税理士・会計事務所において、税務申告する際に併せて税務代理権限証書を添付・提出することがルーティンになっていますが、その本当の意味を理解している税理士は少ないように思います。
本稿では、「税務代理権限」とは何かについて解説したいと思います。
税務代理権限とは法律的にどのような権限なのか?
本来、法律的に「税務代理権限」なるものを理解していなければ、税務調査において何を・どこまで立会いできるのか、わからないはずです。
例えば、税務調査において調査官から、「納税者に会って直接話が聞きたい」「納税者でなければ事情・事実がわからないのだから納税者に直接会わなければ調査にならない」と要請された場合において、顧問先が多忙等の理由でこの要請を断りたいとすれば、どう主張すべきか、ということにもつながってきます。
さて、まず税務代理権限とは何か、ということに関して日税連のサイトには下記のように記載があります。
「4.税務代理権限証書は必ず添付しよう」(日本税理士会連合会)
http://www.nichizeiren.or.jp/suggestion/1-13/4.html
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「税務代理とは、税理士の立場で、委嘱者のために事務を処理する業務委嘱契約に基づいて行動することであり、その行為は民法の委任の規定に従う。」
ここには民法上の「委任の規定に従う」とありますので、「委任」がわからなければ、理解はできないことになります。委任を定めた民法の条文を確認しましょう。
民法第643条(委任)
委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。
法律行為を整理しましょう
ここでいったん、全般的な整理をしておきますが、他者に対して何か業務を依頼することを法律的には「委託」と呼んでいます。委託は2種類あり、
(2)請負
わかりやすい例でいえば、顧問先から「顧問」「税務申告書の作成」の両方の委託を受ければ、
税務申告書の作成:請負
となります。これによって、印紙の貼付金額も相違してくることになります。
話を戻すと、委任とは上記条文のとおり、【法律行為を委託する】ことです。一方で、税理士法を見ると、税務調査の立会いができる権限を「税務代理」と規定しています。
税理士法第2条第1項第一号(カッコ書きを除く)
税務代理につき、又は当該申告等若しくは税務官公署の調査若しくは処分に関し税務官公署に対してする主張若しくは陳述につき、代理し、又は代行すること
合わせて、この条文の通達を載せておきましょう。
税理士法基本通達の制定について(法令解釈通達)
2-4(代理代行)
法第2条第1項第1号に規定する「代理」とは、代理人の権限内において依頼人のためにすることを示して同号に規定する事項を行うことをいい、同号に規定する「代行」には、事実の解明、陳述等の事実行為を含むものとする。
つまり税務代理とは、顧問先に【代わって】税務調査の対応ができるということを指しています。
ここで、民法上の「代理」を規定する法律も合わせて載せておきましょう。
民法第99条(代理行為の要件及び効果)
代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。
委任・代理などをさらに整理します
いろいろな言葉と規定が出てきて、かなりややこしくなってきましたので、整理しましょう。
税務代理=(民法上の)委任
⇒
税理士は顧問先から法律行為に関する委託を受けている
⇒
税務代理権限証書を提出する
⇒
税理士は(民法上の)代理を受けている
⇒
税理士は顧問先に代わって、対国税に関する法律行為(主張・陳述)をすることができる(税理士の主張・陳述内容は、顧問先が主張・陳述したことと同じ効果)
ここまでを理解できるとおわかりいただけるとおり、あくまでも税理士は(税務代理権限証書を提出した)顧問先に【代わって】税務調査を受けることができるので、冒頭にあるような調査官の要請を断って
「顧問先がいなくても、税理士だけで税務調査の対応をすることが法的にできます」
と主張することができるというわけです。
税務代理権限というのは、普段どのような権限なのかを考えることはないかもしれませんが、このようにきちんと整理すると、税務調査の立会いも変わってきますので、これを機にぜひ民法も合わせて理解いただければと思います。