過少申告加算税の論点を全整理・解説⑨
税務調査
過少申告加算税の論点を全整理・解説⑨

著者プロフィール

久保憂希也

久保 憂希也(くぼ ゆきや)

元国税調査官・株式会社KACHIEL代表取締役 CEO
1977年 和歌山県和歌山市生まれ
1992年 智弁学園和歌山高校入学
1995年 慶應義塾大学経済学部入学
2001年 国税庁入庁、東京国税局配属 医療業、士業、飲食店、不動産関連などの税務調査を担当、また、資料調査課のプロジェクトで芸能人や風俗等の税務調査にも携わる。さらに、東京国税局にて外国人課税に関する税務調査も担当。
2008年 株式会社 InspireConsultingを設立し、税務調査のコンサルタントとして活動し、現在は全国で税務調査対策研究会を開催し、数千名の税理士に税務調査の正しい対応方法を教えている。

過少申告加算税の論点を全整理・解説⑨

 税理士・会計事務所職員にとって、実務上絶対に理解しておかなければならない「加算税」ですが、その法律要件(国税通則法)・事務運営指針(通達)、そしてその解釈、さらには実務的な対応については理解されていないことが多く、また深く学んでみると意外にその判断は難しいことがわかります。
 本稿ではシリーズ(連載)で、「過少申告加算税」について体系的かつ網羅的に解説します(なお、本連載ではわかりやすさを重視し、無申告加算税や加重部分の計算などはあえて省略しています)。
 前回まで過少申告加算税を網羅的に解説してきましたが、第9回目の本稿では、「更正の予知」を争った判決・裁決を取り上げて解説します。

税務調査の途中で修正申告を提出した裁判

 「更正の予知」をいつと判断するのかについては、多数の判決・裁決が存在するのですが、その中でも参考になるものを取り上げておきましょう。

 まず、税務調査の「途中」で修正申告書を提出し、更正の予知が成立しているのか争われた、平成24年9月25日の東京地裁判決を取り上げます。
 上記裁判は、半導体基板の製造及び設計開発等を主たる事業とする株式会社が、法人税の確定申告書の提出期限までに増加償却の届出書を納税地の所轄税務署長に提出することを失念したまま、増加償却を適用していたため、税務調査の「途中」で修正申告書を「自ら」提出した事案です。
 なお、修正申告書の提出「前」に、国税調査官は固定資産台帳や減価償却費明細等の資料を収集していました。

更正の予知とはいつ・どのような状況を指すのか?

 この事案に関し、東京地裁は下記と判断しました。

●国税通則法65条5項が、「調査があったことにより」更正があるべきことを予知したか否かによって、過少申告加算税を賦課するか否かを決することとしていることからすれば、当該調査が納税者の修正申告の自発性の否定につながる内容のものであること、すなわち当初申告が不適正であることの発見につながる調査があったことが要件となっているものと解すべきであり、また、「更正があるべきことを予知し」たとは、単に更正がされる主観的なあるいは一般的抽象的な可能性があるにとどまらず、更正がされることについて客観的に相当程度の確実性がある段階に達した後に、更正に至るべきことを認識したことをいうとするのが相当である。

●そうすると、上記のような国税通則法65条1項及び同条5項の趣旨や文言に照らすと、同項にいう「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないとき」とは、税務職員が申告に係る国税についての調査に着手し、その申告が不適正であることを発見するに足るかあるいはその端緒となる資料を発見し、これによりその後の調査が進行し先の申告が不適正で申告漏れの存することが発覚し更正に至るであろうということが客観的に相当程度の確実性をもって認められる段階(いわゆる「客観的確実時期」)に達した後に、納税者がやがて更正に至るべきことを認識した上で修正申告を決意し修正申告書を提出したものでないことをいうものと解するのが相当である。

