税理士・会計事務所が困る案件として「強制調査」が挙げられます。一般的に「任意調査」と呼ばれる税務調査とは相違し、その経験がない、もしくは圧倒的に少ないからです。
本稿では、直近での改正内容を踏まえて、税理士・会計事務所が最低限知っておくべき、査察による強制調査について、基本的なポイントを解説しましょう。
税制改正により国税犯則取締法が廃止
平成29年度税制改正によって、平成30年4月1日より、国税犯則取締法が国税通則法に編入・施行されました。これによって、国税犯則取締法は廃止されることになりました。
改正内容の詳細については、下記の財務省ホームページをご覧ください。
「平成29年度税制改正の大綱(6/8)」
http://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2017/29taikou_06.htm
査察事案の実例
さて、直近であった査察関連の実例を共有するとともに、査察調査があった場合に備えてその基礎となるポイントを解説しましょう。
【査察関連の実例】
- A個人に査察が入った(令状あり)
- Aと取引があるB個人にも査察が入った(Bに対する令状はなし)
- Bは査察の対応をしたが、その際に事業に関する資料等を確定申告のために、顧問税理士であるCにすべて渡していた
- 査察からC税理士に連絡があり、Bに関する事業の資料等を調査したい旨の連絡あり
- 合わせてBに対して「検査顛末書」なる書面に署名捺印をして欲しい旨を言われる
- なお、BはAに対して脱税ほう助等は一切行っていない
これらが前提となる事実ですが、「検査顛末書にサインをしていいか・すべきか?」が気になるところです。
強制調査の法的切り分け
査察が動いた場合、行為としては法的に2つに分けて考えることができ、
- (1)任意調査:国税通則法第131条
- (2)強制調査:国税通則法第132条
となります。
(2)については判別が簡単で、査察官が令状を持って行うものです。
一般的にはあまり理解されていませんが、査察が動いても令状対象者のみが強制調査の対象であり、それに関連する者には、(1)の任意調査が行われることになります。
任意調査については具体的に知りたい場合、国税通則法第131条を読んでもらうことになりますが、具体的には「質問」「検査」「領置」の3つが認められています。
話を戻すと、上記の実例においては、査察官が任意調査である「質問」「検査」を行ったことについて記録を残すために「検査顛末書」にサインを求めることになります。
嫌疑がかけられている者と取引がある者への、「質問」「検査」はあくまでも査察官に認められた権限であることは間違いありませんが、一方で「検査顛末書」へのサイン自体は任意です。
しかし、現実的に考えると、自身は取引先とはいえ、相手方に嫌疑がかけられているわけですから、自身に嫌疑がかけられないように、素直にサインに応じた方がいい場合が多いでしょう。
税理士・会計事務所としての対応は?
税理士が立ち会うことはできるのか?
査察事案においては、税理士は立ち会うことができません。国税通則法第142条において、本人以外の立ち会いが認められていません。
ただし、上記のように関連書類などを税理士が保有している場合は、税理士が立ち会うもしくは税理士が検査を受けることになるケースもあります。
顧問先から連絡があって「査察が入りました」と言われても、税理士として法的に立会いができない以上は、その旨を伝える必要があります。
関与している税理士事務所に査察は入るのか?
嫌疑がかけられている納税者との関与度合いによりますが、一般的には税理士に対して任意調査が入ることが多いです。
この任意調査も、あくまでも税理士に対して令状はないものの、実質は断ることができませんので対応しなければならないことになります。
査察調査については、あまり経験がないでしょうが、経験がないからこそ、実際にあったときは判断に迷うことになります。
査察調査についても、最低限のことは知っておかなければなりません。