不当に長引く税務調査に対応する方法
税務調査
不当に長引く税務調査に対応する方法

著者プロフィール

久保憂希也

久保 憂希也(くぼ ゆきや)

元国税調査官・株式会社KACHIEL代表取締役 CEO
1977年 和歌山県和歌山市生まれ
1992年 智弁学園和歌山高校入学
1995年 慶應義塾大学経済学部入学
2001年 国税庁入庁、東京国税局配属 医療業、士業、飲食店、不動産関連などの税務調査を担当、また、資料調査課のプロジェクトで芸能人や風俗等の税務調査にも携わる。さらに、東京国税局にて外国人課税に関する税務調査も担当。
2008年 株式会社 InspireConsultingを設立し、税務調査のコンサルタントとして活動し、現在は全国で税務調査対策研究会を開催し、数千名の税理士に税務調査の正しい対応方法を教えている。

不当に長引く税務調査に対応する方法

 税務調査は、調査対象者の規模等によって要する期間に相違はありますが、一般的には2~3日で終わるケースが多いでしょう。
 一方で、否認指摘の項目または論点にもよりますが、異常に長引く税務調査があるのもまた事実です。
 本稿では、調査官に課されている「3ヵ月ルール」と、不当に長引かされている税務調査に対応する方法について解説します。

税務署内の「3ヵ月ルール」

 あまり知られていませんが、国税内には税務調査における「3ヵ月ルール」が存在します。

 税務調査は法的には、調査開始から○ヶ月・○年以内に終わらなければならない、という規定がありません。
 一方、税務署では「3ヵ月ルール」を原則としており、調査開始から3ヵ月を超える調査事案については統括官の決裁が必要とされています。
 ですから、調査官としては、税務調査をいつまでも延ばしていいとは考えておらず、長引く調査であったとしても、1つの基準を調査初日から「3ヵ月」と捉えています。
 もちろん、調査事案によっては、

  • 資料などが膨大
  • 資料が揃っていないため反面調査が必要
  • さらに時間をかければ増差が見込める

というものが存在しますので、3ヵ月を超える調査があるのも事実です。
 しかし、調査官も3ヵ月を超えるだけで、統括官に対して、長期化している正当な理由と根拠を示してから統括官の決裁を得なければならないため、手続きが面倒であるとともに、統括官が許可しなければ、調査を終わらせなければならない状況に追い込まれるのです。

税務調査が3ヵ月を超えてもいい基準

 統括官が「3ヵ月ルール」を決裁するのに、もっとも柔軟なのは重加算税が見込まれる事案です。
重加算税を賦課できる調査事案は、所得の認定とともに、仮装・隠ぺいの事実認定が必要になり、そもそも時間を要するものですし、何より重加算税の賦課ができるのであれば、それだけで自身の評価が高くなりますので、「時間をかけて良し」としやすいわけです。

 裏を返せば、重加算税が見込まれるような事案ではない、増差所得もそれほど高く見込めないような調査事案であれば、統括官は決裁しづらいですし、その内情を調査官もよくわかっています。

 税務調査が2ヶ月程度に長引いた場合に、調査官から「そろそろ調査を終わりにしたいので」と言って、折れてくるケースがありますが、それはこの「3ヵ月ルール」を守ろうとする調査官の意図がはたらいているのです。
 税務調査は基本、臨場2日+交渉時間、で終わるのがベストなのですが、否認指摘の項目が多かったり、調査官と見解の隔たりが大きい場合には、あえて引き延ばすことで、「3ヵ月ルール」を利用した有利な交渉ができることもあります。
 「3ヵ月」は調査官の重要な目安ですので、このルールを知っているだけで税務調査を有利に進めることができます。

長引く税務調査の内情

 上記のように、調査官は国税の内情として、3ヵ月以内に調査を終わらせるインセンティブがはたらくのですが、一方で3ヵ月を超える非常に長い調査があることも事実でしょう。
 私への相談・質問で多いのが

「実地調査があってから、1ヶ月以上調査官から何も連絡がないが、どうすればいいですか?」

というものです。おそらく、調査官の怠慢、もしくは他の調査にハマっているものと思いますが、これはこれで困るわけです。
 また、3ヵ月で調査が終わらない場合、統括官の決裁が必要なのですが、逆に言うと決裁をもらってしまえば、3ヵ月を超してもあとは何ら問題がない、とも捉えることができます。
 ですから、長引く調査は、異常なほど長引いてしまう、ということが調査実務においては発生するわけです。

長引いた税務調査の実例

実際に相談があった事例において、私が依頼を受けて文書を提出した事案を紹介しますが、まずその前提となる税務調査の状況から。

  • 11月上旬に調査が開始
  • 11月下旬に否認指摘の一部を認めるも、一部の指摘項目と重加算税については反論
  • 12月初旬に上記反論内容を取りまとめた文書を統括官および調査官に税務署で提出
  • 以後、税務署からの連絡なし
  • 年末~2月上旬にかけて、顧問税理士が税務署の調査官に電話をかけても、毎回不在。折り返しの連絡も一切なし。
  • 確定申告の時期に入ることもあり、文書を税務署長宛てに提出。
  • 2営業日後に調査官から連絡があり、高圧的だった態度がかなり改められていた
  • 反論した部分についてはすべて是認で、2月中旬に修正申告を提出して調査結了

税務署に提出した文書(の内容)とは?

不当に長引く(長引かされている)税務調査については、下記のような文書内容が参考になります。これは上記事案で実際に提出した文書の一部です。

【抗弁内容】

税務調査の経緯を社会通念上から考えるに、明らかに不当な税務調査と言わざるを得ません。理由としては下記になります。
  • 通常税務調査は臨場調査後1週間程度で結了する
  • 指摘事項等が多くても、通常税務調査は3ヶ月程度で結了する
  • 税務署から今後の方向性など一切回答をいただけていない
  • 当方としては納得できる指摘事項に対して修正申告の意思を表示
  • 修正申告の時期を不当に遅延されると延滞税が多額になる
  • 税務調査で明確な結論が出されないため法人は精神的被害を受けている
以上により、税務調査の不当性は明らかで、かつ当方より改善要求等を口頭で伝えても、まったく改善される傾向にないため、本書面により抗弁いたします。
なお、これ以上税務調査が長引くということであれば、調査が引き延ばされたことによる延滞税の実損金額、および法人代表者等が受けた精神的被害を、国家賠償法第1条を根拠に訴訟を提起いたしますので、ご留意ください。
国家賠償法第1条
国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

3ヵ月ルールとともに、不当に調査を長引かされた場合の対応方法・根拠としては上記がそのまま使えますので、ぜひ活用してください。