米国における “所得税の納税義務者” の判定
海外資産の取引税務
米国における “所得税の納税義務者” の判定

著者プロフィール

金田一 喜代美

金田一 喜代美(きんだいち きよみ)

Kiyomi Kindaichi

中央大学法学部国際企業関係法学科、中央大学専門職大学院(MBA取得)、慶應義塾商学研究科修士課程修了。
大手監査法人にて上場準備経験有。
近年は、米国、豪州、シンガポール、等の相続法務税務、ITIN・Trust等諸手続きコンサルテーションに従事している。

【執筆】
「マンガでわかるかんたんQ&A」、「知って得するやさしい税金」、「相続から創続へ」、「国際相続・贈与がざっくりわかる~海を超える次世代資産~」、「税経通信」令和2年3月号 国際資産税特集 “財産取得者の納税義務の判断とその課税関係の調査” 等。

【Blog】
TAXINFOMATION

米国における “所得税の納税義務者” の判定

 海外に金融資産や投資不動産など国外資産を保有し収益を得るような場合や、海外で給与所得、事業所得などが発生した場合で、特にその源泉地国が全世界所得課税を採用している場合には、その源泉地国でも所得税を納税する可能性があります。また、確定申告が必要ない場合でもその国に報告が必要なこともあります。

 今回は米国での所得税納税義務者の区分とその課税範囲を記載しました。米国での所得税の納税義務者の判定は次のようになります。

所得税の納税義務者の判定

 納税義務者は大きく分けて上記A.~C.となります。

A.米国市民はその居住地がとこであるかにかかわらず全世界課税です。
B.米国居住者もAと同様に全世界課税となります。
C.米国非居住者は米国内からの発生した源泉所得のみが課税されます。

 次に上記の外国人のB.とC.をそれぞれどのように区分するかの定義を下記に記載しました。
 外国人のうちB.の米国居住者の定義は次のようになり、それ以外は一般的にはC.の非居住者と判定することになります。

1.米国居住者の判定方法について

 まずB.の居住者に該当するかどうかは、次の2つの方法に当てはめて検討することになります。

1)グリーンカード(永住権)を保有している外国人 または、
2)米国実質滞在期間による外国人

 次の滞在要件を満たす外国人は米国居住者となります。

①その年の米国滞在日数が31日以上が前提で、 かつ
②その前年の米国滞在日数の1/3の日数
③前々年の滞在日数の1/6の日数
④①~③の3年分を合計した日数が183日以上の外国人。

※ 日数計算は入国日と出国日もそれぞれ1日とカウントし、それぞれ1/3,1/6の年の端数も合計し、1日に満たない場合は切り捨てます。
※ 米国で疾病のため出国できない場合の日数は滞在日数には含めないとします。

(ケース1)
 Yさんの米国滞在日数計算は次のようになっています。
*2020年 31日  ・・・・1/1 33日
*2019年 300日 ・・・・1/3 100日
*2018年 300日 ・・・・1/6 50日 合計183日
 従いましてYさんは米国の実質滞在者としてBに区分されて全世界所得課税の納税義務者になります。
(ケース2)
 Z氏の米国滞在日数計算は次のようになっています。
*2020年 20日  ・・・・1/1 20日
*2019年 360日 ・・・・1/3 120日
*2018年 360日 ・・・・1/6 60日 合計200日
 Z氏は2020年初年度に31日滞在していませんので最初の①の要件を満たしていないためC.の非居住者となり納税義務者にはなりません。

2.米国居住者の例外になる方

 次のような方は、例外的に米国の非居住者と判定することになります。

①ビザによる判定の除外対象

a. 次のF,G,J,M,Q,Aのビザをお持ちの方は常に居住者から除外されます。
b. Pビザで慈善スポーツ競技に参加する選手も居住者から除外されます。
c. 病気のため出国ができない外国人も居住者判定から除外されます。
d. それ以外のビザの外国人は実質的滞在条件が適用されて、居住者か非居住者かになります。

※ ただし米国で源泉所得があれば通常の非居住者としの確定申告が必要になります。

≪米国のビザの種類≫

米国のビザの種類

②例外適用申請による(Form8843)

 理由があり滞在日数を除外したい方はForm8843をIRSに届けて除外することができます。

③外国と密接な関係による(Form8840)

 さらに次の要件を満たすと、外国と密接な関係がある方はForm8840をIRSに提出して非居住者を選択できます。

a. その年の米国滞在数が183日未満、
b. 外国に所得源泉や納税地がある、
c. 年間と通して外国と密接な関係がある。

※ ただしグリーンカード保持者は適用できません。

④ 日米租税条約4条3項による(Form8833)

 当該条項(タイブレークルール)に該当する場合はForm8840をIRSに提出して非居住者を選択することができます。(詳細は次回へ)

3.米国居住者を選択したい方

 米国居住者であれば、税額が有利になったり、夫婦合算申告やセパレート申告の比較において税額が有利である場合があるため、次の要件に合致すれば米国居住者を選択することができます。

①初年度のみ 7701条(b)

 一般的に米国の駐在員が米国赴任年度に、米国居住者の取り扱いを受けたい場合で、その年に31日以上滞在し、かつ年末までに75%以上しているなどの要件をクリアする必要があります。

②既婚者のみ 6013条(g)、(h)

  単身赴任であっても夫婦合算申告を提出したい場合には、この選択ができます。ただしその年1年を米国に居住することが要件となり、この場合は日本に住む配偶者も1年間が米国居住者とされます。
※ 一度選択すると後日再選択はできません。
※ 配偶者も全世界課税となり米国居住者として報告義務が生じます。

4.居住者の判定フロー

居住者の判定フロー

*1:租税条約から非居住者とされる場合もあります。
*2:この年が米国居住の初年度や最終年の場合には、dual status(二重納税者)に該当することがあります。
*3:2020年にの要件を満たさない場合でも、2021年に要件がクリアされると2020年の一部が米国居住者とされることがあります。

See: Publication519 U.S. Tax guide for Aliens, Nonresident Alien or Resident Alien? / Choosing Resident Alien Status

~Comments~ ★国外資産から生じる収益については、上記のようにその国の納税義務者の判定に応じて申告を検討することになります。居住者である期間は全世界の所得すべてが申告の対象です。また、非居住者であっても米国での源泉所得について申告が必要になります。

★非居住者として米国で確定申告が必要になる場合は、前回(11/19)の説明のようにITINという納税者番号の取得をしなければなりません。

★上記は所得税の納税義務者の判定になります。遺産税の納税義務者の判定は被相続人のドミサイルで判定されることになりますので別の検討方法となります。