税務調査で録音する行為は許されるのか?
税務調査
税務調査で録音する行為は許されるのか?

著者プロフィール

久保憂希也

久保 憂希也(くぼ ゆきや)

元国税調査官・株式会社KACHIEL代表取締役 CEO
1977年 和歌山県和歌山市生まれ
1992年 智弁学園和歌山高校入学
1995年 慶應義塾大学経済学部入学
2001年 国税庁入庁、東京国税局配属 医療業、士業、飲食店、不動産関連などの税務調査を担当、また、資料調査課のプロジェクトで芸能人や風俗等の税務調査にも携わる。さらに、東京国税局にて外国人課税に関する税務調査も担当。
2008年 株式会社 InspireConsultingを設立し、税務調査のコンサルタントとして活動し、現在は全国で税務調査対策研究会を開催し、数千名の税理士に税務調査の正しい対応方法を教えている。

税務調査で録音する行為は許されるのか?

 税務調査においては、口頭やり取りの証拠として、常に録音を取るべきだと考えますが、「税務調査で録音していいという法的根拠は何か?」「録音している事実が見つかったらどうなるのか?」など、実際にはリスクを感じる税理士・会計事務所も多いようです。
 本稿では税務調査を録音するということについて、掘り下げて解説していきましょう。

録音がバレるとトラブルにはなりそう

 つい先日、税務調査で録音していた事実が調査官にバレてしまい「税務署の許可を得たのか?」「そのレコーダーはあなた(税理士)のものか?」と追及されている事案の相談を受けました。
 私は個人的に、税務調査での録音は必須だと思っていますし、実際に録音している税理士が録音の事実を追及された事実を初めて聞いたので、少しばかり驚いています。
 私の経験上でいえば、税理士が録音したデータを編集して、税務署長に送ったという事実を何度も見たことがあります(そのほとんどが調査官の言動に問題になった事案です)。それでも、録音を撮っていた事実に対して追及されたことはありませんでした。

税務調査の録音について争った裁決事例

 まず、税務調査中の録音について争った裁判・不服申立てが少ない中で、調べてみると下記の裁決が目立つ結果となります。

「レコーダーを作動させることに固執し帳簿書類を提示しなかったことは青色申告の承認の取消事由に該当するとした事例」(平成24年6月1日裁決)
http://www.kfs.go.jp/service/JP/87/10/index.html

 この裁決は、「税理士が録音を撮ったから」問題になったのではなく、「(調査官が気付くと知りながら)録音を撮ろうとし、それを断れたにもかかわらず、録音に固執した結果、帳簿書類を提示しなかった」ことで、青色の取消になった事案です。
 この裁決(の前提)をきちんと読まずに、「調査での録音=青色取消し」と短絡的に認識されると、まったく違った判断になります。

【要旨】
請求人は、調査担当職員の求めに応じて帳簿書類を提示したのであるから、青色申告の承認の取消処分は違法である旨主張する。しかしながら、請求人が主張する帳簿書類の提示は代理人である税理士がレコーダーを作動又は作動させる準備がされた状況下でのことであるところ、本件調査においてレコーダーによる会話の録音が必要であったとは認められず、調査担当職員が当該録音され得る状態での帳簿書類の検査を実施しなかった措置は相当である。そして、調査担当職員が、当該税理士に対してレコーダーによる会話の録音がない状態で帳簿書類を提示するよう求めたにも関わらず、当該税理士は、レコーダーを作動させることに固執し帳簿書類を提示せず、また、請求人も、当該税理士に任せているとして帳簿書類を提示しなかったのであるから、請求人は、正当な理由がないまま帳簿書類を提示しなかったことになるのであり、このことは、所得税法第150条《青色申告の承認の取消し》第1項第1号に規定する青色申告の承認の取消事由に該当する。

録音がバレた場合の主張内容を整理

 まず調査実務として、調査の録音を撮るのであれば調査官には内緒で撮ることが前提になります。
 結果として、調査官に録音の事実がバレた、もしくは、調査でモメたので録音の事実を公開した場合において、調査官に主張すべきは下記の3点になります。

(1)法律規定

 税務調査において、納税者には「受忍義務」が課されています。これは、国税がもつ質問検査権に対して、罰則を定めたものであり、具体的には国税通則法第127条に定められています。
 この中に「(税務調査で)録音してはならない」という規定がない以上は、国税から明確に録音した事実を訴追されるいわれはないことになります。

