税賠(税理士賠償責任)については、消費税率が上がり、税制が複雑になればなるほどリスクは高くなる一方で、税賠の対象となる税理士自身が、そのリスクについて正確に把握するのが難しいほどです。
本稿では、税理士が直面する税賠リスクの中でも、顧問先に言わなかった・説明しなかったことによるリスクについて、具体的な判決・裁決を挙げながら解説します。
税理士あるあるの事例でも・・・
まず、債権放棄に関連して、私がよく知る税理士さんが、昨年経験したことを取り上げます。
- 法人Xに10年以上関与している
- X社の社長Aが昨年お亡くなりになった。年齢は67歳で、脳梗塞による急逝
- AがX社に(帳簿上)貸し付けている金額は約1億円
- 法人は継続的に繰越欠損金を抱えている状態
- 親族に後継者はいない
- 相続財産は、法人株以外にも自宅、現預金、さらには上場株式、投資用マンション4室で、課税価額は3億円で、貸付金を含めると4億円
- X社は今後廃業する予定ではあるが、残った従業員約10人だけでも継続して営業できるため、当面は事業を縮小しながらも継続している(Aに対する役員報酬がなくなったので黒字)
この状況で、相続人(事業関連者はいない)から「法人に対する貸付金は、あくまでも事業継続の中で自然発生したものであり、また今後のことを考えても、法人から実際に回収できるものでもないのだから、相続財産に含めないで欲しい」との要望あった、というものです。
貸付金をゼロ評価にすることは現実的に難しい
正直、税理士としてよくある話なのですが、実際のところ貸付金を相続財産に含めないというのはかなり難しい話であることは理解できます。
貸付金をゼロ評価するのはかなり難しく、例えば下記のような判決もあります。概要は、次のとおりです。
- 葬儀請負業を経営する会社の代表者が平成14年に死亡
- 代表者から会社への貸付金は相続時点で1億429万円
- 後継者が相続の2年後の平成16年7月に会社を解散
- 相続人は当初申告で貸付金を相続財産として申告
- その後に貸付金をゼロとして申告書を出し直した
これに対する裁判所の判断は下記です。
- 会社の債務超過のほとんどは親族からの借入金であること
- 銀行からの借入金は遅れずに返済していること
- 相続の前年に葬祭ホールを新築し事業意欲があったこと
- 相続後も後継者が広告宣伝費を使っていること
このような理由で、相続時点では業務を停止し、休業や廃業を準備するなどの事実は認められない、として、相続人が負ける結果となりました。
別事案では、貸付金は回収できるものではないとして、遺産分割協議書で確認していたことから、相続財産に含めず争った事案もあります。
平成14年4月10日裁決
http://www.kfs.go.jp/service/JP/63/27/index.html
もちろん、これで貸付金がゼロ評価になるわけもなく、納税者側が負けているわけです。
「できない」では済まないこともある
話が本論から逸れてしまいましたが、上記税理士の事案では、税理士が相続人に対して「貸付金も相続財産に含めて申告しなければならない」旨を伝えたところ、相続人が違う税理士に相談。
セカンドオピニオンの税理士も、貸付金は相続財産に含めなければならない、と判断しながらも「事前にできることがあったはず」と入れ知恵したことから大変な事態になりました。
「債権放棄する、もしくはDESをかけておけばよく、顧問税理士としてアドバイスすべきであったことをしなかった」
として、税理士賠償責任と問われて、係争になったのです。
いわば、「事後的にできない」と言うなら、「事前に適切な指導・アドバイスがあって然るべき」とする見解です。
「資本金の額」すら説明が必要なのか?
税理士の立場に立てば、「じゃあ何もかも言わないとダメなのか?」となりますが・・・
有名な「言わなかった」の税賠における判決では、税理士が言わなかったことに対して、税理士が実際に負けています。
平成27年5月28日東京地裁
「医療法人設立時に税務上有利となる資本金額に設定すべき義務」【概要】
この事件は、医療法人である原告設立の際、原告代表者であるAが、当時自身の顧問税理士であった被告との間で、その設立手続の一部を被告が行う旨の契約を締結したことに端を発する事案です。原告は、被告税理士が、原告設立時に原告の資本金を設立後2期分の消費税の免除を受けられるなど税務上有利とするために、1000万円未満とするよう、Aに指導すべき義務があったにもかかわらず、これを怠り、原告に設立後2期分の消費税を支払わせるなどの税務上の損害を与えたとして、その賠償を求めたという事案です。原告の設立の主な目的は節税であったことが認められ、そうであるとすれば、Aから相談を受け、設立手続の一部に協力する旨の本件契約を締結した被告としては、その目的に沿うよう、Aに対し、資産総額についても正しく説明・指導する義務があったと認められる。
しかしながら、被告は、消費税については、2期分の免除の適用はない旨、誤った認識に基づく回答をし、設立の際に正しい説明をしたことや、Aの強い希望で資本金額を1億円以上としたことについては全く触れなかったことが認められる。原告は、被告の誤った税務指導により、免除されるはずであった2期分の消費税を支払うことになったものであり、その額は、1574万8300円であることが認められる。
顧問先との信頼関係ということもあるでしょうが、現実的に税理士が「言ったリスク」ではなく、「言わなかったリスク」が問われるわけです。ぜひ、注意してください。