第7回に引き続き、日本と異なる相続手続である米国等プロベートを、事前に回避できる具体的な方法を記載していきたいと思います。
★今回は生前信託(リビングトラスト)で回避する方法です。
日本の財産の承継方法は主に遺言書(will)によりますが、近年では民事信託もひろがりつつあります。
米国では長年Willの他に、生前信託(living trust)を作成し、遺族等に財産を残すという方法があります。この生前信託は、メリットが多い反面注意すべきところも多くあります。
1.トラストのしくみ
トラストとは、財産所有者に相続が起きた際にプロベートを回避して、遺産を相続人に承継させる方法のひとつです。生前にトラスト文書(箱のようなイメージ)を作成し、財産をそのトラストの「箱」に入れ、任命された管財人が財産を管理します。具体的には財産名義をトラストの受託者名義に変えることになります。これが重要になります。名義を変えないままでは対策は無に消えます。
2.トラストに入れられる資産
トラスト文書には、次のようなさまざまな資産を入れることができます。
②株式・債権・投資信託
③金融市場預金口座・証券口座
④会社の出資持分
⑤知的財産権
⑥その他の美術品・宝石等
3.トラストに入れられない資産
しかし、トラスト文書には、次のような資産は入れることができません。
②生命保険
③銀行口座、証券口座
④日本の資産 …トラスト文書を作る国の資産だけしか入れられないために日本の財産をいれることはできません。
4.トラストのメリット
トラストには、次のようなメリットがあります。
②トラストの指示に従い、遺産を速やかに遺族に分配できます。
③トラストは遺言書のように裁判所に提出しないため、プライバシーを守るこができます。
④配偶者それぞれが、連邦遺産税の免除(5,490,000㌦)を受けることができます。
⑤トラストは修正することができます。
⑥「生命維持装置を外す」など、判断能力を失った場合の代理人の指定ができます。
⑦離婚・再婚・独身の方の場合は承継順位が難しいため、トラストを作成し、受取人をあらかじめ決めておくことができます。などです。この点からトラスト制度はとても便利と言えます。
⑧トラストを作成してプロベートを通すと、検証費用や弁護士費用などが1/2くらいで抑えられます。
作成していないと費用が2倍以上になることもあります。
5.トラストのデメリット
一方、トラストを運用する場合には、つぎのようなデメリットや注意点があります。
・・・従いましてトラスト作成後は、名義が変更されたかの最終確認が重要になります。
②ケイマン諸島などで作成される外国籍のトラストは厳しく監視されますので、米国などでは年次報告や申告書提出義務を課しています。
③トラストには国籍があり、その国の裁判所が介入します。
④仕組みによっては日本側で課税されることもありますので、よく検討して設定することが重要です。
⑤その国の財産しか組み入れられない。
6. “トラスト” のバージョンアップ編
このように生前信託(リビングトラスト)は、プロベート回避の効果がありますが、さらに「付随文書」をつけることで遺言書を兼ねることができ、さらに生前信託の付加価値を上げることができ、被相続人も相続人も安心感が増します。
具体的には、次の4種類の付随文書をトラストと併せて作成すると、広範囲な遺言機能を持たせることが可能になります。
依頼者が亡くなった後に発見された財産も、すべてトラストに転送するように指定する遺言書です。倉庫や棚から財産や生命保険証券などが見つかった場合、トラストに追加で入れることで、相続分配の混乱を防ぐことに役立ちます。この場合は以前の遺言書は無効となります。
依頼者が判断能力を失った場合に財産管理や納税、郵便物の受取などを行ってくれる代理人を指定できる文書です。
依頼者が病気などで判断能力を失った場合、医療判断を代理人に委ねるための文書です。臓器提供の意思も託せる上、生命維持治療の停止についてもあらかじめ指定できます。
依頼者以外の代理人に医療情報や診断書の開示を許可し、代理人は依頼者の病気に対して治療方針などの情報を得ることもできます。
7. “トラスト”は国籍がある
トラストには国籍があります。その国の国籍であると判断してもらうためには、概ね次のような要件が必要です。
②. その国の居住者、またはその国の国籍保有者の1名以上が、トラストに関する重要な判断を下す権限をもっているなど。
このような要件を満たさないトラストは外国籍とされてしまい、税務当局への報告義務、申告書提出義務が重くなる可能性があります。要件を満たさない場合にトラストの国籍を取るには、親族が現地国の永住権をとるか、現地の銀行などに管財人になってもらう必要がでてきます。
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