申告書閲覧と各開示請求のまとめ
税務調査
申告書閲覧と各開示請求のまとめ

著者プロフィール

久保憂希也

久保 憂希也(くぼ ゆきや)

元国税調査官・株式会社KACHIEL代表取締役 CEO
1977年 和歌山県和歌山市生まれ
1992年 智弁学園和歌山高校入学
1995年 慶應義塾大学経済学部入学
2001年 国税庁入庁、東京国税局配属 医療業、士業、飲食店、不動産関連などの税務調査を担当、また、資料調査課のプロジェクトで芸能人や風俗等の税務調査にも携わる。さらに、東京国税局にて外国人課税に関する税務調査も担当。
2008年 株式会社 InspireConsultingを設立し、税務調査のコンサルタントとして活動し、現在は全国で税務調査対策研究会を開催し、数千名の税理士に税務調査の正しい対応方法を教えている。

申告書閲覧と各開示請求のまとめ

 税理士・会計事務所の実務として必須である、過去分の申告書閲覧、さらには税務署に対する開示請求を、本稿ではまとめて解説していきます。
 特に、申告書の閲覧については、2019年9月の通達(事務運営指針)改正によって、実務上の対応がかなり変わりましたので、ぜひ参考にしてください。

申告書の閲覧(最新の改正を含む)

 まず、税務署に行って申告書の閲覧をする場合ですが、下記の事務運営指針に詳細が定められています。これについては、2019年9月に改正され、写真撮影が認められることになりました。
 最新(改正後)の事務運営指針は下記です。

「申告書等閲覧サービスの実施について(事務運営指針)」
https://www.nta.go.jp/law/jimu-unei/sonota/050301/01.htm

 また、改正にかかる新旧対照表は下記になります。

https://www.nta.go.jp/law/jimu-unei/sonota/kaisei/190626_2/pdf/01.pdf

 今までは、「閲覧~書き写す」という煩雑な作業をともないましたが、以後は携帯・デジカメでの撮影が許されるので、実務上かなり楽になります。
 詳細は上記の事務運営指針を参照していただくのですが、実務上の注意点だけを挙げておきます。

・代理人が写真撮影を希望する場合は、委任状にその旨の記載が必要となりました(併せて委任状フォーマットも改正されています)

・紙での申告の場合、収受日付印・氏名・住所等は撮影の対象外となる(被覆して撮影)

・動画は不可

申告書等は何年分閲覧できるのか?

 また、閲覧したい申告書・届出(申請書)については、保存期間が存在するものとしないものがあります。申告書については税務上の時効とともに破棄されますので、7年を基本として、法人税であれば9年、相続税の一部(相続時精算課税など)は永年保存とされています。
 届出については、永年保存されている(破棄されていない)ものもありますので、保管状況等について不安があれば、事前に税務署に連絡・確認した方がいいでしょう。

 また、閲覧といっても、所轄税務署で保管されていない場合があります(国税局管内の別途倉庫に保管など)。
 閲覧のため税務署に行って、「その場には無い」ということもありますので、どちらにしても閲覧前に事前に連絡しておいた方がいいでしょう。

遠隔地であっても開示請求はできる

 税務署が遠隔地にあるなど、申告書等を閲覧に行けない場合などは、開示請求の手続きをすることになります。

「開示請求等の手続」
https://www.nta.go.jp/anout/disclosure/tetsuzuki-kojinjoho/03.htm

 こちらは郵送での対応になりますので、若干の費用はかかります。
 ただ、問題になりがちなのは時間です。「30日以内」の対応ですから、郵送時間も考慮して、急ぎの場合であれば無理かもしれません。
 また、上記の開示請求というのは、申告書(の写し)を開示請求できるのみならず、国税が保有する情報に関して、全般的に開示請求できることになります。開示の範囲や基準の詳細については、下記を確認してください。

「行政機関の保有する情報の公開に関する法律に基づく処分に係る審査基準」
https://www.nta.go.jp/about/disclosure/01.pdf

相続税申告における贈与の事前確認

 相続税の申告をする上で、生前贈与の確認をするのは実務上必須ですし、相続税の税務調査では、税務署が明確に生前贈与を認識しており、確信的に調査に入る事案も多くあります。
 生前贈与の情報が適切に把握されないのは、大きく2つの現実的問題があります。

・相続人に確認したが覚えていなかった

・相続人同士がモメていて正確な情報が不明

 相続申告前に、相続開始前3年以内の贈与もしくは相続時精算課税の適用を確認するのは当然なのですが、結局相続人が「知らなかった」「覚えていない」リスクが残るわけです。
 ここで、活用すべき制度があります。

「No.4202 相続税の申告のために必要な準備」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4202_qa.htm
「贈与税の申告内容の開示請求手続」
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/sozoku-zoyo/annai/2361.htm

 この制度は「49条開示」と呼ばれていますが、多くの税理士・会計事務所が知らずに活用できていない制度でもあります。
 この開示請求は、相続人1人・単独でも行うことができ、相続人同士がモメている場合であっても活用することができます。
 開示請求に必要な書類は、遺産分割の状況や遺言書の有無によって異なりますので、詳しくは上記の国税庁サイトをご覧ください。

 開示される情報は下記になります。

・相続開始前3年以内の贈与に開示対象者が被相続人から贈与を受けた財産の価額の合計額
(ただし、相続時精算課税適用分を除く)

・相続時精算課税の適用を受けた財産の価額

 特に、相続時精算課税の適用については「かなり昔なので覚えていない」「別の相続人が勝手に適用していた」ということがよくあり、かつ税務署としては相続税申告書に誤りがあることが明確なので税務調査で格好の餌食となります。
 49条開示請求は税理士・会計事務所にとって必須の手続きですので、ぜひ活用してください。