更正の請求(特に、その特例)に関しては、実務上はよく問題になるにもかかわらず、あまり理解されていない方が多いようです。
本稿では、更正の請求の「原則」を確認しながら、国税通則法・各個別税法等で定められている「特例」について、網羅的に解説します。
更正の請求(原則)
まず、更正の請求の「原則」から解説します。法律を確認しましょう。
納税申告書を提出した者は、次の各号のいずれかに該当する場合には、当該申告書に係る国税の法定申告期限から5年(第2号に掲げる場合のうち法人税に係る場合については、9年)以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等(当該課税標準等又は税額等に関し次条又は第26条(再更正)の規定による更正(以下この条において「更正」という。)があつた場合には、当該更正後の課税標準等又は税額等)につき更正をすべき旨の請求をすることができる。
1.当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従つていなかつたこと又は当該計算に誤りがあつたことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額(当該税額に関し更正があつた場合には、当該更正後の税額)が過大であるとき。
~以下、略~
更正の請求の要件は、「税額が過大であるとき」だけではなく、「法律の規定に従つていなかつたこと」もしくは「計算に誤りがあつたこと」となります。
※修正申告は「税額が過少であるとき」のみが要件です
例えば、法人が減価償却を計上していない期があったとして、後で減価償却を計上したい場合において、更正の請求ができるか、と考えてみると、更正の請求はできません。
なぜなら、法人税法第31条により減価償却費の計上は任意償却とされていますので、計上しても計上しなくてもいいわけですから、当初申告で計上していない減価償却を後で損金にしたいから更正の請求をすることは、「法律の規定に従つていなかつたこと」「計算に誤りがあつたこと」のどちらにも該当しないので、更正の請求はできません。
このように更正の請求は、正しい処理方法から正しい処理方法への変更ができないことが注意点です。
一方で、所得税法における減価償却費の計上は、法人税と相違し任意償却ではなく強制償却ですから、更正の請求をすることができることになります。
国税通則法に定める更正の請求の特例
ここまで原則的な更正の請求で、期間は法定申告期限から「5年」となっていますが、これ以外にも特例が存在します。
まず、上記の国税通則法には続きがあって、第2項には3つの特例が規定されています。
すべて、事象の発生から2ヶ月以内とされていることに注意してお読みください。
納税申告書を提出した者又は第25条(決定)の規定による決定(以下この項において「決定」という。)を受けた者は、次の各号のいずれかに該当する場合(納税申告書を提出した者については、当該各号に定める期間の満了する日が前項に規定する期間の満了する日後に到来する場合に限る。)には、同項の規定にかかわらず、当該各号に定める期間において、その該当することを理由として同項の規定による更正の請求(以下「更正の請求」という。)をすることができる。
一 その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となつた事実に関する訴えについての判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む。)により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したときその確定した日の翌日から起算して2月以内
二 その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算に当たつてその申告をし、又は決定を受けた者に帰属するものとされていた所得その他課税物件が他の者に帰属するものとする当該他の者に係る国税の更正又は決定があつたとき当該更正又は決定があつた日の翌日から起算して2月以内
三 その他当該国税の法定申告期限後に生じた前2号に類する政令で定めるやむを得ない理由があるとき当該理由が生じた日の翌日から起算して2月以内
いわゆる「後発事象」があった場合に、5年の期限を徒過していたとしても、後発事象から2ヶ月以内に限って更正の請求を認めているのがこの特例です。
国税通則法による各特例の解説
上記、国税通則法に定める更正の請求の各特例について、順番に解説していきましょう。
(1)国税通則法第23条第2項第一号:判決
