平成25年1月以降の税務調査から調査手続きが厳格化されたことにともない、国税内部において「質問応答記録書作成の手引について(情報)」(国税庁 課税総括課情報 第3号 平成25年6月26日)が出され、税務調査において必要あれば「質問応答記録書」を担当調査官が作成することとなりました。
さて、税務調査において提出してしまった質問応答記録書が、納税者にとって不利な内容である場合に、その内容の訂正はできるのでしょうか。
質問応答記録書を提出しない方がいい2つの理由
税務調査対応をする際に必須のポイントは、「内容が合っているのか間違っているのかを問わず、質問応答記録書には署名押印しないこと」が挙げられます。
調査官が提示する質問応答記録書の内容を確認してみたところ、問題なさそうなので署名押印する、という考え方は危険だということです。これには2つの理由が考えられます。
税務調査でよくある「売上の計上漏れで重加算税と指摘されている」というケース。「(売上の)漏れ」という言葉を使っている時点で重加算税にはなりません。
一方で、重加算税の要件は「隠ぺいまたは仮装」ですから、売上を「抜いていた」「除外していた」「脱漏していた」ということであれば、重加算税となります。このように、「漏れ」と「除外」「脱漏」はまったく違う意味合いとして使われています。
調査官の側からすれば、重加算税を認定したいわけですから、質問応答記録書に「売上を除外・脱漏」として書面を作成してくることになります。
納税者・税理士が「漏れ」と「除外」「脱漏」の違いをきちんと認識できていればいいのですが、違いがわからずに、書面の内容に問題ないとして署名押印してしまうケースが後を絶ちません。
このように、調査官が作成する書面内容は、どこが合っていて、どこが事実と相違するのか、非常に判断しづらいケースが多いです。
だからこそ、【どんな内容であっても】署名押印するのを避けなければならないのです。
そもそも論になりますが、調査官はどういう目的で質問応答記録書に署名押印を求めてくるのでしょうか。これはどんなケースであっても、税務署・調査官が(事実認定など)「有利になる」ために署名押印を求めてくることになります。
もちろん、納税者・税理士が自身で作成した書面を税務署に提出というのであれば、それは納税者有利になることが目的です。
その逆であるということを考えていただければ、質問応答記録書の提出で、納税者が有利になることはあり得ない、と考えるべきことがわかります。
顧問税理士がいない時に・・・
実際にあった、質問応答記録書の提出に関する調査事案をみてみましょう。
・納税者は内容に問題ないと考えて署名押印をしてしまった
・書面内容からすると、支払手数料にはならず、交際費となるように記載されており、交際費の損金不算入で課税されてしまう
まず、税理士が顧問先への指導として【税務署から連絡や急な訪問があっても、税理士にすべて任せているからそちらにお願いします】として対応いただく必要があります。
でなければ、上記のように、タチの悪い調査官はあえて税理士不在の間に、質問応答記録書の提出を求めてくるケースがありますし、納税者はその内容の真偽を確かめる術はありませんから、余計に話がややこしくなります。
立証責任を押し付けられないこと
少し話が逸れましたが、質問応答記録書を提出してしまった場合、その内容について修正・訂正を求めるのは当然の話でしょう。質問応答記録書については、国税内で下記の内部規定が存在します。
この中に、下記の規定・記載があります。
問26
質問応答記録書を完成させた後に、回答者から、後日、訂正・変更の申立てがあった場合、どのように対応すべきか。
(答)
回答者から、後日、訂正・変更の申立てがあっても、当該質問応答記録書には訂正等は行ってはならない。必要に応じ、訂正・変更の主張及び変更後の回答内容を記録するための新しい質問応答記録書を作成するなどの方法により対応する。
上記のとおり、質問応答記録書を提出しまった場合、訂正・変更を求めることはできなくても、「新しい質問応答記録書」の提出を求めることは可能ということです。
なお、上記の規定を理解いただけるとわかるのですが、いったん提出した質問応答記録書を回収したり、なかったものとするということはできません。
あくまでも、いったん提出したという事実関係が消えることなく、その書面をどう「上書き」するのかということが論点となります。
質問応答記録書の提出が求められる調査事案は確実に存在する
質問応答記録書の話をすると、経験上「提出を要求されたことがない」という税理士も多いように思いますが、実際のところ調査事案として悩んでいる税理士・納税者は多いのです。
提出してしまってからでは遅い、という状況になりかねませんので、顧問先への注意喚起も含めて、対応を間違えないでいただきたいと思います。