平成23年度の税制改正により、国税通則法が大改正され、税務調査の手続きについて詳細な法律・通達規定が定められましたが、一方でいまだに、違法な手続きによる税務調査事案が存在するのもまた事実です。
本稿では、税務調査手続きが違法であった場合、その調査による処分(更正など)は取消しになるのか、また税務調査においてどのように対応すべきかについて考えてみましょう。
違法調査は報道でも取り上げられています
メディアでも大々的に取り上げられていましたが、国税によるいわゆる「横目調査」が調査手続きとして適法なのかが争われました裁判があります。
「マルサの「横目調査」是非めぐり争う国税と被告」
http://sum-rise.jp/horserace-taxevasion
国税側は裁判で、現職の査察官が出廷して、「横目をしていない」ことを証言しましたので、真っ向から横目調査自体が争われたわけではありませんが、違法な手続きにより収集された情報をもとにした課税処分の是非が問われました。
以前は「国税の裁量」によるところが大きく、納税側として受け入れざるを得なかったケースもこのように争いになることも増えました。
違法調査の裁決事例を見てみましょう
上記の横目とは相違しますが、わりと最近の裁決でも、違法な手続きによる処分が争われた事案があります。
(平成28年10月31日 非公開裁決)
この裁決事例における論点は多いので、本稿の趣旨に合致する部分だけ取り上げたいと思います。
裁決文をかなり簡易的に書きなおして解説すると、下記のようになります。
・更正は平成27年6月に行われた
・更正の対象は平成23年所得税の確定申告書
・保険解約による一時所得が漏れていた
・国税が得た資料せんから、実地調査をせずに最終的には更正となった(顧問税理士への連絡・やり取りはある)
・確定申告書は毎年事業所管轄の税務署に提出
・実際の納税地は事業所ではなく住所地であったが、申告があった事業所管轄の税務署が更正をした
・(1)管轄外の税務署による課税処分は違法か?
・(2)管轄外の税務署が得た資料せんによる課税処分は違法な証拠となるのか?
・(3)実地調査が行われていない課税処分は違法か?
この裁決事例から学ぶべきことは・・・
納税者側は、総じて調査手続きに違法があったので、課税処分(更正)の取消しを求めましたが、結果としては納税者が負けています。裁決文を読むと、納税者側の主張はかなりムリして根拠を作っている感じはします。
例えば、(1)については、顧問税理士がいながら毎年事業所での申告を行っているわけで、更正されてから「真の納税地は相違している」と主張するのはムリがあると言わざるを得ません。
ただ、本稿で理解いただきたいのは、調査手続きに関して違法性があった場合には、概ね下記の可能性はある、ということです(上記裁決文から引用)。
【調査手続の瑕疵は原則として、課税処分の取消事由とはならない】
ただし、例外的に
【課税処分の基礎となる証拠資料の収集手続が刑罰法規に触れ、公序良俗に反し又は社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたるなどの重大な違法を帯び、調査を全く欠くに等しいとの評価を受ける場合】
は、処分が取消しになり得るということです。
税務調査における現実的な対応と主張
調査手続きに違法性があった場合に処分(更正)が違法となるか、という連動性の問題は古くから議論されていますし、過去にも数多くの判決・裁決があります。
ただ、現実的に考えるべきは、「処分される前」の話でしょう。
税務調査において、何か調査手続きに違法性があった場合に、その後更正されてから争っても実益は大きくありません。
実務的には、調査手続きに違法性があると認識した段階で主張すべき内容は、「税務調査の打ち切り」です。
実際のところは、
違法な調査 ⇒ 更正処分
が取消になるかどうかは裁判までいかないとわかりませんが、少なくとも違法調査(の可能性がある)であれば、税務調査自体を以降行わせない、というのは当然の主張だと考えます。
もちろん、調査打ち切りの要請が通ればいいのですが、それ自体が通らなくても、以後調査官も違法調査を追及されたくないという心理状態になりますから、調査が続行されても交渉は楽になるという、確実な実益はあるはずです。
昨今は特に、調査手続きが取り上げられる機会も増え、国税側も敏感になっています。だからこそ、調査を受ける側としては調査の違法性をしっかり主張すべきなのです。
ぜひ、参考にしてください。