税務調査で大きな問題になることの1つに、税理士の立会いがないところで、納税者が質問応答記録書を押印・提出してしまった、というものがあります。
本稿では、提出してしまった質問応答記録書について、開示請求等によって内容を確認することができるのか解説しましょう。
税務署に対する開示請求の手続き
まず、税務署に対しては「行政機関の保有する(個人)情報の公開に関する法律」を根拠とした開示請求を行うことができます。
「開示請求等の手続」
https://www.nta.go.jp/anout/disclosure/tetsuzuki-kojinjoho/03.htm
「行政機関の保有する情報の公開に関する法律に基づく処分に係る審査基準」
https://www.nta.go.jp/about/disclosure/01.pdf
質問応答記録書は、税務署の職員が税務調査における調査対象者の供述を録取した書面であることから、「自己を本人とする保有個人情報」にあたる範囲で、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律12条1項に基づく開示請求によって、質問応答記録書の開示請求が可能です。
「個人情報」の範囲
相続税や所得税などに関するものであれば、基本的に質疑応答記録書の内容は、「自己を本人とする保有個人情報」に該当する箇所が多いと思いますが、法人の場合には、「個人」情報ではないため、法人の立場としては請求できません。
この場合、法人の代表個人が、自分の供述が記載された質問応答記録書として、同条に基づき請求することになります。ただし、法人に関する部分については、黒塗りが多く役に立たないことも多いでしょう。
国税の内部規定では・・・
国税の内部規定である「平成29年6月30日付 質疑応答記録書作成の手引」においても、質問応答記録書につき、開示請求が行われた場合には、「なお」書きで、原則的に開示されると記載されています。以下、該当部分の引用です。
問43
回答者や税理士から質問応答記録書の写しの交付を求められた場合、どのように対応すべきか。
(答)
質問応答記録書は、調査担当者と回答者の応答内容を記録し、調査関係書類とするために調査担当者が作成した行政文書であり、回答者や税理士に交付することを目的とした行政文書ではないことから、調査時に写しを交付してはならない。同様に、質問応答記録書を撮影させてはならない。
また、作成途中の質問応答記録書(署名・押印前のもの等)についても、写しを交付してはならない(撮影させてはならない。)。
なお、個人情報保護法に基づき、回答者等が「質問応答記録書」の開示請求を行った場合には、原則として、開示されることとなるが、あくまで別手続であるから、上記のとおり対応する。
その他の法律で開示請求できないの?
上記以外にもたとえば、情報公開法(行政機関の保有する情報の公開に関する法律)3条1項に基づく開示請求を行う方法も考えられますが、質疑応答記録書は、個人情報及び法人その他の団体に関する情報(同法5条1号、2号)にあたり不開示となりますので、こちらを根拠とすることはできません。
開示される内容
上記のように、税務署に対して質問応答記録書の開示請求をしたとしても、その全部が開示されるかどうかは、ケースバイケースといえるでしょう。
福岡地裁平成26年4月21日判決などでも争われていますが、税務調査に関する書面について、国税側は固有に作成している書面については開示対象にはならず、あくまでも開示の対象は納税者が作成・提出した書面や、それに付随して「調査のやり取りを客観的に示した内容(発言内容や調査した資料等)」に限定されますので、すべて開示されるわけではないことに注意してください。
国税に対する開示請求手続きは、根拠とする法律等が多数ありますので、ややこしいところではありますが、実務上は非常に重要ですので、これを機にきちんと整理して理解いただければと思います。