ここ数年だけでも、地方自治体による固定資産税の過徴収が何件も報道されています。
一般の雑誌や書籍などでも、固定資産税の過徴収に対して還付請求ができることが取り上げられ、話題にもなっています。
本稿では、税務実務に関連した国家賠償法の適用と、その時効について解説しましょう。
固定資産税の還付請求は何年分できるか?
固定資産税の過徴収があった場合において、その時効は何年なのでしょうか。
税務上の還付に関する時効は「5年」と定められていますので、税法を根拠に還付請求すれば、5年分の還付しか受けられないのですが、実際の還付請求(正確には裁判)においては、「20年」分の還付が認められています。
もっとも有名な判決としては、最高裁平成22年6月3日判決があります。この判決は、名古屋高裁への差戻し判決ではありますが、事実上の最高裁が損害賠償請求容認判決となります。
この判決において、「固定資産税の評価・課税誤りによる税額について国家賠償の請求を認める」と判断されました。還付期間は20年となっています。
国家賠償法を根拠にした場合の時効
さて、税務上では5年しか還付できないにもかかわらず、20年の還付を受ける根拠は下記になります。
国家賠償法第1条
国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
国家賠償法の時効は、同法第4条に
「国又は公共団体の損害賠償の責任については、前三条の規定によるの外、民法の規定による。」
と規定されていることから、民法第724条を準用し、不法行為の時効期間は
「損害および加害者を知った時から3年」
または
(損害および加害者を知らなくても)「違法行為時から20年」
になります。
なお、後者の「20年」ですが、以前は「除斥期間」とされていましたが、民法改正によって以後は「消滅時効」となりましたので、注意が必要です。
ただし、固定資産税のように賦課決定により税額が確定される税については、誤課税の責任は主として課税庁にあり、国賠上の「故意・過失」が認められるケースがほとんどですし、「損害」の発生を納税者が「知った」と評価するのが難しいのが現実なので、時効としては「違法行為時から20年」となるわけです。
税務における国家賠償法の適用範囲
さて、このように書くと、税務に関しても国家賠償法を根拠にすれば、何でも20年間できるように誤解されやすいのですが、それは間違っています(間違っている場合が多いです)。
例えば、税務について国家賠償法を用いて国税側を訴えることについては、「国税側の誤指導」が考えられます。
税務署に行って事前の相談をし、その回答どおりに税務処理をしたが、その後の税務調査において否認を受けた場合、税務署(職員)の誤った指導であり、このような場合、国家賠償法による賠償請求ができる可能性があります。
このようなケースにおける国家賠償請求は、民法上の不法行為に基づく損害賠償請求と同様に、3年の(短期)消滅時効にかかります。
上記のとおり、国家賠償法4条が「民法の規定による」としており、民法上、不法行為に基づく損害賠償請求権について、民法724条に3年の消滅時効が定められているからです。
いつが起算日になるのか?
もっとも、その起算点は「損害及び加害者を知ったとき」からとなっています。
誤指導から3年以上たっていても、「損害」が発生してから3年経過していないのであれば時効にはかかりません。
簡単にいえば、税務調査で更正を受けたときが損害の発生となりますので、そこから3年の請求ができるということであって、誤指導から3年というわけではありません。
私はメルマガやセミナーなどでは常に、税法以外の法律をきちんと知っておかないと税理士事務所として対応を間違うと伝えています。
特に、国家賠償法については絶対に知っておかなければならない法律ですし、また、税法をあえて根拠としない請求をすれば税務上の時効より長く請求できることは理解しておく必要がある、というわけです。