税理士・会計事務所職員にとって、実務上絶対に理解しておかなければならない「加算税」ですが、その法律要件(国税通則法)・事務運営指針(通達)、そしてその解釈、さらには実務的な対応については理解されていないことが多く、また深く学んでみると意外にその判断は難しいことがわかります。
本稿ではシリーズ(連載)で、「過少申告加算税」について体系的かつ網羅的に解説します(なお、本連載ではわかりやすさを重視し、無申告加算税や加重部分の計算などはあえて省略しています)。
第7回目の本稿では、平成28年度税制改正により新たに制定された「調査通知」とその加算税について解説します。
調査通知後の加算税
事前通知後~調査初日前までに(自主)修正申告をすることで、加算税を免れる事例が多発ことにより、税務調査もしくは事前通知の意義が失われるため、平成28年度税制改正によって、(「事前通知」と似て非なる)「調査通知」が新設され、加算税の取扱いが変わりました。
平成29年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税から、下記が適用変更となります。
調査通知以後に提出された(自主)修正申告
⇒
5%(期限内申告税額と50万円のいずれか多い額を超える部分は10%)の過少申告加算税が課される
「加算税制度(国税通則法)の改正のあらまし」
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/sonota/kasan.pdf
「事前通知」と「調査通知」の違い
注意していただきたいのは、【事前通知】と【調査通知】の違いです。
「事前通知」とは、改正前同じ定義で、国税通則法第74条の9に規定する行為です。ここに規定するすべての項目を通知しなければ、「事前通知」の要件を満たしたとは言えません。
一方、「調査通知」とは、
(2)調査の対象となる税目
(3)調査の対象となる期間
の3項目の通知をいいます。
つまり、(正式な)事前通知の前に(簡易的な)調査を行う旨の連絡があった場合でもその後の修正申告に対して加算税が課されるようになった、ということです。
改正前であれば、事前通知という正式な手続きが法的な行為であり、「今度また正式な事前通知はしますが、この連絡は取り急ぎ、今後調査をする旨の連絡です」「とりあえず日程調整させてください」といったものは事前通知になりませんでした(正確には今も事前通知には該当しません)。
一方で、平成29年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税については、上記のような正式な「事前通知」ではなくても、いったんの調査連絡は「調査通知」に該当することになります。
例えば、6月下旬に税務署から連絡があって、「7月以降に税務調査を行いたいが、担当調査官はまだ決まっていない」(7月10日の人事異動後でなければ調査担当者が決められない)などは、事前通知の法的要件を満たしていないものの、新たな定義である「調査通知」には該当するので、その後に提出した修正申告には加算税が課される、ということになります。
調査通知後の加算税を定めた法律規定
改正された加算税に関して、法律規定を確認しましょう。
国税通則法第65条第5項
第1項の規定は、修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合において、その申告に係る国税についての調査に係る第74条の9第1項第4号及び第5号(納税義務者に対する調査の事前通知等)に掲げる事項その他政令で定める事項の通知(次条第6項において「調査通知」という。)がある前に行われたものであるときは、適用しない。
改正前は、「更正の予知」前に提出した修正申告には加算税が課されなかったわけですが、平成29年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税については、更正の予知と合わせて、「調査通知」前でなければ加算税が課されてしまうことになります。
併せて国税の内規も改正されている
この改正にともなって、事務運営指針も改正されていますので、合わせて注意が必要です。
「調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)」
https://www.nta.go.jp/law/jimu-unei/sonota/120912/index.htm
第2章 基本的な事務手続及び留意事項
2 事前通知に関する手続 (1) 事前通知の実施
この場合、事前通知に先立って、納税義務者及び税務代理人の都合を聴取し、必要に応じて調査日程を調整の上、事前通知すべき調査開始日時を決定することに留意する。なお、納税義務者に対して都合を聴取する際は、法第65条第5項に規定する調査通知を併せて行う。おって、調査通知及び事前通知の実施に当たっては、通知事項が正確に伝わるよう分かりやすく丁寧な通知を行うよう努める。
また、本規定の注書にも、一部変更点があります。
(注)3 納税義務者に対して事前通知を行う場合であっても、納税義務者から、事前通知の詳細は税務代理人を通じて通知して差し支えない旨の申立てがあったときは、納税義務者には調査通知のみを行い、その他の事前通知事項は税務代理人を通じて通知することとして差し支えないことに留意する(手続通達7-1)。
国税庁の質疑応答事例も要確認
さらに、下記質疑応答集にも項目が追加されています。
「税務調査手続に関するFAQ(税理士向け)問23」
https://www.nta.go.jp/information/other/data/h24/nozeikankyo/zeirishi.htm#a23
問)平成28年度税制改正において加算税に関する規定が改正され、調査通知以後に修正申告等を提出した場合には新たに加算税が課されることとなりましたが、顧客納税者の方から税務代理を委任されている場合、調査通知はどのようになりますか。
答)平成28年度税制改正において、国税通則法の一部が改正されました。これにより、平成29年1日1日以後に法定申告期限が到来する国税については、国税通則法第65条第5項に規定する調査通知以後、かつ、その調査があることにより更正又は決定があるべきことを予知する前にされた修正申告又は期限後申告に対して、新たに過少申告加算税等が課されることとされましたが、法令上、この調査通知には、「事前通知に関する同意」のある税務代理人(代表する税務代理人を含みます。)に対してする通知を含むものとされています。顧客納税者の方から税務代理を委任されており、「事前通知に関する同意」のある税務代理人である場合には、事前通知と同様に、調査通知は、当該税務代理人に対して行われます。
税制改正の施行後であっても、平成28年以前に法定申告期限をむかえる対象期間については、調査通知後であっても、自主修正申告に対して過少申告加算税は課されません。
過少申告加算税は、「5%」「10%」と段階的に賦課されますので注意してください。