NFTビジネスの法務・税務の世界③(相続税の検討)
海外資産の取引税務
NFTビジネスの法務・税務の世界③(相続税の検討)

著者プロフィール

金田一 喜代美

金田一 喜代美(きんだいち きよみ)

Kiyomi Kindaichi

中央大学法学部国際企業関係法学科、中央大学専門職大学院(MBA取得)、慶應義塾商学研究科修士課程修了。
大手監査法人にて上場準備経験有。
近年は、米国、豪州、シンガポール、等の相続法務税務、ITIN・Trust等諸手続きコンサルテーションに従事している。

【執筆】
「マンガでわかるかんたんQ&A」、「知って得するやさしい税金」、「相続から創続へ」、「国際相続・贈与がざっくりわかる~海を超える次世代資産~」、「税経通信」令和2年3月号 国際資産税特集 “財産取得者の納税義務の判断とその課税関係の調査” 等。

【Blog】
TAXINFOMATION

NFTビジネスの法務・税務の世界③(相続税の検討)

 NFTとは、ブロックチェーン技術を活用した作品に真正性の証明をつけ「非代替性のトークン」と位置付けることによる、偽造ができない鑑定書付デジタルデータ資産を言いますが、これにより所有権が形式的に紐づけできるようになりました。

 しかしながら、NFTは最近の技術であることもあり、それほど浸透しておらず実態が漠然としているようです。その理由のひとつとして、NFTは3次元空間にある資産であり、有体物ではないため手にとって確かめることができないという特徴があるからかもしれません。

 NFTが初めて鋳造されのはケビン・マッコイ作『Quantum』(2014年)のデジタルアートでしたが、オークション最大手のサザビーズで約150万ドルの価格(2億円以上)で売却されました。
その後NFT技術はアートに限らず、例えば、

* 版画・絵画
* 音楽
* 動画
* 写真
* キャラクター・イラスト
* SNSの投稿
* ゲーム内のアイテム
* メタバース上の土地

など多種のものに対して 「1点もののデジタル証明」 が付された取引として広がってきています。

※ 今号では、NFTの相続税の取扱いについて、検討を重ねてみました。ただし、この考え方は現在発信されている情報やFAQをもとに、筆者の個人的な見解であり公式な見解ではありませんことにご留意ください。

Ⅰ.NFTの位置づけ

 ここでデジタル資産全般の中でのNFTの位置づけを図にして確認してみます。
デジタル財産は、財産価値のあるものとないものに分けることができます。
さらに財産価値のあるものは、代替性があるトークン(FT)であるか代替性がないトークン(NFT)であるかで分類できます。その中でFTは資金決済法2条5項に該当するかどうかで、暗号資産(一般に “暗号通貨” のこと。以下本稿において同)と、法定通貨に連動させ固定した「前払式支払手段」(資金決済法3条1項)、および有価証券と同様の「デジタル有価証券FT」(金商法2条2項)に分類されます。

NFTの位置づけ

図の中の(A).(B).(C)について下記に補足しました。

NFTの位置づけ-2

※ 但し、実際にはケースバイケースで個別にご検討ください。

次にNFT資産をその収入源と性質を勘案しながら具体的に分類を検討しています。

NFTの位置づけ-3

Ⅱ.財産としてのNFT

 上図から、NFTは次のように資産を区分することができそうです。

① 何らかの権利をデジタル手段によって表章した一部所有権や保有権
② NFTの各種利用権
③ クリエイターのNFTのそのものの著作権、所有権
④ FT(暗号資産)自体の保有

Ⅲ.相続の対象になるNFTの検討

 次にNFT資産を相続財産として評価する方法は明確になっていませんので、あくまで筆者が私見にて検討を加えてみました。この考え方はあくまで筆者の個人的な見解であり、公式な見解ではありませんことにご留意ください。

 相続税法では、個人が金銭に見積もることができる経済的価値のあるものについては相続財産になるとしています。
 具体的には、相続税法基本通達の第11条の2《相続税の課税価格》関係では、次のように規定してあります。相続税法に規定する「財産」とは、金銭に見積ることができる経済的価値のあるすべてのものをいうのであるが、なお次に留意する。

(1) 財産には、物権、債権及び無体財産権に限らず、信託受益権、電話加入権等が含まれること。
(2) 財産には、法律上の根拠を有しないものであっても経済的価値が認められているもの、例えば、営業権のようなものが含まれること。
(3) 質権、抵当権又は地役権(区分地上権に準ずる地役権を除く。)のように従たる権利は、主たる権利の価値を担保し、又は増加させるものであって、独立して財産を構成しないこと。
(11の2‐1「財産」の意義参照)

