税理士さんと話していると「私の顧問先がいる地域は、権利金の収受をする慣行がないので借地権の認識をしない」と言う方がいるのですが、ほとんどのケースで誤認しています。
本稿では、税務上の借地権があるか・ないかを形式的・外形的に判断できる基準について解説します。
全国的に借地権は存在する
結論からいうと、おそろしく田舎でない限り、どの地域でも借地権(課税)はあります。
私は和歌山出身で、親が不動産業もやっていたこともあり、権利金を収受する慣行がないことは知っています。それでも、関西圏に借地権は存在します。
借地権が存在するかどうかは、実は【形式的】に判断することができます。
まず、前提となる通達規定は下記です。
財産評価基本通達27(借地権の評価)
借地権の価額は、その借地権の目的となっている宅地の自用地としての価額に、当該価額に対する借地権の売買実例価額、精通者意見価格、地代の額等を基として評定した借地権割合がおおむね同一と認められる地域ごとに国税局長の定める割合を乗じて計算した金額によって評価する。ただし、借地権の設定に際し、その設定の対価として通常権利金その他の一時金を支払うなど借地権の取引慣行があると認められる地域以外の地域にある借地権の価額は評価しない。
「取引慣行」は自身で判断できるわけではない
上記の通達規定にある「借地権の取引慣行がある」かどうかの判断をどうすべきなのか、というところが重要な論点です。
ここで判断を誤りがちなのは、
「権利金(その他の一時金)を支払うなどの取引慣行がない」
=借地権を認識しなくていい
という考えです。
取引慣行があるかないかは、税務判断上「私はそんな取引を見たことがない」という主観で通るわけがありません。
非公開ではありますが、裁決でも下記があります。
平成15年10月6日裁決
請求人は、本件契約は、当初、借地権を設定する取引の慣行のなかった時期に締結された土地賃貸借契約の更新契約としてなされた本件旧契約の賃貸期間を更に延長したものであり、また、借地上の自己所有の建物は全く売却できないという状況下にあることから、借地権を有しておらず、本件契約における更新料の支払は、法人税法施行令第139条に定める借地権の更新料の支払には当たらない旨主張する。しかしながら、本件規定の適用については、当初の賃貸借契約締結時に借地権利金を授受する取引慣行がなかったとしても、その後に当該慣行が発生し、本件契約締結時において、借地権を有していれば足りると解することが相当であり、本件土地については、既に本件旧契約及び本件契約において借地権の対価の授受が行なわれていること、及び請求人と賃貸人ともに請求人に借地権があると認めていることから、請求人の主張には理由がない。
借地権の形式基準はこれ!
他の判決・裁決でも明示されていますが、「借地権利金を授受する取引慣行がなかったとしても」(法律上の)借地権が存在する限り課税はなされます。
ここで、税務上の借地権をどのように判断すべきか?という問題に至ります。
税務上借地権が存在するかどうかは、下記の規定により【形式的に】判断することができます。
つまり、
・路線価地域 → 路線価の後ろのアルファベットの有無で判断
=アルファベットがあれば借地権は存在する
・倍率地域 → 「-」か数字の有無で判断
「路線価地域」という理由も無関係
税理士の中には、「路線価地域については、税務上の借地権が絶対存在する」と意見する方がいますが、それは誤っています。
サンプルではありますが、下記のような地域です。
この判断基準を適用すると、よほどの田舎でない限り、税務上の借地権は存在する、ということがわかります。
借地権がないという主張自体が難しい
なお、前提となる話ですが・・・国税は、複数の不動産鑑定士の意見を聴取し、国税局長により上記借地権割合は決めています(通常で3名の意見、借地権割合を変更するには鑑定評価書とする、というのが国税の内規です)。
納税者側として「借地権の取引慣行がない」と主張するためには、納税者側から具体的な根拠の提出が必要となります(つまり立証責任は納税者)。
実際に権利金の収受等がないので税務上の借地権は存在しない、と主張したい気持ちはよくわかりますが、判断は形式基準で判断できてしまいますので、ぜひ注意してください。