M&Aにおいてデューデリをしていると、動産の評価が必要なケースにぶつかるケースが多くあります。
また、動産を同族間売買するケースについて質問を受けることもありますが、こちらも同じで動産の適正価格=時価を算出することは極めて難しいです。
本稿では、動産評価において税務リスクがある場合を解説します。
動産評価はどの専門家がするのか?
動産評価には、明確な資格は存在しません。
不動産鑑定士であっても、動産については、不動産鑑定評価法の対象外になっています。
動産評価に関する民間資格などはいくつかあるようですが、公的かつ独占資格ではないため、依頼・取得した動産評価書が適正である保証はないことになります。
ですから一般的には、動産評価を専門家に依頼する場合、資格による判別はできないことから、動産評価の経験などをヒアリングしたうえで依頼を判断することになります。
設備・機械の評価
さて、評価が必要な「動産」といっても範囲が広く、私が経験したもっともハードルの高かった動産評価はワイナリーです(不動産と動産に分けての評価)。
そもそも、不動産と動産部分を切り分けること自体が非常に難しく、不動産に帰属させる収益の切分け(事業分析)まで必要になります。
実務上、ここまでではなくとも、よく出てくるのが事業用の機械や設備です。
工場など設備がある法人を、株式譲渡ではなく、工場・設備だけで買う場合、当然時価譲渡が必要になるわけですが、簿価と時価(鑑定価格)が乖離しているケースが非常に多いです。
また、M&Aの実例として、産廃業者の案件がありました。産廃業者の創業者が高齢であり、かつ後継ぎがいないため社員たちがスピンアウトして新会社を設立。
もとからある産廃の設備、および不動産等をすべて賃借して、営業を続けるスキームで、創業者は産廃業務を実質的にやることなく、賃貸料収入を得ることができます。
この適正賃貸料を算出する場合、非常に難しいのは機械・設備の賃貸料を算出することです。
なぜなら、実際に使用できる耐用年数と税務上の耐用年数とに大きな乖離があるので、簿価から賃貸料を算出してしまうと、到底適正な賃貸料が算出できないことになります。
税務における裁決では
税務から動産鑑定を考えるため、具体的な裁決をみてみましょう。
下記裁決は、関係会社間において船舶の売買を行い、適正な譲渡価格について争われた事案です。
「固定資産税評価額で売買された船舶/適正額(請求人評価額)との差額は寄附金」法人税法には、船舶を譲渡した場合における適正な価額を評価する方法についての定めがないことから、船舶の適正な価額の算定に当たっては、船舶の事実的支配が移転した時点における現況を考慮した評価方法によるべきである。請求人が、コストアプローチ(原価法)、マーケットアプローチ(取引事例比較法)及びインカムアプローチ(収益還元法)の三方式の中からコストアプローチによる評価額を採用したことについて合理性が担保されているといえる。請求人評価額は、船舶の事実的支配が移転した時点における現況を考慮し、合理的かつ適切な評価方法により算定されたものといえることから、請求人評価額をもって適正な価額と認めることが相当である。請求人は、船舶の譲渡において、関連法人に対して適正な価額と取引金額(固定資産税評価額)の差額に相当する金額を実質的に贈与したものというべきであり、その差額は法人税法第37条第1項の寄附金に該当する。
(平28-05-19 非公開裁決 一部取消し)
このように、船舶について固定資産税評価額ではなく、あくまでも動産評価=時価であって、その差額が寄付金と認定されているのです。
動産評価の注意点
ここでの論点は、動産の「時価」はどのように算出すべき、という点に集約されるわけですが、簿価や固定資産税評価額と、「第三者と取引するなら」という場合で考えた時価に、大きな乖離があるケースが多いので、注意が必要になるというわけです。
動産評価については、安易に簿価や固定資産税評価額を採用して申告等をした事案を散見しますが、時価を算出するためには、上記裁決にもある通り、3つの手法を使って算出したうえで、その中で適正額を採用する、もしくはミックスして算出することになります。
動産評価についても否認されている事案が増えていますので、ぜひ注意してください。