第5回で、日本と異なる相続手続である米国等プロベートにつき、記載しました。プロベートがあると、簡単に遺産分割ができず、半年から長い場合は数年かかることもあります。
日本にはないプロベート制度について、今回は実務的な全体像を、そして次回から数回にわたって、事前に回避できる方法とその具体的なものを記載したいと思います。
1.受取人を指定しておく
次のような資産は、生前に受取人を指定することで、プロベートを回避することができます。
預金口座を開設する時に、受取人を指定しておきます。とても簡単な上、費用もかかりません。銀行によっては、複数人の受取人を指定したり、取得割合を指定することもできますが、中には対応できない口座もあります。
名義人が亡くなったら、受取人が死亡証明書と身分証明書を提示することで資金を引き出すことができます。
株券や債権も、受取人指定をすることで、プロベートを経ずに名義変更などが可能です。各証券会社や発行会社において手続きをしますが、インターネットでできる会社もあります。
しかし、非居住者が口座を所有している場合は、名義変更を認めないところもありますので、確認が必要です。
TODとは米国での不動産の権利の種類のひとつです。不動産の権利証を受取人に指定し、その権利証を法務局に登記することで、プロベートを回避することができます。トラストよりも簡単に作成できる上、所有者はいつでもこのTODを撤回することもできます。
この方法は、米国などで不動産しか所有していない方に適しています。
ただし、国や州によっては居住用不動産に限定しているところもあります。
2.共同所有にしておく・・・ “ジョイント・テナンシー”
2人以上の個人が不動産を所有しておくと、所有者の1人が死亡したあと、残りの生存者に自動的に所有権が移転しますので、プロベートを回避するひとつの方法になります。
具体的に、ジョイント・テナンシーと言う方法があります。これは、資産を複数人の個人(夫婦を含む)で同時に所有し、各所有者は、それぞれ等分に所有権を持つという、資産の保有形態の一つです。
また、所有者の1人に相続が起こった場合、残りの生存者に自動的に所有権の100%が移るため、不動産の移転手続きが簡単になります。また、プロベート手続きが不要になるので、相続の手続き対策としてもメリットがあります。
例えば、兄弟2人で不動産を「共有」で購入したとしましょう。
日本のは、どちらか一方が死亡すると、その人の所有権は相続人に引き継がれて分割の対象になります。しかし、ジョイント・テナンシーであれば、誰が相続するかは検討されずに、共有者の一方に自動的に所有権が引き継がれます。このためプロベート手続きも不要となります。
3.日本で共有資産にした場合の注意するべき点
日本人のご夫婦(日本居住者)が、ハワイのコンドミニアムを購入する際に、夫が全額の購入資金を負担しジョイント・テナンシーを設定し共有したとした場合の課税問題点です。
この場合、日本では、夫から妻へ夫が持っていた1/2相当分の所有権の贈与があったものとされ、妻は日本の贈与税を支払う問題が発生します。
また、米国においても、このようなケースの場合は日本と同様に1/2相当分について米国の贈与税がかかります。なお、米国の場合、贈与した人が贈与税を負担するので夫が贈与税を支払うことになります。
米国不動産を購入する際は、ジョイント・テナンシーの名義人全員がお金を出し合って、資金負担額と所有権割合を一致させるなどの手当を検討する必要があります。
ジョイントテナンシーを設定すると、夫が先に死亡した場合、残された妻に夫の所有権が自動的に移ります。移った1/2相当額分については、日本の相続税の対象となり(米国では配偶者は遺産税がかからない)、妻が納税をすることになります。しかし、日米租税条約に基づいて「非居住者」でも「米国市民・居住者」に適用される免除額を使うことができれば一部を免除することもできます。