国内居住者(日本人)の米国遺産税申告の概要③
海外資産の取引税務
国内居住者(日本人)の米国遺産税申告の概要③

著者プロフィール

金田一 喜代美

金田一 喜代美(きんだいち きよみ)

Kiyomi Kindaichi

中央大学法学部国際企業関係法学科、中央大学専門職大学院(MBA取得)、慶應義塾商学研究科修士課程修了。
大手監査法人にて上場準備経験有。
近年は、米国、豪州、シンガポール、等の相続法務税務、ITIN・Trust等諸手続きコンサルテーションに従事している。

【執筆】
「マンガでわかるかんたんQ&A」、「知って得するやさしい税金」、「相続から創続へ」、「国際相続・贈与がざっくりわかる~海を超える次世代資産~」、「税経通信」令和2年3月号 国際資産税特集 “財産取得者の納税義務の判断とその課税関係の調査” 等。

【Blog】
TAXINFOMATION

国内居住者(日本人)の米国遺産税申告の概要③

 日本の居住者が、米国籍(二重国籍含む)でお亡くなりになった方から遺産を受け取ると米国での納税が起きる場合があります。また日本の居住者でお亡くなりになった方からアメリカにある財産を受け取る場合にも米国での遺産税の申告が必要になり納税が起こる場合があります。こちらはアメリカにある資産だけが対象になります。

Ⅰ.米国の遺産税控除制度の特徴

 相続税あるいは遺産税がかからない最低の金額のことを基礎控除と呼びますが、日本の基礎控除額が3,000万円であることに対して、アメリカの連邦税では2021年度では11,700,000ドル(今なら12億円以上)が基礎控除になります。(日本の約40倍)また、相続を受ける配偶者が米国市民であれば無制限で移転可能になります。
 連邦税では「配偶者」および「夫」・「妻」という用語には、同性の結婚を許可する法律の下では合法的に結婚している同性の個人も含まれます。
 また、州法の下で同棲関係や同性婚が正式な関係として「結婚」という用語に登録されている場合もあり、米国における「配偶者」とは必ずしも法律に縛られていません。

Ⅱ.州税で遺産税がかかる場合がある

 アメリカではさらに州レベルで相続税あるいは遺産税がある地域があります。
 それらの州を列記するとハワイ、イリノイ、メイン、マサチューセッツ、メリーランド、ミネソタ、ニューヨーク、オレゴン、ロードアイランド、バーモント、ワシントン、アイオワ、ケンタッキー、ネブラスカ、ペンシルバニア、メリーランド、ニュージャージーです。

 州の基礎控除は連邦政府の1170万ドルと同額の場合もありますが、多くの場合は、この金額よりも低い金額に設定されていますので、連邦の遺産税の対象ではないですが、州の遺産税を支払うケースがありますので資産のある州の遺産税を確認する必要があります。

Ⅲ.遺産税の一般的なFAQから

 米国で遺産税の申告が必要な日本居住者は次のようなパターンと申告様式になります。
 被相続人が米国居住者(二重国籍含む)で米国に所在する資産を日本居住者が取得した場合(Form706)、米国市民でもない米国非居住者であった被相続人(日本人)から、米国資産を日本居住者が取得した場合は遺産税申告書(Form-NA)を提出する必要があります。
 ここでは、米国IRSが発信している「遺産税に関する一般的な質問」の中から、米国非居住者向けのFAQの一部を抜粋致しました。

1).相続人が米国非居住者である時の遺産移転のための証明書提出要件(被相続人は米国籍)

 被相続人の死亡時において米国市民(二重国籍の米国市民を含む)であり、1976年12月31日以降に死亡したその被相続人(非居住者)の財産を証明する場合は次の要件が適用されます。

■被相続人の財産総額を次の要件に当てはめ、パートAまたはBから選択します。
①.財産総額から次の基礎控除を引きます。

2019年相続開始年・・・$11,400,000
2020年  〃   ・・・$11,580,000
2021年  〃   ・・・$11,700,000

②.①に次を含めてください。
1976年以降に被相続人によって行われた調整済みの課税対象の贈与額。

③.②の金額を基に、被相続人の全世界の総財産の価値が、上記①の死亡年に対応する金額を超えた場合はパートA、越えなかった場合はパートBになります。区分に応じ各資料をIRSに提出します。

