本稿では、社員の資格取得費用等を雇用主が負担した場合において、経済的利益が発生するのかについて解説します。
この論点は、法人か個人事業主か、業務に必要か、などありますが、それらを整理しながら話を進めましょう。
私が判断に悩んだ実例
まず、私が自社(那覇の記帳代行会社)で課税関係について、実際に悩んだ事例を紹介します。
- 外資系(在外法人)の業務を受けている
- 外資系業務の担当社員は、依頼主である会計事務所から出張依頼が実際にある(国内および国外の両方)
- 出張依頼がある時期は、出張の1ヶ月前から、直前の場合もある(日程調整は可能)
- 外資系業務の担当社員のうちパスポートを保有していない社員がいることが判明
- 出張に備えてパスポートを取得するように指示(実際の出張があるかどうかはいまだ未定)
- 申請代金は法人の費用として立替金で処理するが、給与計算時に「給与課税ではないか?」と質問を受けた
給与課税するかどうかの3要件
上記と同様の税務調査事案がありました。
- 建設業を営む法人
- 若手社員に1級建築士の資格を取得させるため、300万円/3人を法人が負担
- 調査官は「一身専属の資格であり独立開業できる」「取得費用が高い」として給与課税と指摘
という税務調査事案です。
私も同じことを考えましたが、資格とは(パスポートを含めた広い範囲で)確かに「一身専属」であり、「一身専属であれば給与課税しなければならないのか?」という素朴な疑問にぶち当たります。
上記の調査事案において、調査官の主張根拠は明記されていませんでしたが、免許等の取得費用を給与課税するかどうかを定めた通達が存在します。
※なお、下記通達は平成28年の改正によって9-15から条文移動していますが、内容はまったく同じとなっています
使用者が自己の業務遂行上の必要に基づき、役員又は使用人に当該役員又は使用人としての職務に直接必要な技術若しくは知識を習得させ、又は免許若しくは資格を取得させるための研修会、講習会等の出席費用又は大学等における聴講費用に充てるものとして支給する金品については、これらの費用として適正なものに限り、課税しなくて差し支えない。
この通達をあえて分解すると、給与課税するかどうかは3つの要件に分かれます。
(1)業務遂行上、必要であること
(2)職務に直接必要な技術若しくは知識を習得させること
(3)費用として適正なもの
ですから、まず調査官がよく言う(そしてよく判断基準と誤認されている)「一身専属である」かどうかは、給与課税の基準にならないことがわかります。
通達において「免許若しくは資格を取得させるための~費用」を含んでいるわけです。
どのような資格取得費用が給与課税不要となるのか
あくまでも例えばですが、一身専属であろうとなかろうと、下記のような費用は適正な金額である場合、給与課税は不要となります。
- 海外出張の際の個人のパスポート(旅券)の取得費用
- 運送会社など車の運転をする必要のある運転免許証の交付費用
- 飲食店における調理師免許取得のための調理師学校費用
- 英語を話す必要のある仕事での英会話学校での受講費用
当然ですが、同じ車の免許取得費用といっても、通勤に使う(方が便利)というのでは給与課税になりますし、業務の遂行上必要ということであれば給与課税にならない、ということです。
資格取得費用が高額である場合
話を戻して、上記の調査事案において、調査官が給与課税としている論拠で正しいものは、「取得費用が高い」(1人あたり100万円)という論点でしょう。
この点は、税務調査において指摘された場合は、むしろ「高い」とする根拠を調査官側に求めることになります。
1級建築士の資格を取得するのに、専門学校等に行かせることを考えれば、100万円/人はどう考えても一般相場であって、これも調査官の感覚論でしかないはずです。
個人事業主が負担した資格取得費用はどうなる?
ここまでは給与課税の話なので、源泉の問題で、法人・個人問わずですが、個人事業主の場合に必要経費になるかどうか、という問題では根拠となる通達が変わってきます。
業務を営む者又はその使用人(業務を営む者の親族でその業務に従事しているものを含む。)が当該業務の遂行に直接必要な技能又は知識の習得又は研修等を受けるために要する費用の額は、当該習得又は研修等のために通常必要とされるものに限り、必要経費に算入する。
研修費や資格取得費用が必要経費になるかどうか、という問題については、私が別の記事を書いていますので、下記を参照してください。
「研修費の必要経費性」
https://kachiel.jp/?p=10759
資格等の取得費用については「一身専属だから」という理由で否認指摘を受けがちですが、それは違うということは明白です。税務調査では根拠をもって反論してください。