税理士をやっていると、(受けるか受けないかは人によって違いますが)関与していない方から税務調査立会いの依頼(いわゆるスポット対応)を受けることがあるかと思います。
本稿では、スポットの税務調査対応における開示請求について解説します。
税理士が立会いする前の情報は開示されるのか?
顧問税理士がいない法人等に対する税務調査の場合、そもそも会計処理が適正になされているケースの方が少なく、また、すでに税務調査に入っているのであれば、荒い(粗い)調査が実施されている可能性もあります。
さらには、最悪のケースとして、修正申告を提出してしまってから、税理士に相談されることもあります。
事情を聞けば、確かに調査の過程も荒く、また修正申告の内容が明らかに不当であることもあります。
このようなケースにおいて、どのような調査がなされたのか、税務署の資料を開示してもらいたい場合、どのような対応があり得て、またどこまで開示してもらえるのでしょうか。
調査資料の開示について争った裁判
調査資料の開示に関して争った裁判が実際にあります。
福岡地裁平成26年4月21日(Z264-12456)
この裁判の前提は下記です。
- 税務調査に受けて修正申告をし、重加算税を課された納税者(所得税調査)
- この息子が、本調査は調査官の違法な強要行為で錯誤したもので、無効もしくは取り消し得ると主張
- そのため、調査内容と税務署内の記録・指示内容等を開示するよう、訴訟を提起(根拠条文は民事訴訟法第220条第4号)
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あくまでもこの訴訟は、提出した修正申告の取消しを争ったものではなく、その前段階としての調査内容の記録開示を課税庁に求めたものです。
判決の概要は下記となります。
「申立人(基本事件原告)が、税務調査の際の申立人及び甲ら申立人の家族と税務調査の担当者である乙とのやり取りの内容及び調査状況等を明らかにするために証拠調べが必要であるとして、民事訴訟法220条4号に基づき、文書1「個人課税部門重要事案審議会審議表(付表)」・文書2「調査経過等の報告事項」・文書3「調査事績・事項等兼チェックシート」・文書4「担当者自身が自らの備忘を目的として記録したメモ」の提出を求める文書提出命令申立の事案です。
民訴法220条4号ロにいう「公務員の職務上の秘密」とは、公務員の所掌事務に属する秘密だけでなく、それが基本事件において公にされることにより、私人との関係が損なわれ、公務の公正かつ円滑な運営に支障を来すこととなるものも含まれると解すべきである。
文書1・2はその提出により税務行政の適正な執行に著しい支障を生ずる具体的おそれがあるというべきであり、同号ロに該当し、文書4は同号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に該当するから、申立人の主張は採用できない。
相手方は、文書3のうち、事前通知欄の「指示内容」を除く部分、現況調査欄の「指示」部分を除く部分、借用簿書記録欄の提出義務を負う。」
判断の要点は2つ
わかりにくいので、上記を簡単に解説すると、大きく分けて2つの判断がなされています。
(1)税務署の内部資料(調査手法や決裁の基準、調査官個人のメモ・記録など)
=開示されない
(2)調査のやり取りを客観的に示した内容(発言内容や調査した資料等)
=開示される
判断基準としては、「課税調査内部の調査手法」と個別調査の事実等が混在している資料は開示できず、純粋に個別調査のみに関わる情報である(2)だけであれば開示されるとされています。
内部資料には何があるのか?
もちろん、この判決に至った固有の事情はあって、全事案に上記の判断がなされるわけではないでしょう。
その一方で、上記判決にあるような税務署の内部資料は(私もかつて作成していましたが)そのほとんどは税務署内部のために作られるものですから、上記(2)のような客観的な資料は非常に少ないのが事実です。
具体的には、
- 調査官の見解
- 統括官の指示内容(調査前を含む)
さらには、上記判決のように重加算税の場合、副署長または署長の決裁を得るための「重要事案審議会審議表」を別途作成するのですが、法的な判断基準というよりは、(仮装隠ぺいの)事実認定がほとんどですから、客観性がないとはいいませんが、税務署内の主観の塊といえます。
少なくとも、税務調査に関する内部資料を開示請求かけるとすれば、上記(2)のような客観的な資料くらいは開示してもらえる、ということは知っておくべきでしょう。