無予告調査の根拠と適法性を問う
税務調査
無予告調査の根拠と適法性を問う

著者プロフィール

久保憂希也

久保 憂希也(くぼ ゆきや)

元国税調査官・株式会社KACHIEL代表取締役 CEO
1977年 和歌山県和歌山市生まれ
1992年 智弁学園和歌山高校入学
1995年 慶應義塾大学経済学部入学
2001年 国税庁入庁、東京国税局配属 医療業、士業、飲食店、不動産関連などの税務調査を担当、また、資料調査課のプロジェクトで芸能人や風俗等の税務調査にも携わる。さらに、東京国税局にて外国人課税に関する税務調査も担当。
2008年 株式会社 InspireConsultingを設立し、税務調査のコンサルタントとして活動し、現在は全国で税務調査対策研究会を開催し、数千名の税理士に税務調査の正しい対応方法を教えている。

無予告調査の根拠と適法性を問う

 税務調査における手続きが詳細に法定化されたのが、平成23年度税制改正(平成25年1月1日以降に実施される税務調査において適用開始)でした。
 それ以前は法的要件等が定められていなかった無予告調査が、国税通則法第74条の10において明文化されました

 一方で、国税が実施する無予告調査は、税務調査手続きの法定化以前と以後では何も変わっていないように思えます。
 本稿では、無予告調査の適法性と立証責任について解説しましょう。

無予告調査の適法性を争った裁判

 今回取り上げるのは、千葉地方裁判所の平成29年11月15日判決(TAINSコード:Z888-2186)です。
 本裁判の争いとなった事実は、国税通則法に税務調査手続きが法定化された後(平成28年)であることから、非常に注目すべき内容となっています。
 本裁判は争われた論点がいくつかあるのですが、その中で、無予告調査の適法性について争われた部分のみを取り上げます。

【前提事実】
・平成28年3月、法人に無予告調査が入った

・同日に銀行に行き、法人代表者の預金口座について反面調査を実施した

・税務調査を受ける中で、違法性があるとして税理士は税務署の総務課にクレームを出し、同年6月の段階では調査官からの連絡を拒否

・無予告調査の法的要件を満たしていない違法行為として国家賠償法の請求

 本裁判に該当する税務署は千葉東税務署(東京国税局管轄)で、担当調査官は上席となっておいますが、今でもこんな荒い調査をしているのかと感じてしまいます。

納税者が負けたが判断内容は参考になる

 さてこの裁判ですが、結果としては納税者の主張が一切認められていないのですが、無予告調査の適法性と立証責任という観点からは興味深い判断が示されています

【判決の要旨】
・通則法第74条の10(事前通知を要しない場合)は、通則法第74条の9第1項の例外として規定していることからすると、税務署長等が合理的な理由なく通則法74条の10の要件に該当すると判断するなど、職務上の法的義務として通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と同条の要件該当性の判断をしたと認め得る事情がある場合、通則法74条の9第1項所定の事前通知を行わなかったことが国家賠償法上違法となるというべきである。

・その違法性の主張立証責任は原告(納税者)が負うものと解すべきである。

・もっとも、納税義務者においては、税務署長等が通則法74条の10の要件該当性の判断の根拠とした事実関係が明らかにならなければ、その判断の違法性を主張すること自体が困難になるから、被告である国としても、税務署長等が同条の要件該当性の判断の根拠とした事実関係を明らかにする責任があるというべきである。

・被告は、税務署長等が通則法74条の10の要件該当性の判断の根拠とした事実関係として、A社について、
(1)平成26年11月期から平成27年11月期にかけて、完成工事売上高よりも完成工事原価の伸び率が大きかったこと、
(2)完成工事売上高が急増している平成26年11月期のA社の確定申告書に添付された「借入金及び支払利子の内訳書」をみると、前事業年度と比較して、原告及び妻からの借入金が増加しているが、「借入理由」欄に何らの記載もなかったことを挙げている。

・原告は、上記の(1)について、建設工事業においては、受注した工事等は決して均質的なものではなく伸び率は同程度にならないのが通常である旨主張。

・しかし、税務署長は、A社において受注した工事等の施工管理を何人の従業員で行っており、完成工事売上高がいくらになると外注に依存する割合が急増するのかについては、原告が提出した申告書添付の決算報告書等からは把握することはできないから、伸び率が同程度ではないことを不正計算の端緒として疑うことが不合理であるということはできない。

簡単に言えば、国税主張は「申告書の内容では不明な点がある」としているだけの話で、これは税務調査の理由になることはあれど、無予告調査の理由・根拠ではないと個人的には思いますが、裁判所は国税側の主張を認めています。

無予告調査の要件には通達規定もある

 また、この裁判において納税者の主張根拠は法律(国税通則法)のみを挙げているようですが、無予告調査については通達の規定がありますので、通達も合わせて根拠として問えばよかったのかな、とは感じます。

「国税通則法第7章の2(国税の調査)関係通達の制定について(法令解釈通達)」
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/zeimuchosa/120912/03_2.htm#a04_7
4-7 ~ 4-10

無予告調査の立証責任を整理する

 さて、これはあくまでも裁判の話ではありますが、無予告調査の立証責任という点からは論理的に解釈されています。整理すると、

事前通知をするのが原則

無予告調査は例外(規定)

無予告調査を違法と問うのであれば、その違法性を問うのは納税者側に立証責任がある

しかし無予告調査の判断根拠がわからないと違法性を問うことは実質的にできない

国税は無予告調査の判断根拠を明らかにする責任がある

ということになります。

無予告調査の根拠・理由は開示されないのか?

 税務調査の現場においては、無予告調査に入られた際、調査官に対してその根拠・理由を問うても、明確な回答を得られないことの方が多いでしょう。
 国税の内規には下記とあります。

税務調査手続等に関するFAQ(職員用 共通 平成24年11月 国税庁課税総括課)

Q: 問2-8

事前通知を行うことなく調査を実施する場合に、納税義務者からその理由を問われた場合、どのように説明すればよいか。

A: (答)

法令上、事前通知を行うことなく調査を実施する場合にその理由を納税義務者に説明することは規定されていません。また、判例上も、実定法上特段の定めのない調査の実施の細目については、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益の衡量において社会通念上相当な範囲にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられており、事前通知を行わなかった理由についても、質問検査等を行う上での法律上の一律の要件とされているものではない旨を納税義務者に丁寧に説明の上、調査への理解と協力を求めることとします。
(以下、略)

 一方で、上記の判決でも明確になっている通り、その理由・根拠がわからないと無予告調査の違法性を問うことができないわけですから、納税者(税理士)からすると、理由・根拠の開示要請は当然のことだと考えます。
 上記判決を根拠として、無予告調査の根拠を問うとともに、その適法性の判断をすべきでしょう。