税務調査における「立証責任」は、原則として国税側にあるということを解説してきました。
一方で、実務上の疑問点として、税務調査において「納税者にはどこまでの義務があるのか?」いわゆる説明義務の範囲があり、理解が難しい論点でもあります。
本稿では、税務調査において納税者が負う説明義務と、国税側が負う立証責任の分岐点について解説します。
国税と納税者の各責任・義務を分類してみましょう
まず前提ですが、税務調査において国税と納税者の責任(義務)は下記のように分類されることになります。
納税者:受忍義務があり、所得・税額の計算内容・過程などに回答する義務がある(国税通則法第127条第2・3項)
この関係性を、税務調査の時系列で簡略化すると、下記のようになります。
調査官が質問などをする
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納税者がこれに対して回答をする
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まだ不明点がある
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資料などを提示して具体的に説明する
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ここまでが【説明義務】
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調査官が否認指摘をする
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それに対して反論をする
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否認のための証拠資料等を集める
⇒
納税者が説明義務を果たした後の部分が国税の【立証責任】
具体例で考えてみましょう
なお、このように漠然と解説しても理解しにくい論点でしょうから、よくある税務調査の例(質疑応答形式)から、説明義務と立証責任の分岐点を考えてみましょう。
例1
【質問】
実地調査後、申告した売上と、調査官が署内で集計した売上と一致しないから、納税者と再度話をするか、私(税理士)に申告額が正しい旨の根拠書類を作成するよう依頼されていますが、これに応じる必要がありますか?
【回答】
当初申告に対して調査が行われているわけですから、申告額に対して納税側に説明責任があります。「申告額が正しい旨の根拠書類を作成するよう依頼されています」というものにわざわざ応じる必要はないと思いますが、売上のみが焦点になっているのであれば、その売上額がどのような計算でその数字になったのかは説明する必要があります。
納税者(税理士)が申告額の計算根拠を明示したうえで、調査官が否認指摘をするのであれば、その立証責任は調査官側にあることになります。
例2
【質問】
個人が所有するビルを入札により売却しました。不動産の取得は昭和33年と古く、かつ相続で取得しているため、資料等からは取得価額が不明のため、土地の取得価額については全国市街地価格指数を用いて算出しました。税務調査では、全国市街地価格指数ではなく5%の取得価額と指摘されましたが、これに対する立証責任はどちらにあるのでしょうか?
【回答】
当初申告において合理的と判断した結果の取得費を申告納税制度に基づき、計算したわけですから、説明義務を十分果たしています。これにつき合理的でないと言うのであれば、そうでない理由を立証する責任は、国税側にあると考えます。
例3
【質問】
塾を運営する会社の税務調査で、会社では月謝袋による現金の回収があります。現金回収の場合には、領収書を出しています。回収された現金は、すぐに通帳に入金されます。この通帳を見ながら、売上の入力をしています。また、月次の月謝回収額については、エクセルで別途資料を作成しています。調査官からあったのが、この「売上の元帳から月謝の売上だけを抜き出した合計額」と、「月次のエクセル資料の月次合計額」とが一致しないのですが、という質問でした。これにはどのように対応すべきでしょうか?
【回答】
会社が保有している原資記録と実際の記帳の流れを説明し、資料を提示すれば、それに対して調査・確認するのは国税側の仕事です。ですから、下記のように主張してください。
「資料相互間の差異を具体的に指摘してください。その指摘に対しては、納税者として説明・回答義務があります。一方で、合計額が一致しないというような漠然とした問いは、具体的な質問になっていないので回答しようがありません」
立証責任を押し付けられないこと
税務調査において、納税者側として説明をし尽しても、それに対してまだ調査官が説明を求めてくる、もしくは立証責任を押し付けてくるケースが多々あります。
納税者側に説明責任・義務は当然ありますが、それを果たしたのか、果たした後の話であれば国税(調査官)側の責任・義務であることをきちんと切り分けて主張することが大事です。
説明責任と立証責任の分岐点を意識しながら税務調査の立会いに臨んでください。