前回の「税務調査における立証責任と説明義務①」において、税務調査における立証責任は、原則として国税側にある、と解説しました。
一方で、税務調査において納税者が負う責任・義務がないわけではありません。
今回は、納税者が負う「説明義務」について解説します。
納税者には受忍義務がある
「税務調査における立証責任=国税にある」と結論だけ知ると、「立証責任は税務署にあるのだから、納税者としては自分が有利なように適当に答えておけばいい」と勘違いしてしまう方も多いように思います。
税務調査において、立証責任は税務署にある一方で、納税者にはどのような責任・義務があるのでしょうか。
さて、質問です。顧問先に下記のように聞かれたら、どのように答えますか?(根拠も合わせて)
「税務調査は断れますか?」
この問いに対して、正確な回答ができる税理士は非常に少ないように思います。
単純に考えると、「税務調査は任意である」以上は、断れると考えてしまうのか、もしくは、断れるのであれば誰も税務調査を受けない、と考えるのか。税務調査は「任意」ではありますが、これは受けても受けなくてもいい、という意味ではありません。
受忍義務を定める法律規定
国税通則法第74条の2以降において国税側に質問検査権を定める一方で、第128条において納税者には受忍義務を定めています。
次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
二 第七十四条の二、第七十四条の三(第二項を除く。)、第七十四条の四(第三項を除く。)、第七十四条の五(第一号二、第二号二、第三号二及び第四号二を除く。)若しくは第七十四条の六(当該職員の質問検査権)の規定による当該職員の質問に対して答弁せず、若しくは偽りの答弁をし、又はこれらの規定による検査、採取、移動の禁止若しくは封かんの実施を拒み、妨げ、若しくは忌避した者
三 第七十四条の二から第七十四条の六までの規定による物件の提示又は提出の要求に対し、正当な理由がなくこれに応じず、又は偽りの記載しくは記録をした帳簿書類その他の物件(その写しを含む。)を提示し、若しくは提出した者
以上の規定により、税務調査を断ることはできませんし、税務調査において納税者は、黙秘することもできません、嘘を言うこともできません。これが、受忍義務なのです。
税務調査では説明義務がある
ということは、税務調査は断ることができないのはもちろん、調査官の質問に対して、知っている・記憶がある範囲内で「説明(回答)義務」があるというわけです。
もちろん、本当に「知らない」「覚えていない」「無い」ということであれば、これが真実の回答ですから、この時点で説明義務を果たしているということになります。
本稿の前回において、立証責任を強調しているのは、納税者が説明義務を果たしているにもかかわらず、「きちんと説明できないなら課税します」と言ってくる調査官は、間違っているからなのです。
例えば、このようなケースです。
タイムカードはありませんが、職務内容(経理処理や雑用等)を説明しても調査官はまったく納得せず、こう言いました。
「奥さんの勤務実態を証明できないのであれば、過大役員報酬で否認せざるを得ませんね」
これは、納税者がきちんと説明をしているにもかかわらず、調査官がそれに納得をしていない、という理由だけで課税をされるようなケースです。
これは、納税者として説明義務を果たしている以上、「では、あなた(調査官)が勤務実態がない、もしくは勤務内容と役員報酬が見合わない(過大である)ことを立証すべきです」と反論すべきということなのです。
立証責任と説明義務を混同しないよう、調査の立会いには十分気を付けてください。