措置法における当初申告要件の正しい理解
税務調査
措置法における当初申告要件の正しい理解

著者プロフィール

久保憂希也

久保 憂希也(くぼ ゆきや)

元国税調査官・株式会社KACHIEL代表取締役 CEO
1977年 和歌山県和歌山市生まれ
1992年 智弁学園和歌山高校入学
1995年 慶應義塾大学経済学部入学
2001年 国税庁入庁、東京国税局配属 医療業、士業、飲食店、不動産関連などの税務調査を担当、また、資料調査課のプロジェクトで芸能人や風俗等の税務調査にも携わる。さらに、東京国税局にて外国人課税に関する税務調査も担当。
2008年 株式会社 InspireConsultingを設立し、税務調査のコンサルタントとして活動し、現在は全国で税務調査対策研究会を開催し、数千名の税理士に税務調査の正しい対応方法を教えている。

措置法における当初申告要件の正しい理解

 平成23年12月の改正によって、当初申告要件が緩和されていますが、これに関して勘違いされている方が多いようですので、本稿では特に、措置法における当初申告要件について解説します(法人税関連のみとします)。

当初申告要件の廃止・緩和の分類

 まず、当初申告要件の改正に関する、国税の資料が一番まとまっていますのでそちらをご覧ください。

「いわゆる当初申告要件及び適用額の制限の改正について」
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hojin/120229/pdf/01.pdf

 当初申告要件の改正内容について整理すると、大きくは「法人税法」と「措置法」に分けることができます。この2つに関しては、改正に関する根本が相違します。

法人税法における当初申告要件の廃止・緩和

【1】法人税法

(1)当初申告要件の廃止

 改正された項目について、当初申告において制度の適用を受けていない場合であっても、修正申告書や更正請求書に適用を受けるべき金額など一定の事項を記載した書類を添付することにより、修正申告や更正の請求によって新たに制度の適用を受けることができることになったものです。

(2)適用額の制限の見直し

 上記(1)のうち一部につき、修正申告や更正の請求によって、確定申告書等に添付された書類に記載された適用を受ける金額を増額させることができるようになりました。

 例えばですが、(法人税法の)所得税額控除を当初申告において100万円と記載していた場合、以前は100万円を上限として増額できませんでしたが、現在は増額して更正の請求等をすることができます。

措置法の取扱いはどうなった?

 ここまでは問題ないかと思いますが、勘違いしている方が多いのは措置法の取扱いです。

【2】措置法

(1)当初申告要件の存続

 ここが最も注意すべき点ですが、措置法に関しては当初申告要件は廃止になっていません。
 当初申告にその控除を受ける金額の申告の記載があり、かつ、その控除を受ける金額の計算に関する明細書の添付がある場合に限って適用になるわけです。
 逆に言えば、当初申告において適用を受けていない限り、更正の請求等によって後出しは許されていないのです。

(2)適用額の制限の見直し

 一方で、上記【1】と同じく、当初申告に記載された特定の事項以外の事項として記載された金額に変動がある場合には、修正申告や更正の請求によってその金額を増額できることになったわけです。
 上記「いわゆる当初申告要件及び適用額の制限の改正について」では、試験研究費の例が載っていますが、違う例で解説してみましょう。

 当初申告において、中小企業者等が機械等を取得した場合等の法人税額の特別控除の規定を適用した確定申告書を提出しましたが、税額控除額(取得価額の7%相当額)が法人税額の20%相当額を超えていたので法人税額の20%相当額を控除額としていました。
 税務調査によって売上計上漏れを指摘され、法人税額が増加することとなり修正申告を提出する予定ですが、税額控除における限度額(法人税の20%相当額)も増加するわけですが、この増加した税額控除部分を修正申告における法人税額から控除することができます。

判決でも更正の請求が否定されている

 上記の解釈を誤って、当初申告で措置法の税額控除を受けていなかったものを、更正の請求で税額控除の適用を申請し、争った最新の判決があります。
 判決の全文を読むと、法解釈を争っているのですが、上記のとおり、措置法の当初申告要件を満たしていないため納税者が負けている事案です。

「当初申告において措置法の特例適用を失念した場合の更正の請求の可否」
(平28年7月8日 東京地裁 Z888-2018)
【要旨】
原告が、法人税の確定申告において、措置法42条12の4に規定する特別控除(雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除)の適用を失念していたとして、同条4項に規定する書類を添付し、特例を適用して計算し直した上で更正の請求をしたところ、所沢税務署長から、確定申告書に控除の対象となる雇用者給与等支給増加額等の控除明細書の添付がないなどとして、更正をすべき理由がない旨の通知処分を受けたので、その取消しを求める事案です。争点は、更正の請求により、本件特別控除の適用を受けることができるか否かですが、裁判所は次のように判示し、原告の請求を斥けました。本件特別控除の制度については、いわゆる当初申告要件が設けられているものというべきところ、これは、納税者である法人が、中間申告及び確定申告において同制度の適用を受けることを選択しなかった以上、後になってこれを覆し、同制度の適用を受けることを追加的に選択する趣旨で更正の請求等をすることを許さないこととしたものと解され、中間申告書及び確定申告書に控除明細書の添付がなければ、本件特別控除によって控除される金額はないことになる。原告は法人税確定申告書に控除明細書を添付せず、更正の請求をするに至って初めて控除明細書を添付したのであるから、本件特別控除の適用を受けることはできない。

要旨だけ載せていますが、このような解釈誤りは実務上多いと思いますので、ぜひ注意していただきたいポイントです。