 この規定より、たとえ無体物であるデジタル財産であっても、財産価値のあるものは相続財産の対象になると考えられます。
 しかし、NFTは仮想通貨よりも新しいデジタル資産であるため、現状では相続の際の取扱い方法が明確に決まっていません。
 その上で、NFTは暗号資産(通貨)のような代替性がなく唯一無二のものであるため資産的価値があるかどうかを確認する必要があります。具体的にはNFTのそれぞれの側面を検討して財産を判定し、それぞれに合った相続税の計算をすることになるかのではないかと考えています。
 上図(C)よりNFT資産と言っても、その性質に沿って次のように何らかの区分ができるのではないでしょうか。

① 何らかの権利をデジタル手段によって表章した一部所有権や保有権
② NFTの各種利用権
③ クリエイターのNFTのそのものの著作権.所有権
④ FT(暗号資産)自体の保有

 これらについて相続税の評価方法を個別に適用していくことになろうかと考えられます。

 ①②のNFT財産については、これらが相続財産に含まれるかどうかについて検討することが必要です。民法における所有権は、有体物をその客体とする権利ですので(民法206)、NFTそのものはデジタルデータであり無体物とされています。つまりNFTは民法上においては<所有権>は成立しないものと考えられます。従ってたとえNFTを売却したとしても、民法上ではその所有権までも移転したと根拠づけることは難しいとことになります。
 かわりにこの無体物に何らかの権利が付されていることから、ここでは①②を仮に「NFTの保有・利用の権利」と表現しますが、注意すべきことは「NFTの保有・利用の権利」の具体的な内容はNFTによって異なるということであり、一律ではないとうところです。
 たとえば、実在する絵画の所有権を証明する目的だけで発行するNFTであれば、この場合NFT事態には価値はなく、NFTアートを貸与している権利関係、二次著作物として流通が許可されている権利、というようにNFTの発行条件に依存すると考えられるからです。
 通常、上述したように著作権は著作者に留保され、NFTを購入したとしてもどの程度の著作権がみとめられているかは個々の契約によると言えます。
 ほかにもメタバース内で空間や土地を保有し、それを貸与したり売却して利益を得る権利もあり、このようにNFTはデジタルデータそのものに価値があるのか。あるいは付された権利に価値があるのかといったようにその性質は千差万別であり一般化した棲み分けができづらいと言えます。

 恐らくNFTのアートを制作し、マーケットで販売しているクリエイターの場合は③の著作権となり著作権としての評価となり、そのNFTを購入し二次転売している場合や、NFT自体の所有権の移転はないとするならば、保有利用する権利として無形財産権での相続評価になるのではないかと考えられます。

【財産評価基本通達148】(著作権の評価)
著作権の価額は、著作者の別に一括して次の算式によって計算した金額によって評価する。ただし、個々の著作物に係る著作権について評価する場合には、その著作権ごとに次の算式によって計算した金額によって評価する。

年平均印税収入の額×0.5×評価倍率

③のクリエイターの著作権については無体財産権の評価が参考になろうかと考えられます。

【財産評価基本通達140-166】
その他、無体財産の相続税評価については、それぞれの算出方法が述べられています。

④のFT(暗号資産)自体の保有についてですが、
 相続財産としてのNFTが暗号通貨そのものに分類された場合は、暗号通貨の相続税評価自体については、特に明らかにされていません。

 しかし、暗号資産そのものについては、決済法上、「代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる財産的価値」と規定されているため、被相続人等から暗号資産を相続若しくは遺贈又は贈与により取得した場合には、相続税又は贈与税が課税されることになります。
(暗号資産に関する税務上の取扱についてFAQ No.26)。
 そして、その評価方法についはFAQ No.27<相続や贈与により取得した暗号資産の評価方法>で、暗号資産を活発な市場がある場合とない場合(※)で評価方法を分け、その評価方法には財産評価基本通達に定めがないため、評価その評価方法は通達5(評価方法の定めのない財産の評価)の定めに基づき、具体的には<財基通4-3:外国通貨の評価方法>に準じて評価する旨が案内されています。

※1 「活発な市場が存在する」場合とは、暗号資産取引所又は暗号資産販売所において十分な数量及び頻度で取引が行われており、継続的に価格情報が提供されている場合をいいますが、その他FAQ22<暗号資産の期末時価評価>が参考になると考えられます。
相続の対象になるNFTの検討

Ⅳ.暗号資産の相続税の課題

 それでは、現況におけるデジタル資産の相続税の課題についてですがいくつかを記述しています。
 まず、暗号資産は価格の変動が大きいため、取得価額の100倍程度まで値上がりすることもあり、そうすると相続人は相当の税負担になることが想定されます。

