NFTビジネスの法務・税務の世界①
NFTビジネスの法務・税務の世界①

著者プロフィール

金田一 喜代美

金田一 喜代美(きんだいち きよみ)

中央大学法学部国際企業関係法学科、中央大学専門職大学院(MBA取得)、慶應義塾商学研究科修士課程修了。
大手監査法人にて上場準備経験有。
近年は、米国、豪州、シンガポール、等の相続法務税務、ITIN・Trust等諸手続きコンサルテーションに従事している。

【執筆】
「マンガでわかるかんたんQ&A」、「知って得するやさしい税金」、「相続から創続へ」、「国際相続・贈与がざっくりわかる~海を超える次世代資産~」、「税経通信」令和2年3月号 国際資産税特集 “財産取得者の納税義務の判断とその課税関係の調査” 等。

【Blog】
TAXINFOMATION

NFTビジネスの法務・税務の世界①

 今回から数回にわけてNFTの概要と会計・税務処理について記載していきたいと考えております。
 昨今、円安が追い風となり、中小企業や個人においても越境ECはますます好況感を呈していますね。経済産業省によると個人向け越境ECの販売額は米中が2大主要国強となっており、一定の市場に成長したとの見方を示しています(2022年10月16日日経)
 そのようなEC取引の中で、新しいNFT取引も少しずつ顔を出し始めました。

1.NFT取引とFT取引は似て非なるもの 

 2021年頃からよく聞くようになってきたEC取引のひとつに、NFT取引があります。そして近年では海外だけでなく、国内でもマーケットの展開が始まっています。

*NFTとはNon-Fungible Tokenとの略で≪非代替性トークン≫といい、トークン(印・象徴)自体に固有の値や属性をもたせず、代替性のないトークンを指す略語になっています。
*NFTに対して、イーサリアム、ビットコインなどの暗号資産は、同じ価値のあるほかの暗号資産に交換できるためこちらはFT(Fungible Token)いわゆる≪代替性あるトークン≫と言われています。

 このNFT&FTは同じようにブロックチェーン上で発行されるトークンなので、その括りからは仲間同士とも言えます。

2.NFTとはいったいどんな特徴をもっているのでしょう

 NFTは作品にひとつずつ識別可能なコードが付与されているため、<唯一性>の性質をもっており複製することができないようになっています。
 今まで、高価なデジタルアートは、本物とコピー品の区別ができませんでしたが、これからは、NFTによってさまざまなデジタルデータに識別コードを付すことで、誰もが本物を証明できるようになってきます。
 これによって、作品のクリエイターも適正な評価を受け、各コレクターの人達も安心してアートを売買することができ、ますますNFTのオークションやマーケットプイスの利用は広がりってきており、成長市場になっていると言えそうです。

3.具体的にどんな商品・製品が展示されているのでしょうか

 デジタルマーケットを覗くと、“アート、音楽、トレカ、ゲーム・メタバース、ファッション、金融、アニメ・キャラクター、占い、会員利用権、出版・・・”などの、さまざまな広がりを見せています。
 このようにデジタルデータをNFT化することで、どんなものでも<唯一性>の効果を出すことができ、高価格で転売も可能になるのです。

4.NFT著作物の法的未整備リスク

 しかしNFTはまだ新しい取引なので、法的な大部分は未整備状態と言えます。

NFTの所有権と著作権の問題
 法律的に著作物の権利は大きく次のように整理できます。

NFT著作物の法的未整備リスク
※1所有権とは、著作物を自由に使用・収益・処分する権利を指しており、著作権とは著作物を利用する権利を指します。

5.NFT著作物取引ではどのような法的権利を意識すべきでしょうか

NFTの法的権利で大きく課題になるのは次の2つになろうかと考えます。

≪コンテンツの所有権≫ 
≪コンテンツの利用権≫

上記フローチャートの※1のおおきく2つです。
 しかし、民法では「物」を有形物(基本的に形があるもの)としており、NFTは体性を欠くので、民法の「物」に該当しません。したがってNFTは民法上では所有権は存在していないと考えられているのです。

 つまり、NFTの譲渡においては、通常は「利用権」だけが譲渡されることがほとんどです。そして次に利用権には、さらにつぎのような権利があると考えられます。

≪コンテンツを販売・転売する権利≫
≪コンテンツをマーケットプレイスに展示する権利≫
≪コンテンツをグッズ化して販売する権利≫
≪コンテンツを複製して転売する権利≫

 ただしこれらの権利は自動的に付与されるのではなく、マーケットプレイスの規約に従った形での「利用権」が決まるので、こちらの権利の移転の際も留意が必要になります。

 重要と考えられることは、「利用権」は存在していても、データ自体は存在しないため「所有権」という法的権利が無いか、もしくは曖昧であることです。従ってデータが譲渡されても法的権利がすべて譲渡されているという保証は取り付けられないと言えます。
 この点から、ゲーム、イラスト、プログラムなどの著作物は、他社に権利の引き渡しを行うときは<著作権譲渡契約>を締結して所有権も譲渡する意思表示をしてもらう必要が生じてきます。

6.NFTの性質はいろんな側面をもっている

 NFTの正体っていったいなんなのであろうか。
 上記は著作権にかかる法的権利の整理でしたが、その他にもNFTはその正体がまだ明確になっていません。例えば下記の側面における課題も持っています。

*NFT自体の法的定義が決まっていない・・
*資金決済法や金融商品取引法で定義されていない・・
*代替機能が無いので暗号通貨には該当しない・・
*米国ではNFTの設計次第では分割して有価証券とみなすことができるかもとの考えもある・・
*商品券やプリペイドとして設計することも可能である・・
*もし金銭への払い戻しができれば為替取引にも該当する・・
*物品として経済上の利益を渡しやすいので景表法にも関係してくる・・
*消費税についても・・海外取引においては資産に譲渡になるのか、もしくは電子通信利用役務の提供になるかで消費税の取扱いが異なる

 一方、我が国では暗号資産については、2016年にマネーロンダリングに悪用されないよう「資金決済法」が改正され、無登録で暗号資産交換行を営むことが禁止されました。また2019年には暗号資産の詐欺的行為を防止するために「金融商品取引法」が規制強化されています。
 しかしNFTはまだ上記のような側面に対しての法規・規制などが制定されていないため、誰でも容易に取引に参加できるため、トラブルに発展しやすしと言えます。
 このようなことによってNFTの信頼性の確保はまだ厳しい現状です。

7.NFTの会計・税務的な概要

NFT性質判定のフローチャート≫  下記のようなフローチャートで会計処理や税務処理の判断の一助とすることができます。
 ただし、NFTの固有の会計基準もまだ明確にはなっていません。

NFTの会計・税務的な概要
*NFTとなった場合、会計上は次のようなことを検討していく必要があります。
 ・NFT発行事業者の販売時の収益
 ・NFTのトークン取得者の収益
 ・NFTのトークン取得者の棚卸資産および原価処理
 *NFTとなった場合、税務上は次のようなことを検討していく必要があります。
 ・所得税、法人税、消費税の扱い

 さて、今年の4月に国税庁のタックスアンサーにてNFTの取引についての課税関係が明示されました。
<暗号資産取引> については雑所得のみが明確化されていましたが、 NFT取引については複数の所得区の可能性が示されることになりました。

※1 国税庁,タックスアンサー No.1525ー2
「NFTやFTを用いた取引を行った場合の課税関係」 2022/4/1
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1525-2.htm

★詳細な会計税務処理の内容は次回に記載致します。