個人事業主の会費は必要経費か?
個人事業主の会費は必要経費か?

著者プロフィール

久保憂希也

久保 憂希也(くぼ ゆきや)

元国税調査官・株式会社KACHIEL代表取締役 CEO
1977年 和歌山県和歌山市生まれ
1992年 智弁学園和歌山高校入学
1995年 慶應義塾大学経済学部入学
2001年 国税庁入庁、東京国税局配属 医療業、士業、飲食店、不動産関連などの税務調査を担当、また、資料調査課のプロジェクトで芸能人や風俗等の税務調査にも携わる。さらに、東京国税局にて外国人課税に関する税務調査も担当。
2008年 株式会社 InspireConsultingを設立し、税務調査のコンサルタントとして活動し、現在は全国で税務調査対策研究会を開催し、数千名の税理士に税務調査の正しい対応方法を教えている。

個人事業主の会費は必要経費か?

 個人事業主が支払った「会費」については、その事業関連性および家事費との切り分けの中で、必要経費として認められるかは非常に難しい論点です。
 この論点を大きく争った「仙台の弁護士事件」(東京高裁平成24年9月19日判決)はいまだ記憶に新しく、個人事業主が支払った会費に着目される機会が増えました。
 本稿では、所得税法における会費の必要経費性について解説します。

最近の裁決事例

 最近になってTAINSに収録された非公開裁決でも、弁護士が支払ったロータリークラブの会費について、必要経費にならないと判断されています。

「ロータリークラブの会費は必要経費に算入されるか否か」
(平28-07-19 非公開裁決 棄却 F0-1-651)
【要旨】
弁護士業を営む請求人が、ロータリークラブの会費を事業所得の金額の計算上必要経費に算入して申告したところ、原処分庁が、当該会費は必要経費に算入されないとして所得税等の更正処分等をした事案です。審判所は、次のように判断し、請求人の主張を棄却しました。本件ロータリークラブは、定款に従って、各種の奉仕活動等をしていたものと認められるが、請求人が本件クラブの会員として行う活動を社会通念に照らして客観的にみれば、その活動はいずれも営利性、有償性を有しておらず、請求人が弁護士としてその計算と危険において報酬を得ることを目的として継続的に法律事務を行う経済活動に該当するものではないというべきである。本件各会費は、請求人が本件クラブの会員であることから支出したものであり、請求人の所得を生ずべき事業と直接関係し、かつ、当該事業の遂行上必要であるとは認められず、事業所得の金額の計算上必要経費に算入されない。請求人は、所得税法第37条第1項に規定する「所得を生ずべき業務について生じた費用」の解釈について、東京高裁判決(平24年9月19日・Z262-12040)が判示するとおり、法令の文言の解釈を逸脱している旨主張するが、高裁判決は、弁護士が、弁護士会等の役員等として行う活動で支出した費用の一部について、必要経費に算入することを認めた事案であって、かかる事情を認めることができない本件とは事案を異にするものといわざるを得ない。

ロータリークラブの会費は?

 ロータリークラブの会費だけに着目するわけではないですが、以前から会費については必要経費にならないとする公開裁決が公表されています。

「ロータリークラブの会費等は必要経費に算入できないとした事例」
(平成26年3月6日裁決) https://www.kfs.go.jp/service/JP/94/03/index.html
【要旨】
本事例は、司法書士業を営む請求人が支出したロータリークラブの入会金及び会費は、請求人が当該クラブの会員として行った活動を社会通念に照らして客観的にみれば、その活動は、司法書士の業務と直接関係するものということはできず、また、その活動が司法書士としての業務の遂行上必要なものということはできないため、事業所得の金額の計算上、必要経費に算入することはできないとしたものである。

広く「諸会費」の必要経費性は?

 歯科医が諸会費として必要経費に計上していた「同窓会費、共済負担金、英会話研修費、旅費交通費、同窓会主催旅行の参加費用等」がすべて否認された公開裁決もあります。

「請求人が支出した諸会費等が家事関連費に該当するとしても、業務の遂行上直接必要な部分を明らかにすることができないから、必要経費の額に算入することはできないとした事例」
(平成13年3月30日裁決) https://www.kfs.go.jp/service/JP/61/12/index.html
【要旨】
請求人は、同人が支出した諸会費等(同窓会費、共済負担金、英会話研修費、旅費交通費、同窓会主催旅行の参加費用等)は、請求人の業務の遂行上必要な経費であるから、必要経費の額に算入すべきである旨主張する。しかしながら、支出した経費が、業務の遂行上直接必要である場合はもちろんのこと、それが家事関連費であっても、[1]その主たる部分が業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分できる場合、及び[2]青色申告であれば取引の記録等に基づき業務の遂行上直接必要な部分を明らかにすることができる場合に、それぞれその明らかな部分を必要経費に算入することができることとされているところ、請求人の主張する諸会費等はいずれも家事費又は家事関連費と認められ、家事関連費に該当するとしても、業務の遂行上直接必要な部分を明らかにすることはできないから、これを必要経費の額に算入することはできない。

必要経費の論点・判断基準は何か?

 上記取り上げたこれら裁決事例の論点はすべて同じで、

業務と直接の関連性がない支出
家事関連費だとしても明確に区分ができない

から、必要経費にはならないと判断されています。

 もちろん、本業に必要な支出に関しては、必要経費と判断されている事案も存在します。

「歯科医師が実施した歯科技工に関する研修及び研究開発等に関係会社の歯科技工士等が参加協力したことに対して支出した金品は当該歯科医師の事業所得の金額の計算上必要経費に該当するとした事例」
(昭和61年1月27日裁決)
https://www.kfs.go.jp/service/MP/02/0403020000.html

会費を必要経費に算入する場合の実務的対応

 顧問先の要望により、会費等の支出に関して必要経費に入れるのは、税理士・会計事務所としてはむしろ当然の処理・対応かとは思いますが・・・
 ここまで会費等について必要経費にならない裁決・判決が出ていれば、税務調査で反論することは実質的にムリがあるとも考えます。

 私への相談・質問の中でも「なんとかなりませんか?」というものがありますが、税務調査では「この会費を支払ったことにより生じた売上があります」ということを主張するくらいで、それが通ればいいのでしょうが、裁決・判決を持ち出されると反論は難しいのが事実です。

 会費を支払った会に参加し、本当に仕事を受注できていたとしても、ロータリーなどの会則を見れば、目的はそうではないことが明白です。
 個人事業主の会費については、顧問先に否認リスクがあることを事前に説明しておく必要性があると言えます。