パートA

a).米国遺産税申告書(Form706のPDF)、および申告書提出の際の補足文書すべて。
b).国務省フォームDS-2060 PDF 、米国市民の死亡報告書(死亡地に最も近い米国大使館または領事館から入手可能)。
c).b).がない場合は死亡診断書および被相続人の現在の米国パスポートの写真ページのコピーまたはその他の米国市民権証明書。

パートB

a).上記(b)または上記(c)。
b).公証人または同等の地方公務員の下で行われた宣誓供述書。または宣誓供述書は遺言執行者、管理者、またはその他資産の個人的な代表者が署名した手紙の形をとることがあります。
c).死亡日に被相続人が関わる全世界のすべての資産のリストとその評価額。
d).1976年以降に遺言執行者によって行われたすべての課税贈答物の内容。
米国の銀行または投資口座の番号。
e).国内または海外当局に提出され検認された各目録の1部。
f).および米国以外の税務当局に提出された相続税申告書1部。
g).被相続人の居住国に相続税がない場合は、被相続人の最後の所得税申告書のコピーと、提出された富裕税申告書があればそのコピー。
h).被相続人の最後の遺言書のコピー。

※ パートBが適用される場合は、フォーム706を提出しないでください。フォーム706を不必要に使用すると、譲渡証明書の発行が遅れます。

2).被相続人が米国籍でも非居住者でもない遺産移転の証明書提出要件(相続人が日本居住者)

 米国の市民でも居住者でもなく1976年12月31日以降に死亡した被相続人の財産を証明する場合は次の要件が適用されます。

■被相続人の財産総額を次のパートAまたはBから選択します。1つのセクションのみが適用されます。リクエストを送信するときは、移転証明書を求めている資産を必ず明記する必要があります。

パートA

 米国における被相続人の課税対象資産の価値が死亡日に60,000*ドルを超えた場合は、Form706-NAのコピーを提出します。
 申告書の提出期限は9か月ですが、 IRSが相続税申告書を処理する期間は6〜9か月になります。移転証明書は、その遺産に課せられた税金が納税または免除されたと確認されたあとに発行されます。

パートB

 米国における被相続人の課税対象資産の価値が死亡日に60,000*ドル以下であった場合は、以下の項目を提出してください。

①.被相続人の最後の遺言と遺言のコピーもしくは任意の遺言。
②.米国以外の税務当局に提出された各相続税申告書の1部。
③.被相続人の死亡診断書のコピー1部。
④.公証人または同等の地方公務員の下で行われた宣誓供述書。または宣誓供述書は遺言執行者、管理者、またはその他資産の個人的な代表者が署名した手紙の形をとることがあります。また次のすべての項目を含める必要があります。
a).被相続人の生年月日と出生地。
b).被相続人が米国市民として帰化した日付、または被相続人が帰化した米国市民になったことがないという声明。
c).被相続人が死亡日に何らかの利害関係を持っていたすべての被相続人の米国資産のリスト(米国の遺産税の目的での法的状況が何であれ)および被相続人の死亡日におけるそれらの価値。米国の銀行または投資口座の場合は口座番号を含めてください。
d).死亡日における被相続人の市民権および居住地。
e).被相続人の米国の銀行口座のいずれかが、米国での貿易または事業に関連して使用されていたかどうか。

(* 1976年以降に被相続人が行った調整済みの課税対象の贈与品を反映するためには金額を減額する必要があります)
※ パートBが適用される場合は、フォーム706-NAを提出しないでください。フォーム706-NAを不必要に使用すると証明書の発行が遅れることになります。

3).共通する事項

①.資料が別の言語の場合はすべてに英語の翻訳をつける必要があります。
②.上記の項目のいずれかが用意できない場合は、必ずその理由を説明するステートメントを含めてください。
③.米国内で資格を持ち、任命され、行動する執行者または管理者によって管理される資産には、移転証明書は必要ありません。
④.IRSが宣誓供述書と補足文書を処理する期間は、IRSが必要なすべての文書を受け取ってから6〜9か月かかります。

★ 記述は2021/03末現在に基づく一般的な内容になりますので、詳細なことは個別にお尋ねください ★

See)
*Frequently Asked Questions on Estate Taxes
*Transfer Certificate Filing Requirements for the Estates of Nonresident Citizens of the United States
*Transfer Certificate Filing Requirements for the Estates of Nonresidents not Citizens of the United States
*Some Nonresidents with U.S. Assets Must File Estate Tax Returns
*Answers to Frequently Asked Questions for Individuals of the Same Sex Who Are Married Under State Law