 たとえば時価10億円(取得価額1,000万円)の暗号資産を相続で取得することになった場合相続税を納税するために売却して資金化すると所得税・住民税を支払うと差引手取りは2,400万円程度になりほとんど現金は残らないことになります。このケースの場合暗号資産が14億円を超えると税負担額が相続財産を超えるという逆転現象が起きてしまいます。下表参照。
 (a)礎控除は法定相続人1名のみ3,600万円とする (b)概算取得費 5%

暗号資産の相続税の課題

①(10億円-3,600万円(a)*55%‐7,200万円)
②(10億円*95%(b)*55%-479.6万円) 

 これは、相続税の取得費加算の特例(措置法39条)ができないという難点からきています。
 この特例は相続又は遺贈により取得した不動産や株式などを一定期間に譲渡した場合に、相続税額のうち一定金額を譲渡所得の計算時に取得費として加算できるという譲渡所得にのみ適用可能である制度であるので、雑所得である暗号通貨にはこの制度の適用がされないからです。

 ほかにも、被相続人の暗号資産の取引が多かった場合、相続人が遡って取得価格を把握していくことが困難な場合は、概算取得費で計算することになります。この場合は、必然的に差額95%が所得を構成してしまいます。(FAQ13)

Ⅴ. NFT等のデジタル資産を贈与した場合の課税関係

 NFT等のデジタル資産を対価を支払わず、または低額譲受で利益を受ける場合には、その譲受人は、その利益に相当する金額について贈与をうけたとみなされる場合があります。(相続税法9条)
また、暗号資産は現金で贈与した場合と違い、棚卸資産に準じる資産の範囲に含まれていると規定しているので(所令87)、暗号資産で贈与した場合は、贈与者側は雑所得や事業所得の計算上、総収入金額に算入し所得税、住民税が課されることになります。(FAQ16)

【計算式等】
時価が1,000,000円のNFTの贈与をした場合の低額譲渡の判定

〇 低額譲渡に該当するかどうかの判定
① 売却価額 :450,000 円
② 時価の 70%相当額:1,000,000 円 × 70% =700,000 円
③ ①<②であることから、売却価額は、時価の 70%相当額未満であり、低額譲渡に該当します。
〇 総収入金額算入額
低額譲渡に該当する場合の総収入金額は、実際の売却価額に加えて、時価の 70%相当額との差額を総収入金額に算入することとなります。
450,000 円 + (700,000 円 - 450,000 円) = 700,000 円
[実際の売却価額] [時価の 70%相当額との差額] [総収入金額算入額]
〇 所得金額の計算
700,000 円 - 450,000 円 = 250,000 円
[総収入金額] [譲渡原価] [所得金額]

 NFTは暗号資産(通貨)と違い代替性がありません。XさんとYさんが同じ金額の暗号資産(通貨)を持っていた場合、コインを入れ替えたとしても価値は変わりませので、別のもので置き換えられるので代替性がある状態です。
 しかし、NFTはブロックチェーンのなかで個別の識別サインを持たせることで、デジタルデータが唯一無二のものであることを証明しています。今までのデジタル上のアート作品やコンテンツは容易にコピーができてしまいオリジナルがどのデータなのかがわからず、違法な海賊版や違法コピー作品が問題となっていましたが、このようなNFTの登場によって、オリジナルのAさんのデジタル日本絵がこの世に 1枚しか存在しないことの作品価値を証明できるようになりました。

 しかし、仮想通貨よりも新しいデジタル資産であるNFT資産の相続については現状では相続の際の取扱い方法が明確に決まっておらず、取引所が証明書を発行している仮想通貨に比べてまだまだ情報も少なく判断が難しいところです。

 まずは、NFTは暗号通貨とは違い、代替性がなく唯一無二のものであることから、故人が保有していたNFTに資産的価値があるかどうかを最初に判断する必要があります。場合によっては相続できないこともあるからです。
 そのような中、デジタル財産が相続できるかどうかの客観的手掛かりになるのは、契約書や利用規約等が存在する場合相互の権利関係を紐解くことになります。ぜひこのような契約書等を参照することが重要であると考えます。

 その判断の結果、NFTが仮想通貨と同じように、資産価値が認められるものであれば相続財産の対象になると考えられます。

※本号は、NFTの資産分類や相続税の考え方について記述しました。
ただし、これらは一般的に考えられるところから私見にて便宜的にその手続きを検討を試みているため、必ずしも断定できるものではございません。今後のNFT資産を含むデジタル資産の相続の判断のご参考までにしていただければ幸いです。