(2)守秘義務

 上記の裁決(判断文)の中にもありますが、税務調査における「守秘義務」をもって録音を問題視する調査官もいます。
 しかし、守秘義務は調査官に課せられた義務であって、納税者の秘密を納税者が録音するわけですから、守秘義務の論点にされるのは筋違いです。

(3)記録としての録音

 税務調査を納税者が録音することは「記録」であって、「盗聴」には該当しません。
 盗聴は、自らが居ないところで他人の会話を録音することであって、自らの会話を録音すればそれは「記録」になります。会話の内容を書き起こして議事録を作成するのと、録音することは何ら変わらない行為です。

秘密録音は許されるのか?

 税務調査の録音データが明るみにした・なった場合において、その「証拠能力」はどうなるのでしょうか?
 上記の公開裁決事例では、調査官が録音を拒否したことに関して、「相当の措置」=「適法」としています。
 だからといって、立会いをしている調査官に対して事前の承諾を得ない「秘密録音」が、法的に違法もしくは否定されているわけではありません。
 例えば、2000年2月25日の京都地裁判例(青色申告を取り消された個人事業者が、取消処分の取り消しを求めた裁判で、納税者全面勝訴の確定判決)では、下記のように判断されています。

「違法な調査を受けた原告が、・・・(中略)・・・再度違法な調査がなされないようするため、第三者の立ち会いを要求し、調査の様子を撮影・録音することにやむを得ない面がある」

 個別的な事情や背景があるにせよ、納税者側の録音や撮影を認めた裁判はあるわけです。
 繰り返しになりますが、税務調査を秘密録音することを禁じた法律はありません。

内緒で録音した内容は証拠能力があるのか?

 では、秘密録音した内容の「証拠能力」は法的にどうなるのでしょうか?
 論点としては、調査官に内緒で録音したわけなので、税務署に対してはもちろん、不服申立て・裁判になった際にその録音データはそもそも有効かどうかです。
 これはもはや、税務(調査)の範疇を超えて民事訴訟法の範囲となりますが・・・
 昭和52年7月15日東京高裁判決(判時867号60頁)では、下記のように判断されています。

「民事訴訟法は、いわゆる証拠能力に関しては何ら規定するところがなく、当事者が挙証の用に供する証拠は、一般的に証拠価値はともかく、その証拠能力はこれを肯定すべきものと解すべきことはいうまでもないところであるが、その証拠が、著しく反社会的な手段を用いて、人の精神的肉体的自由を拘束する等の人格権侵害を伴う方法によつて採集されたものであるときは、それ自体違法の評価を受け、その証拠能力を否定されてもやむを得ないものというべきである。そして話者の同意なくしてなされた録音テープは、通常話者の一般的人格権の侵害となり「得る」ことは明らかであるから、その証拠能力の適否の判定に当つては、その録音の手段方法が著しく反社会的と認められるか否かを基準とすべきものと解するのが相当であり、これを本件についてみるに、右録音は、酒席における石上らの発言供述を、単に同人ら不知の間に録取したものであるにとどまり、いまだ同人らの人格権を著しく反社会的な手段方法で侵害したものということはできないから、右録音テープは、証拠能力を有するものと認めるべきである。」

 このように、秘密録音であっても、「証拠能力は有する」と解釈されており、「その証拠が、著しく反社会的な手段を用いて、人の精神的肉体的自由を拘束する等の人格権侵害を伴う方法によつて採集されたものであるとき」に限って、証拠能力がないと判断されているわけです。

 税務調査をただ単純に録音するわけですから、当然に証拠能力はある、と結論付けることができます。
 この点からも、何か税務署に対して秘密録音を指摘・否定されるいわれがないことがわかります。

税務調査を録音しなければならない理由

 最後になりますが、税務調査を録音しなければならない理由を列挙しておきます。

  • 言った言わないのトラブルを避ける
  • 違法な税務調査を訴える際に録音を使う(具体的な発言や、語気の強さ):修正申告の強要など
  • 税務署の誤指導があったことを証明する:これにより加算税がなくなります
  • 立証責任が納税者側にある場合の証拠として使う
  • 不服申立てや裁判での証拠資料として使う

 税務調査を録音することは必須です。録音しなかったために、こちらの主張が通らない、不当な調査が行われたケースが後を絶ちません。ぜひ、すぐに実行してください。