過少申告加算税の論点を全整理・解説⑫
過少申告加算税の論点を全整理・解説⑫

著者プロフィール

久保憂希也

久保 憂希也(くぼ ゆきや)

元国税調査官・株式会社KACHIEL代表取締役 CEO
1977年 和歌山県和歌山市生まれ
1992年 智弁学園和歌山高校入学
1995年 慶應義塾大学経済学部入学
2001年 国税庁入庁、東京国税局配属 医療業、士業、飲食店、不動産関連などの税務調査を担当、また、資料調査課のプロジェクトで芸能人や風俗等の税務調査にも携わる。さらに、東京国税局にて外国人課税に関する税務調査も担当。
2008年 株式会社 InspireConsultingを設立し、税務調査のコンサルタントとして活動し、現在は全国で税務調査対策研究会を開催し、数千名の税理士に税務調査の正しい対応方法を教えている。

過少申告加算税の論点を全整理・解説⑫

 税理士・会計事務所職員にとって、実務上絶対に理解しておかなければならない「加算税」ですが、その法律要件(国税通則法)・事務運営指針(通達)、そしてその解釈、さらには実務的な対応については理解されていないことが多く、また深く学んでみると意外にその判断は難しいことがわかります。
 本稿ではシリーズ(連載)で、「過少申告加算税」について体系的かつ網羅的に解説します(なお、本連載ではわかりやすさを重視し、無申告加算税や加重部分の計算などはあえて省略しています)。
 本連載の最終回・第12回目となる本稿では、「正当な理由」の立証責任は誰にあるのかについて解説します。

国税通則法によると

 「正当な理由」があれば過少申告加算税は課されないわけですが、ではこの立証責任は、納税者もしくは国税のどちらにあるのでしょうか。具体的な事例をみる前に、国税通則法の条文規定を確認しましょう。

国税通則法第116条(原告が行うべき証拠の申出)
国税に関する法律に基づく処分(更正決定等及び納税の告知に限る。以下この項において「課税処分」という。)に係る行政事件訴訟法第3条第2項 (処分の取消しの訴え)に規定する処分の取消しの訴えにおいては、その訴えを提起した者が必要経費又は損金の額の存在その他これに類する自己に有利な事実につき課税処分の基礎とされた事実と異なる旨を主張しようとするときは、相手方当事者である国が当該課税処分の基礎となつた事実を主張した日以後遅滞なくその異なる事実を具体的に主張し、併せてその事実を証明すべき証拠の申出をしなければならない。ただし、当該訴えを提起した者が、その責めに帰することができない理由によりその主張又は証拠の申出を遅滞なくすることができなかつたことを証明したときは、この限りでない。
2 前項の訴えを提起した者が同項の規定に違反して行つた主張又は証拠の申出は、民事訴訟法 (平成8年法律第109号)第157条第1項 (時機に後れた攻撃防御方法の却下)の規定の適用に関しては、同項に規定する時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法とみなす。

判決をみましょう

上記の条文を踏まえて、具体的な判決を取り上げます。

●横浜地裁(昭和51年11月26日)
同法65条2項(注:現在は4項)は過少申告加算税の課税要件そのものを規定したものではなく、同条1項所定の課税要件を具備する場合であつても、同条2項所定の場合には当該事実に係る増差税額分については 過少申告加算税を課さない旨を定めた例外規定であるから、納税義務者の側に右の場合に該当する事由の存在について主張、立証責任があると解する のが相当である。
●東京高裁(昭和55年5月27日)
控訴人ら(注:納税者)は、右賦課処分に関し、国税通則法第65条第2項(注:現在は4項)に定める正当な理由がなかつたことにつき、被控訴人が主張立証すべきである旨主張するが、右規定の文言上、正当な理由があると主張する者において主張立証の責任を負うものと解するのが相当であるから、被控訴人にその主張立証の責任はなく、したがつて、控訴人らの右主張は理由がない。
●東京高裁(平成18年1月18日)
納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちにその修正申告又は更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、単なる租税法令の不知又は誤解を超えて、真にやむを得ない理由があるときは、「正当な理由」があるものとして、その正当な理由があると認められる事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除して、過少申告加算税を算出することとなる(通則法65条4項)。そして、この過少申告加算税の例外事由である「正当な理由」の主張立証責任は、納税者にあるものと解すべきである(最高裁平成11年6月10日第一小法廷判決・裁判集民事193号315頁参照)。
●最高裁(平成11年6月10日)
相続財産に属する特定の財産を計算の基礎としない相続税の期限内申告書が提出された後に当該財産を計算の基礎とする修正申告書が提出された場合において、当該財産が相続財産に属さないか又は属する可能性が小さいことを客観的に裏付けるに足りる事実を認識して期限内申告書を提出したことを納税者が主張立証したときは、国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があるものとして、同項の規定が適用されるものと解すべきである。しかしながら、上告人ら(注:納税者)が本件において「正当な理由」がある根拠として主張立証する事実をもつてしては、いまだ本件不動産が相続財産に属さないか又は属する可能性が小さいことを客観的に裏付けるに足りる事実を認識して期限内申告書を提出したことの主張立証として十分とはいえず、これに原審の適法に確定したその余の事実関係を併せ考慮しても、上告人らに「正当な理由」があつたと認めることはできない。

立証責任は納税者側にある

 いずれの判決においても、「正当な理由」の立証責任は納税者にあるとされています。
 あくまでも、過少申告加算税は課されることが原則となっており、その例外規定としての「正当な理由」ですから、これに該当すると主張するには、納税者側が立証しなければならない、ということです。

なお、「正当な理由」に関しては、下記税大論叢もありますので、あせてご確認ください。

「国税通則法65条4項の「正当な理由」を巡る問題点-裁判例の分析を通して-」
https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/ronsou/53/02/hajimeni.htm