外国口座税務コンプライアンス法(FATCA)①
海外資産の取引税務
外国口座税務コンプライアンス法(FATCA)①

著者プロフィール

金田一 喜代美

金田一 喜代美(きんだいち きよみ)

Kiyomi Kindaichi

中央大学法学部国際企業関係法学科、中央大学専門職大学院(MBA取得)、慶應義塾商学研究科修士課程修了。
大手監査法人にて上場準備経験有。
近年は、米国、豪州、シンガポール、等の相続法務税務、ITIN・Trust等諸手続きコンサルテーションに従事している。

【執筆】
「マンガでわかるかんたんQ&A」、「知って得するやさしい税金」、「相続から創続へ」、「国際相続・贈与がざっくりわかる~海を超える次世代資産~」、「税経通信」令和2年3月号 国際資産税特集 “財産取得者の納税義務の判断とその課税関係の調査” 等。

【Blog】
TAXINFOMATION

外国口座税務コンプライアンス法(FATCA)①

 米国における外国口座コンプライアンス法の実務につきまして、今回から3回にわけて記載します。今回は米国の税務コンプライアンス法のFATCAの概要になります。

Ⅰ.米国の現在税制路線

 米国では2018年に大きな税制改正があり、減税とともに租税回避防止へ強化しました。

1)減税路線

 トランプ大統領はオバマ大統領とは異なった路線を進み、法人税、所得税、相続税も減税しましたので、法人税においては35%→21%へ減税し、ミニマム税も撤廃したため、米国は日本にとって実質的にタックスヘイブン対象国になりました。
 所得税においては、独身者の場合、年収5万㌦25%→22%に、10万㌦28%→24%、夫婦年収30万㌦で33%→24%に下がり、最高税率も39.6%→37%になっています。標準控除額も独身者6,350㌦→12,000㌦、夫婦合算で12,700㌦→24,000㌦と倍に引き上げられました。
 相続税の免税枠もUPしました。合計550万㌦(約6億円)までは非課税でしたが、倍の1,100万㌦(12億円)まで非課税としています。

2)租税回避強化

 一方、FATCA(ファトカ)※1の制定などにみられるように、租税回避税制も強化の一途を辿っています。FATCAは、米国の納税義務の「米国人等(※2)」が、米国外の外国金融機関に保有する口座を利用して資産隠しや租税回避を防止することを目的とした米国の税法となっています。
 日本においても口座開設をする際に、その人が「米国人等」に該当する場合は、日本の金融機関は毎年米国のIRS(※3)へ情報を報告することになっています。

3)特定外国金融資産の報告方法

 個人においては、租税回避防止のために、所得税申告書form1040以外にも多くの報告義務があります。たとえば、米国居住者が海外に預金や、株式を保有している場合は、form8983(特定外国金融資産報告書)をIRSへ提出し、form114(米国国外金融口座報告書)を米国財務省に報告する必要があります。
 また、米国居住者日本人で、日本財産などの相続をうけて、米国の税務申告がなかったとしても、相続で取得した財産については、その財産の内容と市場価値をIRSへ報告する義務があります。(form3520)
 このように、租税回避防止のための報告書の提出が必要になります。

Ⅱ.FATCAについて

 外国口座税務コンプライアンス法(FATCA)は、HIRE法(※4)の一部として可決され、一般に、外国の金融機関およびその他の特定の非金融外国企業が、米国の口座保有者が保有する外国資産について報告するか、源泉徴収をすることを義務付けています。源泉徴収について。 HIRE法には、米国人に、価値に応じて、外国の金融口座および外国の資産を報告することを要求する法律も含まれています。

1)FATCAの構成

 FATCAは次の3つの方面にむけてそれぞれ発信され、租税回避の防止の対策を講じています。

①個人向けFATCA
②金融機関向けFATCA
③政府のためのFATCA

2)システム機能の強化

*GIIN

金融向けFATCAでは、各国のデータが回覧できるようになており、Global Intermediary Identification Number(GIIN)を持つ承認された外国の機関の月次リストを検索してダウンロードすることが可能です。そして、認証された金融機関は、FATCA登録システムを使用してアカウントを管理することもできます。

*IDES

さらに、国際データ交換サービス(IDES)を使って金融機関および受入国の税務当局は、FATCAデータを米国と送信および交換することが可能です。

3)上記①の個人向けのFATCA情報

 FATCAの下では、米国外の金融資産を保有する特定の米国納税者は、通常、Form8938「特定の外国金融資産の明細書」を使用して、それらの資産をIRSに報告する必要があります。
 これらの資産の総額は、通常、報告可能にするために50,000ドルを超える必要がありますが、場合によっては、基準値が高くなることもあります。同時に、Form8938の説明を確認して、レポート要件の例外が適用されるかどうかを判断する必要があります。(詳細は次回)
このForm8938は、納税者の年次納税申告書に添付します。

Ⅲ.その他の外国金融口座報告書の注意点

1)FinCENフォーム114、外国銀行および金融口座報告書(FBAR)の関係

 Form8938の報告要件は、FinCEN Form114、 外国銀行および金融口座の報告(FBAR)(以前のTD F 90ー22.1)の報告要件とは別のものになります。個人は両方のフォームを提出しなければならない場合があり、各フォームを提出しなかった場合は個別の罰則が適用される場合があります。(詳細は次々回に記載)

2)Third partyの報告書:

 外国の金融機関は、米国の個人アカウント所有者に代わってオフショアで維持している、アカウントに関連付けられたIDや特定の金融情報など、金融アカウントに関するレポートがあればIRSに提供する場合があります。

3)米国内事業体への適用:

 IRSは、事業体が特定の外国金融資産を保有するために設立または使用され、総資産価値が適切な報告基準値を超える場合、米国内事業体がForm8938を提出することを要求する規制を発行しています。この報告要件は、2015年12月31日以降に開始する課税年度に適用されています。

(※1 FATCA・・・Foreign Account Tax Compliance Act)

(※2 米国人等 :アメリカ人の定義
 1.アメリカ市民または居住者
 2.グリーンカード所有者
 3.アメリカ国内パートナーシップ
 4.アメリカ国内会社
 5.アメリカ国内トラスト
 6.アメリカで事業を行っている個人・法人

(※3 IRS・・・米国内国歳入庁)

(※4 HIRE法2010年3月18日に立法化されたThe Hiring Incentives to Restore Employment法では、アメリカ人の外国資産に関する情報開示を強化して、外国での租税回避をさせないようにする。一つの柱は、2013年から、外国の人がアメリカ源泉の利息、配当、株式譲渡益などをアメリカから受ける場合、その口座の情報をIRSに開示しないと30%の源泉課税を受けることになる。

See: Foreign Account Tax Compliance Act (FATCA)
:FATCA Information for Individuals
(2020/10/30現在)