それぞれの国は、文化、経済・社会情勢、政策、とりまく環境、歴史などを背景にして税金の制度を決めていますが、日本の相続税を「遺産税」と呼ぶ国もあります。また相続税・贈与税のない国や、他の税で補完している国もあります。
1.相続税・贈与税のない国
日本の相続税の最高税率は55%ですが、各国ではさまざまな理由から相続税・贈与税の制度をもたない国もあります。ニュージーランドの相続税はすでに廃止されましたが、贈与税も2011年に廃止されています。このような国がタックスヘイブン国として、個人の過剰な租税回避に利用されることが往々にしてあります。
2.相続税のかわりに
カナダやオーストラリアのように、相続税を廃止した代わりに「みなし譲渡益課税」や「出国税」で補完している国もあります。
このような国のケースは、性格的には日本の相続税に代替するものにもかかわらず、外国税額控除の適用ができないために、結果として同じ資産に対して、日本と外国とで二重に課税されるリスクがありますので注意が必要です。
3.世界の2つの相続税制度
世界の相続税制度には、次のように大きく分けて2つの方式があります。
亡くなった方の遺産を対象にする課税方式
財産の取得者ごとに課税する方式で、遺産の分割前に、プロベートと言う裁判所を通しての財産の検証作業が必要になります。
下表は代表的な国の課税方法の一覧になりますが、日本は正確にはAとBの折衷方式です。そのほか、韓国は基本的にはAの遺産課税方式ですが、納税義務者は財産を受ける人になるところが独特の相続制度になっています。
一方でこちらの表からもわかりますように、税金のかからない国も多くあります。
実際のところ相続税のかかる国の方が少なく、世界のほとんどの国々では相続税・贈与税制度はないのが実情です。
4.世界の贈与税制度
世界の贈与税制度は、次のように大きく3つに分けることができます。
米国・英国・台湾
日本・スペイン・ドイツ・オランダ・フランス
シンガポール、香港、中国、インドネシア、マレーシア、スウェーデンなど
このことから、概ね相続税のA方式の国では贈与者が税を負担し、相続税B方式の国が受贈者が税を負担している制度になっていることがうかがえます。
5.両国で相続税がかかる問題
たとえば、亡くなった方が米国の居住者で相続人が日本居住者の場合、両国は全世界財産に税がかかる仕組みなので、米国では元の財産所有者に、日本では相続人に税がかかることになり、米国・日本の両方で相続税がかかります。 贈与税についても同様の二重課税の問題が起きます。
このような場合には二国間租税条約により、納税者の居住地国で二重課税控除を適用することになりますが、税率の差により全額控除されないことや、申告期限の違いにより一時的に両国で納税が発生する問題も生じ得ます。
さらに、国税だけが二重税額控除の対象になりますので、米国のように州税も発生する場合には、この控除ができないことになります。