●本件修正申告書の提出に至る経緯に関し、(1)原告は、平成16年8月期以降、毎事業年度、増加償却の届出書を西脇税務署長に提出していたが、本件事業年度については本件届出書の提出を失念していたところ、平成21年7月21日に本件臨場調査に備えて準備した資料を確認したことによって、本件届出書の提出を失念している可能性があることに偶然気付いたこと、(2)原告は、本件届出書を提出したかを確認するのと並行して、平成21年7月26日には、修正申告をした場合の納税資金の手配が可能であることを確認し、同月27日には、本件届出書の不提出が確実になったことから、顧問税理士事務所の助言を踏まえ、親会社であるBに対して、延滞税の増加を止めるために速やかに修正申告をすべきである旨主張するとともに、本件修正申告書の提出に向けた準備を開始したこと、(3)原告は、平成21年7月28日、Bから修正申告の指示があった後すぐに、本件修正申告書を提出するとともに追加納税手続を行ったことがそれぞれ認められる。

●このような経緯からすれば、原告は、本件臨場調査そのものによって本件届出書の不提出に気付いたものではないし、不提出に気付いた後は、延滞税の発生を止めるため、可及的速やかに本件修正申告書の提出及び追加納税を行ったものと認められるから、原告は、本件臨場調査における具体的な調査とは直接関係することなく、本件修正申告書の提出をしたものということができる。

●認定事実によれば、原告担当者である乙らは、減価償却計算の適否に関連する質問への回答や資料の提出をしたり、製造装置の現物確認依頼を受けたりしたことにより、本件調査担当者が減価償却計算の適否に係る調査を行っていることを認識していたと認められる。

●また、認定事実によれば、乙らは、平成21年7月24日には本件届出書を提出していないことをほぼ確信していたが、本件修正申告書を提出するまで、そのことを本件調査担当者に告げなかったことが認められるところ、これは、乙らが、本件届出書の不提出を告げれば、そのことを理由に更正がされ過少申告加算税を賦課される可能性があると考えていたからであると推認される。

●しかしながら、原告が本件事業年度において増加償却の特例を適用したことについて、「届出書」提出という要件以外の適用要件が欠落していたことをうかがわせる証拠は存在せず、原告は、本件届出書を提出していなかったことのみをもって増加償却の特例の適用要件を満たさないことになり、ひいては本件確定申告書における申告が不適正なものとなったものであるから、本件において、原告がやがて更正に至るべきことを認識していたというためには、本件届出書の提出という要件を欠いていることが発見されて更正に至るであろうことを原告が認識して修正申告を決意し修正申告書を提出したことが必要であるというべきである。

●本件修正申告書提出時においては、本件調査担当者が本件届出書の確認をすることになることが客観的に相当程度の確実性をもって認められる段階に至っていたとは到底いうことができず、単にそのような一般的抽象的可能性があったにすぎない状況にあったというべきであり、しかも乙らは、本件修正申告書を提出する前に、本件調査担当者から、増加償却の特例の適用要件が充足されているか否かや増加償却計算が適正であるか否かについて質問等をされることは全くなかったことからするならば、乙らにおいて、「届出書」の提出という要件を欠くことが発見されていずれ更正に至るであろうことを認識して本件修正申告書を提出したとは認められない。

●原告は、本件調査担当者において本件確定申告書における申告が不適正であることを発見するに足るかあるいはその端緒となる資料を発見し、これによりその後の調査が進行し先の申告が不適正で申告漏れの存することが発覚し更正に至るであろうということが客観的に相当程度の確実性をもって認められる段階に達する前に、自発的に修正申告を決意し本件修正申告書を提出したものであると認められるから、本件修正申告書の提出は「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない」というべきである。

税務調査が開始されたから加算税ではない

 本連載の第2回および第3回で解説しましたが、「更正の予知」の1つの基準として、税務調査の開始(臨場)が挙げられるわけですが、しかし税務調査が開始された後に修正申告を提出すれば、全てのケースにおいて加算税が課されるというわけではありません。

 調査官が誤りに気付いたのか、納税者本人が誤り等に気付いており、すでにその準備をしていたのかは、かなり大きな差があるということが、上記判決から理解することができるでしょう。
 ぜひ、参考にしてください。