税務調査においては、調査官から否認指摘は受けるものの、その根拠が明確に提示されないことがあります。
税務調査においては、「三段論法」とも言うべき考え方が重要で、これは国税側が使用している「争点整理表」にも反映されています。
本稿では、税務調査において否認指摘を受けた場合に、どこに論点があるのか、その考える順番について解説します。
国税内における「争点整理表」の内容を知る
あまり知られていないのですが、税務調査手続きについて国税通則法が改正されてから、国税内では「争点整理表」が作られています。
すべての税務調査事案で争点整理表が作成されるわけではなく、下記のような事案が作成対象です。
- 重加算税賦課決定
- 増額更正・決定(が見込まれる)
- 青色申告承認の取消し
- 更正の請求(の全部又は一部)に理由がない旨の通知
- 偽りその他不正な行為による6年前・7年前の年分への遡及
- 調査着手後6ヶ月以上の長期仕掛事案
税務調査における「三段論法」
ここで重要なのは、税務調査のみならずですが、税務判断をする場合の、考える【順番】です。正しい順番は下記です。
2 事実認定(証拠の収集等)
3 課税要件への当てはめ
わかりにくいので、実際の否認項目で考えてみましょう。
社長の妻が取締役になっていて、役員報酬が40万円/月支給されている。調査官は、妻が実際には業務をしていないことから、過大役員報酬として否認指摘をした。
◯当該役員の職務の内容
◯その内国法人の収益及びその使用人に対する給与の支給の状況
◯その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する給与の支給の状況等に照らし、当該役員の職務に対する対価として相当であると認められる金額
と法令において規定されている
取締役である妻が職務・業務を行っていないことの証拠が必要となります。例えば、職場に妻のパソコン等がない、本人の答弁、従業員へのヒアリングによる申述べ内容などが事実として挙げられる。
本事案においては、上記施行令の「当該役員の職務の内容」から役員報酬が過大かどうかを判断することになります。
また、妻が少しは業務をしているような場合は、「その使用人に対する給与の支給の状況」で考える必要がありますので、妻と同じような業務をしている他の社員がいるなら、その方の給与と比して高額ということであれば、それを超える部分が過大役員報酬と考えます。
否認指摘に根拠はあるのか?
調査官の中には、否認することが目的で、3から考えて、2を先にして、後から1をムリにでも考える担当もいます。ヒドいケースになると、1の根拠がまったくなく、否認指摘しているケースもあります。
先日実際にあった質問・相談ですが、役員報酬の未払分を、否認指摘を受けたというものがありました。
役員報酬は定期同額で「計上されている」のですが、未払いだから計上していても役員給与として損金にならない、というのが調査官の主張でした。
はっきり言いますが、意味不明です。なぜなら、1の法令根拠がないからです。
役員報酬の形式・実質基準をすべて満たしているにもかかわらず、ただ「未払い」というだけでの否認指摘です。
このようなケースでは、「未払いの役員報酬が損金にならないという法令規定はどこにあるんですか?」と1の根拠を聞かなければならないということです。
調査官に対する適正な反論のために
税務調査において、上記の順番で考え否認指摘してくる調査官は少ないように思います。
だからこそ、調査に立ち会う税理士がこの順番で否認指摘の内容を考える必要があります。
論理的に考えれば当たり前のことですが、ぜひ上記の順番で考えたうえで、否認指摘に対する適正な反論をしてください。