実務上もっとも使われるのはこの特例でしょう。債権債務・所得の帰属など当事者間で争いがあった場合で、裁判までいってるケースでは、判決もしくは和解があった時点で、当初申告から所得・税額が減る場合もあります。
このような事情があった場合は、判決・和解から2ヶ月以内であれば更正の請求をすることができます。
(2)国税通則法第23条第2項第二号:他者への帰属
いわゆる「跳ね返り」による更正の請求です。
例えば、親子会社間の取引において、当初申告の段階では親会社の負担としていた経費を、税務調査で子会社が負担すべきものとして更正された場合、親会社は増額更正になりますが、国税は通常、職権により子会社に対する減額更正は行いません(子会社は調査対象ではない)。
このようなケースでは、親会社が更正を受けた日から2ヶ月以内に子会社は更正の請求をすることができます。
(3)国税通則法第23条第2項第三号:その他
上記(1)(2)を除いた、いわゆる「宥恕規定」です。
これに関しては、国税通則法施行令第6条第1項の第一号~五号に規定されていますので、詳しく知りたい方は条文をお読みください。
また、後発事象について争った裁決も多数公開されています。理解を深めたい方はこちらをご覧ください。
公開裁決事例 国税通則法関係 > 後発的事由
http://www.kfs.go.jp/service/MP/01/0202030000.html
個別税法における更正の請求の特例
税法においては、国税通則法は一般法であり、原則として国税通則法の規定を適用することになりますが、各個別税法においてその例外が規定されている場合は、各個別税法の規定が優先適用される、という関係で成り立っています。
ですから、国税通則法を原則としながらも、各個別税法の例外規定を知っておかなければ、実務対応ができない、ということになります。
それでは、下記税目別に解説します。なお、条文を引用すると長くなりますので、あえて割愛しますが、すべての規定はいわゆる「後発事象」があった場合の更正の請求の特例と理解して読み進めてください。
【法人税法】第80条の2
前事業年度の法人税額等の更正等(修正申告を含む)にともなって、税額が過大になった場合には、その更正等から2ヶ月以内に限り、更正の請求ができる、という規定です。
例えば、税務調査で5期前の売上の「期ズレ」を修正申告したとします。こうなると、6期前の売上所得・税額が減ることになるのですが、更正の請求の期限である5年を過ぎているので、国税通則法の原則では更正の請求ができないことになります。
このようなケースにおいては、法人税法第80条の2を利用して、修正申告したことにより、「反射的に動いた結果」税額が過少になる期間に関しては更正の請求ができるのです。
この規定は、実務上よく出てくるにもかかわらず、税理士も調査官すらも知らないケースが多いため、ぜひ知っておいてください。
【消費税法】第56条
こちらも、上記法人税法と同じ規定で、期ズレなど、前課税期間に影響がある修正申告・更正があった場合、2ヶ月以内に更正の請求ができるとする規定です。
【相続税法】第32条
未分割遺産につき法定相続分に従って課税価格を計算して申告した場合において、その後遺産分割が行われ、その取得財産の課税価格が当初申告にかかる課税価格と異なる場合、その事由が生じたことを知った日の翌日から「4ヶ月以内」に限り、更正の請求をすることができます。
【所得税法】
(1)事業を廃止した場合の必要経費の特例:第63条・第152条
事業を廃止した後に当該事業にかかる費用または損失が生じた場合には、当該事実が生じた日の翌日から2ヶ月以内に限り更正の請求ができます
(2)資産の譲渡代金が回収不能となった場合等の所得計算の特例:第64条第1項・第152条
いったん収入金額または総収入金額に算入した債権が回収不能となった場合には、当該事実が生じた日の翌日から2ヶ月以内に限り、更正の請求をすることができます
(3)無効な行為により生じた経済的効果が失われた場合:第152条・施行令274条第一号
各種所得の計算の基礎となった事実のうちに含まれていた無効な行為により生じた経済的成果が、その行為の無効であることに基因して失われた場合、当該事実が生じた日の翌日から2ヶ月以内に限り、更正の請求をすることができます
(4)取り消すことができる行為が取り消された場合:第152条・施行令274条第二号
各種所得の計算の基礎となった事実のうちに含まれていた取り消すことのできる行為が取り消された場合、当該事実が生じた日の翌日から2ヶ月以内に限り更正の請求をすることができます
更正の請求の特例については、知らないというだけで請求漏れを起こすことになりますので、ぜひ知っておいてください。