税務調査において、「立証責任」が国税側と、税務調査を受けている被調査対象者=納税者のどちらにあるのかが問題になることがあります。
また納税者としては、帳簿書類等を提示・提出しなければならないとする受忍義務がある以上は、何らかの責任・義務があると解釈されることから、税務調査においては実務上、「立証責任」と「説明責任」が混在して考えられがちです。
本稿では3回に分けて、「税務調査における立証責任と説明義務」について解説していきます。
税務調査における立証責任は?
「立証責任」とは、ある一定の事実関係を証明する責任のことを指し、裁判等においては、この責任を果たせない場合には、その人は負けるというのが原則とした考え方になっています。「証明責任」や「挙証責任」と呼ばれることもあります。
下記の最高裁判決から、税務調査における立証責任は、原則として国税にあると解されています。
所得の存在及びその金額について決定庁が立証責任を負うことはいうまでもないところである。
このように、税務調査における立証責任が原則として国税側にあるとする考え方は、「法律要件分類説」によるものとされていますが、本稿の本論ではないことから、詳細に知りたい方は下記を参照してください。
「主張・立証責任の分配」
https://www.tabisland.ne.jp/explain/youken/yokn_106.htm
「証明(立証)責任とは何か?〜課税要件事実を証明する責任は誰にあるのか?〜」
https://zeirishi-law.com/basic/shomei-sekinin
繰り返しますが、税務調査における立証責任の本質は、原則として、調査官(税務署)に立証責任がある、ということです。
つまり、申告納税制度のもと、納税者(税理士)が提出した申告内容に対して、税務調査で否認指摘をするなら、否認指摘をした側がその証拠等を探さなければならない、というものです。
そのために法律上、調査官(税務署)に質問検査権が認められているのですし、また併せて反面調査が認められているのも、あくまでも立証責任が調査官(税務署)側にあるからなのです。
ですから、調査官が否認指摘をしてきて、「証拠を提示できないと否認しますよ」と言うのは、どちらに立証責任があるのか、わかっていないともいえます。
原則があれば例外がある
上記では、常に「原則として」立証責任は国税側にある、と書いてきましたが、原則があれば例外があります。次は、立証責任が「納税者に転換される」ケースを解説しましょう。
まず、下記の公開裁決事例を見てみましょう。
「外注費として支出した工事代金等につき対価性がなく寄附金に該当するとした原処分の一部を取り消した事例」(平成23年3月8日公開裁決)
http://www.kfs.go.jp/service/JP/82/12/index.html
つまり、あくまでも帳簿の内容を否認するとすればそれは税務署(調査官)に立証責任があるのですが、帳簿の内容と「違う」事実を主張したいのであれば、納税者側が立証責任を負いますよ、という裁決内容になっており、その結果として、納税者が立証できなかった部分のみ納税者が負けているという裁決です。
納税者に立証責任がある場合は
ここで知っておきたいのは、税務調査においては原則として税務署側に立証責任がありますが、納税者側に立証責任が転換されるケースというのは、「納税者に有利な項目」ということです。
つまり、否認指摘を受けた項目は、普通は「納税者が不利」なのですから立証責任は税務署側にあるのが原則です。ただ、納税者にとって有利な項目についてのみ、納税者側に立証責任を転換しようというのが例外です。
・当初申告で算入していなかった経費
・措置法適用による特別控除
・圧縮記帳による損金計上
・資産の評価損失・短期前払費用:課税庁が認める納税者有利の規定
例えば、質問検査権の範囲を超えた、明らかに不当な税務調査が行われたとしましょう。
この税務調査が「不当だ」と訴えるのは納税者であり、納税者によって有利なことですから、納税者側に立証責任があります。税務署側が、「これは不当な税務調査ですよ」と立証してくれるはずがないことから考えても、立証責任が転換されていることがおわかりいただけると思います。
立証責任を整理・分類すると
ここまでをいったん整理すると、
否認指摘に対する立証責任 → 原則として税務署(調査官)
納税者に有利な項目 → 納税者に転換
となるということです。
税務調査の実務においては、調査官から否認指摘を受けた項目・内容について、立証責任がどちらにあるのかということが論点になることがほとんどですから、立証責任は税務署(調査官)にあると考えておけば問題ないでしょう。