税務調査は最終的に「落としどころ」「交渉」なのは理解できますが、調査官の中には明らかに納税者不利な提示をしてくる担当者もいます。
本稿では、税務調査の終盤でよくある、修正申告と更正の年分相違について解説します。
調査官は修正申告に誘導する
税務調査において、調査官が修正申告に誘導するために言う
「修正申告なら3年分でいいですが、更正となる5年になりますが、それでもいいですか?」
という内容は、法的に問題がないのでしょうか?
調査官がこのように言うのは、もちろん更正をするのが面倒なので、修正申告で終わらせて欲しい、という本音からくるものです。
一方で、この発言は法的にいくつもの問題があります。この点を整理して解説しましょう。
そもそも税務調査の対象期間は延伸できるのか?
まず、更正の除斥期間は、原則として「5年」と定められています(国税通則法第70条(1))。ですから、調査において「更正するなら5年できます」の部分は問題ないことになります。
しかし、税務署が5年分更正をするのであれば、税務調査を5年分しなければなりません。
事前通知において「3年分」とした調査期間を、2年分追加して5年分にするには、まずその法的要件を満たしている必要があります。
国税通則法第74条の9第4項
第一項の規定は、当該職員が、当該調査により当該調査に係る同項第三号から第六号までに掲げる事項以外の事項について非違が疑われることとなつた場合において、当該事項に関し質問検査等を行うことを妨げるものではない。この場合において、同項の規定は、当該事項に関する質問検査等については、適用しない
「調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)」3 調査時における手続
https://www.nta.go.jp/law/jimu-unei/sonota/120912/index.htm
(2) 通知事項以外の事項についての調査
納税義務者に対する実地の調査において、納税義務者に対し、通知した事項(上記2(3)注2に規定する場合における通知事項を含む。)以外の事項について非違が疑われた場合には、納税義務者に対し調査対象に追加する税目、期間等を説明し理解と協力を得た上で、調査対象に追加する事項についての質問検査等を行う。
修正申告の勧奨とは法的にどのような行為か?
さて、ここでは調査期間が延びる要件を満たしていた、としましょう。そうだとしても、調査官の発言は法的に問題があります。
税務調査の終了には3つのパターンがあり、下記となります。
2 更正
3 修正申告の勧奨
これを法的に分類すると、更正は国税からの「処分」となりますが、修正申告の勧奨は「行政指導」となります。
行政指導の法的効果については、行政手続法に定められているのですが、その中に下記の規定があります。
行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない。
この法律規定を修正申告の勧奨に置き換えると、
「納税者が修正申告の勧奨に従わなかったことを理由として調査官は不利益な取扱いをしてはならない」
となります。
調査官のこの発言は違法!
ここからわかる通り、修正申告をしたら3年分で済むが、更正であれば不利益となる5年分になる、という発言は、行政手続法違反に該当するのです。
実際に、国税庁のホームページに下記記載もあります。
「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」
https://www.nta.go.jp/information/other/data/h24/nozeikankyo/ippan02.htm問25
調査結果の内容説明を受けた後、調査担当者から修正申告を行うよう勧奨されましたが、勧奨には応じなければいけませんか。また、勧奨に応じないために不利な取扱いを受けることはないのでしょうか。
(回答)
調査の結果、更正決定等をすべきと認められる非違がある場合には、その内容を説明する際に、原則として、修正申告(又は期限後申告)を勧奨することとしています。これは、申告に問題がある場合には、納税者の方が自ら是正することが今後の適正申告に資することとなり、申告納税制度の趣旨に適うものと考えられるためです。この修正申告の勧奨に応じるかどうかは、あくまでも納税者の方の任意の判断であり、修正申告の勧奨に応じていただけない場合には、調査結果に基づき更正等の処分を行うこととなりますが、修正申告の勧奨に応じなかったからといって、修正申告に応じた場合と比較して不利な取扱いを受けることは基本的にはありません。
調査官は自らの事情として、修正申告を提出するように誘導してきますし、修正申告の方が得をする、という発言もしてきます。
それらの発言・行為は、時として違法性を帯びているので、ぜひ注意してください。