全社員の会合は交際費か福利厚生費か
全社員の会合は交際費か福利厚生費か?

著者プロフィール

久保憂希也

久保 憂希也(くぼ ゆきや)

元国税調査官・株式会社KACHIEL代表取締役 CEO
1977年 和歌山県和歌山市生まれ
1992年 智弁学園和歌山高校入学
1995年 慶應義塾大学経済学部入学
2001年 国税庁入庁、東京国税局配属 医療業、士業、飲食店、不動産関連などの税務調査を担当、また、資料調査課のプロジェクトで芸能人や風俗等の税務調査にも携わる。さらに、東京国税局にて外国人課税に関する税務調査も担当。
2008年 株式会社 InspireConsultingを設立し、税務調査のコンサルタントとして活動し、現在は全国で税務調査対策研究会を開催し、数千名の税理士に税務調査の正しい対応方法を教えている。

全社員の会合は交際費か福利厚生費か?

 税務判断を行ううえで非常に難しい論点として、社内イベントにかかる費用が、福利厚生費なのか交際費なのかという区分けがあります。
 本稿では、この論点に関するかなり興味深い判決を紹介し、解説します。

前提となる事実が興味深い裁判

 取り上げるのは福岡地裁平成29年4月25日の判決で、専ら従業員等の慰安のために行われた「感謝の集い」にかかる費用を、福利厚生費として処理していたものを税務調査において交際費として否認された事案です。

 この裁判で争われた税務判断とは直接的には関係ないのですが、この会社および代表者の状況・経緯は非常に興味深いものがあります。判決文の中から、一部だけ引用します。

「累積赤字48億4000万円、固定化債権105億円、借入金 171億円を有し、債務超過の状態であって、十数年来倒産すると言われ続け、従業員に生気はなく、誇りや自信を喪失した状況にあった。原告代表者は、同年、代表取締役社長に就任して再建に着手し、従業員に対し「自分がされて嬉しいことを人にしなさい等の「当たり前のこと」を言い続けるとともに、「どこよりもいい商品をどこよりも安く作り、安売りせずに適正価格で売り切る体制」を整備した結果、社長就任後2年で累積赤字を解消し、その後、グループ会社も全て黒字化して無借金経営とした。」

 税務調査の対象となった期間の利益等を見ても、その後継続的に莫大な利益をあげ続けています。まさに立志伝中の社長のようです。

従業員全員を対象とした全社の集まり

 さて、この法人ですが業種は「養鶏事業、食肉等食料品の販売事業」で、工場を含めて7事業所を保有しています。
 従業員数も1000人を超えており、マネジメントのために年に1回「感謝の集い」と称する全社の集まりを開催しています。

「本件行事の目的は、原告が原告代表者のリーダーシップの下、生産及び販売体制の整備によって債務超過による倒産の危機を乗り越え、グループ会社を含めて黒字経営となったという経営再建の歴史的経緯を踏まえて、原告代表者が、その原動力となった従業員に感謝の気持ちを伝えて労苦に報いるとともに、従業員の労働意欲をさらに向上させ、従業員同士の一体感や会社に対する忠誠心を醸成することにあった。そして、このように従業員の一体感や会社に対する忠誠心を醸成して、さらなる労働意欲の向上を図るためには、従業員全員において非日常的な体験を共有してもらうことが、有効、必要であると考えられる。」

国税が交際費とした論点とは?

 国税側が交際費とした論点は大きく2つです。

①交際費と福利厚生費の(法的)区分

「本件行事は、原告及び協力会社等の全従業員を対象としており、これらの従業員は、措置法61条の4第3項の「その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等」に該当することから、「交際費等」に該当する支出の相手方となる。また、本件行事は、参加者の慰安を目的として飲食の提供及びコンサート鑑賞を行ったものである。したがって、本件行事に係る支出は、措置法61条の4第3項柱書の「交際費等」に該当する要件を満たしている。」

②金額基準

「措置法61条の4第3項並びに措置法通達61の4(1)-10及び同(1)-18によれば、会社の従業員等の慰安行事に係る費用は、「通常要する費用」の範囲内である限り、福利厚生費として「交際費等」から除外されるところ、当該費用が「通常要する費用」の範囲内であるか否かについては、当該行事が、法人が費用を負担して行う福利厚生事業として社会通念上一般的に行われていると認められるものであることを要し、その判断に当たっては、行事の規模、開催場所、参加者の構成及び一人当たりの費用額、飲食の内容等を総合して判断すべきである。」

 なお、原告たる法人側は、金額に関係なく(交際費には該当せず)福利厚生費と主張しましたが、裁判所は通達に規定する「通常要する費用」に着目し、その主張論拠は否定しました。

全社集会の費用はいくらなのか?

 ここにいう「感謝の集い」は、平日の日中、4~5時間のみ行われているもので、宿泊は伴っておらず、従業員に参加人数・率、および従業員1人あたりの費用は下記です。

従業員1人あたりの費用

開催の目的に着目

 裁判所の判断基準として、最終的には金額の妥当性、つまり「通常要する費用」かどうかに帰結するわけですが、その前提として「本件行事に係る費用が社会通念上福利厚生費として認められる程度を超えるものであるか否かについて検討」されています。

・開催の目的

「従業員の一体感や会社に対する忠誠心を醸成して、更なる労働意欲の向上を図るためには、従業員全員において非日常的な体験を共有してもらうことが有効」

・日帰り開催している理由

「従業員の女性比率の高さ等に照らせば、原告の事業に支障を来すことなく、可能な限り全員参加が可能な慰安旅行の日程を考えると、原告においては、宿泊を伴う旅行は現実的ではなく、日帰り旅行にせざるを得ない状況にあった」

・必要性・相当性

「本件行事の目的、開催頻度、会場の性質、従業員の女性比率の高さ、日程の制約等に加えて、本件行事に参加するための従業員の移動時間は往復3時間ないし6時間に及ぶことなどを考慮すれば、本件行事の内容として、県外への旅行等に代わる非日常的要素として、大型リゾートホテルにおける特別のコース料理やプロの歌手や演奏家によるライブコンサート鑑賞を含めることには、必要性、相当性があった」

判断要素を総合勘案して納税者が勝った

 以上を前提としたうえで、参加率が70%を超えており、かつ、日帰り慰安旅行に係る費用として通常要する程度(範囲内)として、福利厚生費として認められることとなりました。

 社内イベントであれば、福利厚生費であって交際費として指摘されないと考えている方も多いようですが、実際はそんなことはありません。
 1人あたり2万円ちょっとの費用で否認されていること自体が驚きではありますが、逆に言えばこの程度の費用であっても、否認されるリスクはあるということです。

 この裁判内容は非常に面白いので、興味ある方はぜひ全文を読んでみてください。

POINT
TAINSコード:Z267-13015