第8回に引き続き、日本と異なる相続手続である米国等のプロベートを、事前に回避できる具体的な方法を記載していきたいと思います。

今回は次の2つの方法を記載しました。

*共有口座(ジョイント・アカウント)で回避する方法
*少額資産で回避できる方法

ジョイント・アカウント

1.ジョイント・アカウントのしくみ

 ジョイント・アカウントとは、1つの口座を2人以上の人が共有することで、所有者の1人が死亡しても、そのあと残りの生存者に、自動的に所有権が移転する口座管理の仕組みになっています。従ってこの共有口座のメリットは、米国におけるプロベート対策のひとつとなっています。
 しかし、ほかにもメリットがあります。それは1つの口座から各名義人がそれぞれ単独で引き出すことができるため、夫婦間、家族間で生活費等を共有するために利用することができることです。
 日本の単独口座では、名義人が死亡するとその口座は凍結され、相続人が必要な資金を引き出せない問題がありますが、このようにジョイント・アカウントにすると、自動的に口座残高が生存名義人に移るので、原則的には口座の凍結自体を回避することができます。

2.ジョイント・アカウントの課税関係

 日本人のご夫婦が、米国に1千万円でジョイント・アカウント口座を開設したケースを例に解説します。

(1)ジョイント・アカウント開設時

 夫が資金1千万円を全額拠出して口座を開設した場合でも、その時に直ちに日本及び米国の税金がかかることはありません。

(2)途中で引き出した時

 開設時に資金を出していない妻が、口座からお金を引き出した場合は、その使途や金額によって日本の贈与税の取扱いが異なります。

*生活費に充てるための引き出しであれば、基本的には通常必要と認められる金額までは贈与税はかかりません。
*生活費以外の引き出し、例えば妻が車や不動産などの資産を購入する場合などであれば、原則として贈与税がかかります。
*ちなみに、米国では米国市民である配偶者同士では婚姻控除により贈与は無制限に非課税です。この婚姻控除は妻が米国市民である限り、かりに夫が米国籍ではなくても贈与税は掛かりません。ところが妻が米国市民でない場合には居住・非居住を問わず年間非課税贈与控除枠は$149,000となります。

(3)夫が死亡した時

 夫の拠出した割合相当分が、相続財産となり、日本の相続税がかかる可能性があります。

*ちなみに、米国では被相続人が非居住外国人で米国に財産がある場合の非課税遺産控除枠は$60,000です。超える場合は相続発生から9か月以内に遺産税申告書(Form 707-NA)を提出する必要があります。但し、日米相続税条約第4条の配慮により、非居住外国人でも日本国籍の場合は米国の非課税遺産額を考慮する特例が設けられており、米国国内にある遺産額の全世界遺産額に対する割合で米国の非課税遺産控除枠$5,490,000を適用することができます。

※なお、設例の預金ですが、非居住外国人の場合は預金は米国では“無形資産”と呼ばれ遺産税はかからないことになっています(米国居住者はかかる)。

 また、2名とも死亡するとジョイント・アカウントもプロベートの対象となります。

少額資産

 次のように少額な遺産はプロベート手続きをしないか、もしくは簡易なプロベート手続きで終わらせることができます。

1.プロベートを回避できる少額資産

 プロベートを回避できる少額資産には次のようなものがあります。

*ハワイ州では、 10万ドル以下の動産
*ワシントン州では、10万ドル以下の動産
*カリフォルニア州では15万ドル以下の動産や5万ドル以下の不動産
*テキサス州では、5万ドルまで上限  

などがあります。(2016年)

2.少額である動産(一部不動産)のこと

 少額財産は、プロベートをしない、または簡易版プロベート(右記)を行うなどの回避方法が認められています。

3.簡易版プロベートのこと

 少額資産については、次のような簡易プロベートの相続手続きの対応が可能な場合があります。

①宣誓供述書による方法(Affidavit procedure)
 相続人が、州法で定めている遺産について、種類や金額などを記載した供述書を作成し、死亡
証明書と一緒に提出して少額財産であることの証明を行う方法です。
②簡易裁判による2つの方法(Simplified court procedure)
 次のような簡易裁判による方法もあります。
*Informal Probateは、裁判官が関与せず弁護士が裁判所の窓口で必要書類を提出することで進められる方法です。
*Formal Probateは、裁判官を通して行うもので、提出資料が多く時間がかかります。また、資料は裁判官自らがチェックしていきます。