私は那覇で記帳代行会社を経営していますが、その中で毎回質問を受けるのが、摘要欄(相手方)の入力です。
株式会社Create Accounting Value本稿では、摘要欄に入力しない、もしくは簡易的に入力することによって、仕入税額控除が認めらないことがあるのかについて解説します。
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税務調査での現実
摘要欄も、売掛金のように後で検索の必要性が実務上生じるものに関しては、当然に入力するわけですが、検索等の必要性がない支出・経費等について入力が必要なのでしょうか。
私は今まで、「領収書等の保存がないから仕入税額控除を認められない」と否認指摘された調査事案を数多く相談されましたが、摘要欄に記載がないからという理由で仕入税額控除の否認指摘を受けた調査事案を経験したことがありません。
仕入税額控除の法的要件
では、法律要件を確認してみましょう。
消費税法第30条第7項(カッコ書きを除く)
第一項の規定は、事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れ、特定課税仕入れ又は課税貨物に係る課税仕入れ等の税額については、適用しない。(以下、省略)
ここにいう帳簿の定義は下記に規定されています。いわゆる「4要件」です。
消費税法第30条第8項第1号
課税仕入れ等の税額が課税仕入れに係るものである場合には、次に掲げる事項が記載されているもの
イ 課税仕入れの相手方の氏名又は名称
ロ 課税仕入れを行つた年月日
ハ 課税仕入れに係る資産又は役務の内容
ニ 第一項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額
ここに規定されている通り、法律を厳格に守るのであれば、「課税仕入れの相手方の氏名又は名称」がなければ消費税の仕入税額控除は認められないことになります。
虚偽記載の裁決事例
例えば、摘要欄に記載があっても、それが本当の相手方でない場合、仕入税額控除を認めないとした裁決事例があります。
「真実の仕入先の名称等が記載されていない帳簿等は消費税法第30条第7項に規定する帳簿保存要件を満たす帳簿等には該当しないから、これに係る消費税の仕入税額控除は認められないとした事例」
https://www.kfs.go.jp/service/JP/77/32/index.html
この裁決事例は、摘要欄に記載がなかったから仕入税額控除が認められなかった事案ではなく、あくまでもウソの相手方を記載していたから否認された(納税者が負けた)事案です。
摘要欄がなくても認められた裁決事例
さて、摘要欄の記載がないどころか、請求書等がないことで仕入税額控除が認められない調査事案もありますが、実はこのようなケースでも納税者が勝っています(勝った裁決があります)。
「請求人が提示した出面帳に記載された事項のうち、法定記載要件を具備している部分については、課税仕入れ等の税額に係る帳簿に該当するとして、消費税の納付すべき税額の計算上、当該部分に係る仕入税額控除の適用を認めた事例」
https://www.kfs.go.jp/service/JP/82/19/index.html
この裁決の中で重要な部分は、
「法定帳簿については、課税仕入れに係る
(1)相手方氏名等
(2)課税仕入れの年月日
(3)その役務等の内容
(4)支払対価の額の法定記載事項
の各記載が必要であり、これらの要件を欠く帳簿は法定帳簿として認めることはできないものの、本件出面帳の記載内容等を法定帳簿の保存を法が定めた趣旨に照らせば、本件出面帳のうち、法定記載事項のすべてを満たしていると認められる部分のみを法定帳簿と認めることが法定帳簿の保存を定めた法の趣旨に反するとはいえない」、と判断していることです。
簡単に書けば、「帳簿の法定要件は満たしていなくても、原資帳票類などを見てわかるのであれば仕入税額控除を認める」と判断しているわけです。
税務調査で確認できれば問題はない
この裁決内容にどこまでも汎用性があるのか、確定的なことは言えませんが、少なくとも原資帳票類の保存がきちんとされている限り、摘要欄をすべて細かく入力する必要はないでしょう。
税務調査においては、摘要欄を形式的に見るだけで否認判断をするわけではなく、あくまでもその支出が存在し、支出内容が確認できれば仕入税額控除は認められるはずです。