重加算税の論点を全整理・解説③
重加算税の論点を全整理・解説③

著者プロフィール

久保憂希也

久保 憂希也(くぼ ゆきや)

元国税調査官・株式会社KACHIEL代表取締役 CEO
1977年 和歌山県和歌山市生まれ
1992年 智弁学園和歌山高校入学
1995年 慶應義塾大学経済学部入学
2001年 国税庁入庁、東京国税局配属 医療業、士業、飲食店、不動産関連などの税務調査を担当、また、資料調査課のプロジェクトで芸能人や風俗等の税務調査にも携わる。さらに、東京国税局にて外国人課税に関する税務調査も担当。
2008年 株式会社 InspireConsultingを設立し、税務調査のコンサルタントとして活動し、現在は全国で税務調査対策研究会を開催し、数千名の税理士に税務調査の正しい対応方法を教えている。

重加算税の論点を全整理・解説③

 税務調査では、どんな税目であっても論点となる「重加算税」ですが、その法律要件(国税通則法)・事務運営指針(通達)、そしてその解釈、さらには実務的な対応については理解されていないことが多く、また深く学んでみると意外にその判断は難しいことがわかります。
 本稿ではシリーズ(連載)で、「重加算税」について体系的かつ網羅的に解説します。
 なお、重加算税の賦課要件の前提となる「過少申告加算税」については、「過少申告加算税の論点を全整理・解説」と題して、全12回にわたり解説していますので、そちらも併せてご覧ください。
 第3回となる本稿では、重加算税を規定した事務運営指針のうち、「法人税」に関する規定を解説します。

5つの事務運営指針と法人税の規定

 重加算税の賦課要件・基準を定める事務運営指針(通達の一種)は、税目ごとに5つの規定が存在し、全て国税庁のホームページで公開されています。
 各事務運営指針ごとに、規定の内容が若干異なっている(税目ごとの特異性が反映されている)ことから、税務調査で重加算税と指摘された場合、該当する税目の事務運営指針の内容を精査する必要があります。

 なお、本稿で解説する重加算税の事務運営指針ですが、下記となります。

「法人税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)」(改正 平成28年12月12日) https://www.nta.go.jp/law/jimu-unei/hojin/100703_02/00.htm

重加算税に該当するケース

 上記事務運営指針では、法人税において重加算税に該当するケースとして、下記のようなケースを挙げています。

(1) いわゆる二重帳簿を作成していること。
(2) 次に掲げる事実(以下「帳簿書類の隠匿、虚偽記載等」という。)があること。
① 帳簿、原始記録、証ひょう書類、貸借対照表、損益計算書、勘定科目内訳明細書、棚卸表その他決算に関係のある書類(以下「帳簿書類」という。)を、破棄又は隠匿していること。
② 帳簿書類の改ざん(偽造及び変造を含む。以下同じ。)、帳簿書類への虚偽記載、相手方との通謀による虚偽の証ひょう書類の作成、帳簿書類の意図的な集計違算その他の方法により仮装の経理を行っていること。
③ 帳簿書類の作成又は帳簿書類への記録をせず、売上げその他の収入(営業外の収入を含む。)の脱ろう又は棚卸資産の除外をしていること。
(3) 特定の損金算入又は税額控除の要件とされる証明書その他の書類を改ざんし、又は虚偽の申請に基づき当該書類の交付を受けていること。
(4) 簿外資産(確定した決算の基礎となった帳簿の資産勘定に計上されていない資産をいう。)に係る利息収入、賃貸料収入等の果実を計上していないこと。
(6) 同族会社であるにもかかわらず、その判定の基礎となる株主等の所有株式等を架空の者又は単なる名義人に分割する等により非同族会社としていること。

期ズレは重加算税にならない

 一方で、重加算税の事務運営指針で大事なのは、重加算税に該当しないケースも挙げられていることです。法人税の事務運営指針では、4つの具体的ケースを挙げていますが、1つずつみていきましょう。

(1) 売上げ等の収入の計上を繰り延べている場合において、その売上げ等の収入が翌事業年度(その事業年度が連結事業年度に該当する場合には、翌連結事業年度。(2)において同じ。)の収益に計上されていることが確認されたとき。

 税務調査で再頻出項目ともいえる「期ズレ」。売上計上時期が今期か翌期かという論点ですが、期ズレであった(当期否認・翌期認容)としても、この項目については重加算税が課されないことが規定されています。
 調査官によっては、「請求書の日付から売上計上時期は明確であったはず」「売上を故意に翌期にズラしたのだから重加算税だ」と指摘する場合もありますが、これは事務運営指針から考えると間違った指摘ということがわかります。

逆期ズレも重加算税にならない

 また、経費の繰り上げ計上である「逆期ズレ」も重加算税にならないと規定されています。

(2) 経費(原価に算入される費用を含む。)の繰上計上をしている場合において、その経費がその翌事業年度に支出されたことが確認されたとき。

 売上の場合、翌期に繰り越すによって当期所得が減ることになりますが、経費の場合は逆で、翌期に計上すべきものを当期に計上すると否認項目に該当します。
 会社によっては、予算消化などの理由により、経費を繰り上げて計上する場合もあるようですが、この逆期ズレもまた重加算税にならないことが事務運営指針において明記されています。

棚卸資産の評価損も重加算税にならない

(3) 棚卸資産の評価換えにより過少評価をしている場合。

 所得を減らそうという行為の中で、一般的に多く使われる手段が(期末)棚卸資産の過少計上。これについては、故意に棚卸資産を過少に計上した場合、重加算税になり得るのは当然のこととしても、あくまでも、棚卸資産を「評価換え」(減損・棚ざらし・有姿除却など)した場合の過少評価については、あくまでも見解の相違に該当することになり、重加算税にならないとされています。

交際費に振り替わった否認は重加算税にならない

 税務調査でよくある、「会議費」「福利厚生費」「支払手数料」などが、(税務上の)交際費として否認された場合、交際費の損金算入額の上限を超えれば増差所得が発生するわけですが、この項目も重加算税にはなりません。

(4) 確定した決算の基礎となった帳簿に、交際費等又は寄附金のように損金算入について制限のある費用を単に他の費用科目に計上している場合。

 これは、交際費のみならず、(税務上の)寄付金も同じ取扱いになります。

 これら事務運営指針の規定を把握・理解せずに、重加算税と指摘する調査官が多いわけですが、特に「期ズレ」「交際費の否認」に関しては重加算税にならない、と事務運営指針から明確に反論可能ですので、ぜひ参考にしてください。