税理士・会計事務所職員にとって、実務上絶対に理解しておかなければならない「加算税」ですが、その法律要件(国税通則法)・事務運営指針(通達)、そしてその解釈、さらには実務的な対応については理解されていないことが多く、また深く学んでみると意外にその判断は難しいことがわかります。
本稿ではシリーズ(連載)で、「過少申告加算税」について体系的かつ網羅的に解説します(なお、本連載ではわかりやすさを重視し、無申告加算税や加重部分の計算などはあえて省略しています)。
過少申告加算税を網羅的に解説してきましたうえで、前回では具体的な判決・裁決を取り上げましたが、第10回目の本稿では前回に引続き、「更正の予知」を争った判決・裁決を取り上げて解説します。
修正申告を提出した2日後に調査開始されたケース
かなり古い裁決事例となりますが、昭和57年3月26日裁決(更正があるべきことを予知してなされた申告ではないとして過少申告加算税を取り消した事例)を取り上げましょう。
この裁決では、修正申告書を提出した2日後に税務調査があったわけですが、過少申告加算税は課されなかった(取消になった)という事案です。
「国税通則法第65条第3項に規定する「更正があるべきことを予知して」とは、課税庁が当該納税申告書に疑惑を抱き、調査の必要を認めて、現実に納税者に対する質問、帳簿調査等の実地調査又は呼出調査等により当該申告が適正でないことを把握するに至ったことを前提として、納税者が修正申告書を提出する時点で更正のあることを察知していたことを指すものと解すべきであるところ、本件においては、原処分庁の調査担当者が電話で調査日時の取決めをした日後2日を経過して修正申告書の提出があり、更に2日を経過した後に調査があった事実などからみて、請求人は、本件修正申告書を提出する時点で、原処分庁がその調査によって請求人の当初の申告が適正でないことを既に把握していたことを察知していたと認めることはできないから、本件修正申告は、国税通則法第65条第3項に規定する「更正があるべきことを予知して」なされた申告ではない。」
大阪高裁(平成12年11月17日)でも同様の判断基準で、納税者の主張が認められています。
更正の予知の立証責任は誰にあるのか?
ここで、1点だけ注意すべき点があります。
それは東京高裁(昭和61年6月23日)で「修正申告書の提出が更正があるべきことを予知してされたものでないときに例外的に加算税を賦課しないこととした国税通則法65条3項の趣旨からすれば調査により更正があるべきことを予知して修正申告がされたものでないことの主張・立証責任は納税者にあるというべきである」と判示されている点です。
つまり、更正があるべきことを予知していないことの立証責任は納税者にあるとされているのです。
具体的な判断内容は?
本判決の骨子を取り上げましょう。
●原告は調査により申告に係る所得金額ないし税額に脱漏があることが発見され、過少申告が把握されるに至つた後になつて更正を予知してされた修正申告についてのみ加算税を賦課することが許される旨主張するようであるが、そのように解すると、税務職員の調査において前記のような資料を発見された後であっても所得金額ないし税額の脱漏を具体的に把握される前に修正申告を決意し、修正申告書を提出すれば加算税の賦課をのがれうる場合もあることになって前記法条の趣旨に反することとなる。
●修正申告書の提出が更正があるべきことを予知してされたものでないときに例外的に加算税を賦課しないこととした前記法条の趣旨からすれば、右の点については、調査により更正があるべきことを予知して修正申告がされたものでないことの主張・立証責任が原告にあるというべきである。
●これを本件についてみると被告が昭和47年4月3日の原告に対する法人税調査において発見した資料及びその際の○○の態度等からすればその後調査が進行し先の申告が不適正で申告漏れの存することが発覚し更正に至るであろうということが客観的に相当程度の確実性をもって認めるに足りる段階に達したというべきであり、かつ、原告は、右被告の4月3日の調査以前に確定的決意をしていなかつたのであること前記認定のとおりであるから、本件修正申告書の提出は「調査があったことにより…更正があるべきことを予知してされたもの」ということができる。
結果として、「更正があるべきことを予知していない」ということは、
・原則:10%の加算税
・例外:更正の予知に該当しない=加算税が課されない
という例外を適用していることになるので、立証責任は納税者にあるということが判断されているのです。