日本は、全体が海に取り囲まれたオーシャンビューですが、毎年、海を越えての国際相続が増加しています。背景として、近年、海を越えて国外に在留する日本人数は、外務省のデータからはすでに140万人を越え、統計を開始した昭和43年以降増加の一途です。移住の理由は、「企業の海外進出による理由」が最多ですが、そのほかには、「退職後に生活を海外に移す」・「留学」・「財産を海外で増やすため」など、海外移住を選択する理由が広がっています。
国際相続や贈与が難しくなる理由
そのような背景をもとに、実際の相続手続き等が難しくなる理由を次に簡単に5つ挙げました。
前回の記事にも記載したのですが、親子、婚姻、養子関係は、どの国の法律や遺言方式が適用されるかによって相続人の意図とは異なる結果になることもあり慎重な判断が必要になります。
この点も前回の記事に記載しましたが、「人」の側面で法を重視する日本・ドイツ・韓国などの国とは別に、「財産」の側面で法を重視する米国・英国などがあり、相続の価値観自体が国によって異なります。
日本は、相続人が財産や負債をすべて引き継ぐという「包括承継方式」を採用しています。一方、米国や英国、香港のように、被相続人の財産を先に精算する「管理精算方式」をとっている国もあります。この方法はプロベート制度といい、遺産分割に数年間を要する場合があります。
米国のように相続人に叔父や叔母いとこを含む国や、法定相続人を守る分割制度がない国もあります。このため、突然会ったこともない親戚から莫大な遺産が入ってくるようなこともあり得ます。
日本とは文化や言葉が異なるため、予想以上の時間や困難さを伴う可能性が十分にあります。
富裕層への税の包囲網
=国際戦略トータルプラン=
海の向こうにある財産を持っている富裕層や、海外取引のある企業を国税庁も本腰で調査を始めています。
国税庁は2016年に富裕層の財産把握のために「国際戦略トータルプラン」を公表し、海外資産や租税回避が把握できるような仕組みを作りました。近年の世の中では「パナマ文書」などのタックスヘイブン(租税回避地)を利用した金融取引データが公開され、日本でも2017年6月までに国税当局が総額31億円の申告漏れを調査で把握したと報じられました。経済社会がますます国際化している中で、国税庁は「国際戦略トータルプラン」を推進し、積極的に富裕層や海外取引をターゲットにした調査などを実施していくと公表しています。
国際トータルプランによる包囲網を具体的に3つ挙げます。
1.積極的な情報収集・膨大な資料のデータ分析による包囲網
国税庁が誇る巨大なデータベースであるKSKシステム(正式名称は「国税総合管理システム」)は、日本全国の個人や会社の情報が蓄積された膨大なビッグデータを保有しています。申告書や国外財産調書などの納税者からの情報はもちろんのこと、「国外送金等調書」など金融機関等から提出されている100万円以上の海外送金データや、証券取引データなどで一般企業から収集をしている海外取引情報、租税条約等で海外の税務当局と交換される情報、調査時の資料収集やシェアリングビジネス等の情報等がデータバンクに収められています。
2.国税当局の人員配置・調査体制による包囲網
国税庁は、データを活用する人材の布陣についても富裕層プロジェクトチームを設置しており、本人・関係者・関連法人をグループ一体として重点管理し、情報の収集、分析を行っています。このように、海外取引を行う富裕層を狙って調査を行うと同時に、情報収集をする国際担当の専門官の人員も増加させ、職員全体の海外取引調査の能力向上の研修等を行っています。3.国外の税務当局との協力体制による包囲網
日本は、世界135ヶ国・地域(令和2年現在)の外国税務当局と租税条約等による情報交換ネットワークを発効しています。それにより年間数十万件の情報交換を行っているほか、2018年からはCRS(非居住者の金融口座情報の自動的交換)も始まりました。今後は、自動的に海外の金融口座の情報(氏名・住所・口座残高等)がやり取りされます。なお、米国は独自にFATCA(外国口座税務コンプライアンス法)としての情報網を駆使しています。
このようなことから、海外資産を隠ぺいしない対策が各国で整備されてきています。