法人税の税務調査においては、「寄付金」とする否認指摘を受けるケースも多くあります。
法人税法第37条では、贈与もしくは低廉譲渡による寄付金課税を定めていることから、無償取引や時価と乖離した取引が問題視されるわけです。
本稿では、税務調査でよくある「価格差がある」場合の寄付金課税について解説します。
家賃が高いと寄付金になるのか?
法人に対する税務調査において、寄付金の否認指摘を受ける場合、いくつかのパターンに分かれるのですが、1つは「支払い金額が高い」という指摘です。
例えば、「事務所家賃(単価)が高い」という否認指摘を受けたとしましょう。
事務所家賃が@20,000円/坪だとして、まったく同じ間取りの1階上が入居者募集中。入居条件が@16,000円/坪だったとします(別テナントが@16,000円/坪で入居している場合でも同じです)。
この場合、差額の@4,000円/坪×面積が寄付金に該当するのか、という論点が生じます。
確かに、現在の「時価」は@16,000円/坪ということなのでしょうが、これが寄付金にならないことは理解できるかと思います。
なぜなら事務所家賃の場合、過去に入居した条件(@20,000円/坪)が入居中は引き継がれるのが一般的な経済取引であって、毎年家賃の見直しをするわけではありませんから、いくら家賃時価が下がっていても契約時の条件が時価、と理解できるわけです。
合理的理由はいくらでも存在する
もう少し考えてみると、家賃時価が下がっているという事実を知っていたとしても、
- オフィスを引っ越すのが面倒(引っ越しには時間も労力もかかります)
- 退去すれば原状回復費など追加的な費用がかかる
- キャッシュフロー上、保証金の負担が生じる
- 造作などをやり直すのに追加的な費用がかかる
などの理由で、いちいち引っ越しをしてまで家賃を下げない方が合理的とも考えられます。
ですから、突き詰めて考えると、現在の時価と実際の支払い金額に乖離があったとしても、それが寄付金になるとは言い切れないのです。
相手が相違するだけで売価は変わる
上記の例でいうと、過去の時価と現在の時価に乖離があるだけであって、それは寄付金にはならない、という考え方です。
同じ不動産の事情であっても、別のケースがあります。例えば、不動産を売却する場合。
同じ物件にもかかわらず、エンドユーザーに売却するのと、不動産業者に売却するのとでは、かなりの価格差になることがよくあります。
不動産業者に売却した方が安くなりがちなのですが、それにはいくつかの理由があって、
- 購入者を早く見つけることができる(個人の購入者を見つけるのはかなり大変)
- 売却(購入)までの意思決定が早い(業者は資金を保有し、かつ購入慣れているため購入物件の査定が早い)
などが考えられます。
一物は一価ではない
このように、「現時点の時価」と簡単に言っても、売却・購入者によって価格差がある以上、実際のところは「一物一価」にはなっていません。あくまでも、「最安値=時価」ではないのです。
また、事務所家賃の場合は、物件や家主によっては「保証金が安い(もしくは無い)から家賃が高い」(逆に保証金が多額で家賃が高い物件もあります)こともあり、家賃だけにフォーカスすると正確な時価がわからないケースもあります。
不動産に限らず、他の経済取引でもまったく同じことがいえます。
例えば、法人が事務用消耗品を購入するということを考えてみても、
- 納期が早い
- アフターフォローが良い
- 融通がきく(在庫を抱えてくれる)
- 支払いサイトが長い
などの理由から、もっと安く購入できる業者を知っていながらも、あえて高い業者から購入するという意思決定は、むしろ合理性があります。
結局のところ、時価と実際の支払い金額に乖離がある場合、値段以外の「経済合理性」や(高い金額を払っている)「明確な理由」があるかどうかが、調査での反論ポイントになります。
価格差がある場合の寄付金指摘には、上記のように、合理性がある理由を並べることで反論が可能ですので、ぜひ参考にしてください。