税理士としては、あって欲しくはないものの、現実には顧問先が税理士に対してウソの説明をし、それを信じて税理士が会計・税務処理をする場合があり、それが税務調査で発覚するケースもあります。
本稿では、納税者(顧問先)が税理士に対して虚偽の説明をしたことが、重加算税に該当するのかどうかについて、具体的な裁決を取り上げて解説しましょう。
裁決の内容を見ると
今回取り上げるのは平成27年12月1日裁決(TAINSコード:F0-2-769)ですが、この事案は、法人の車両売却(買い替え)をした際に、売却代金を法人ではなく、取締役の個人口座に振込み指示したもので、かつ税理士には売却代金は「0円であった」と説明したものです。
前提となる事実、および国税不服審判所の判断は下記となります。
・乙取締役が、請求人の所有物であるデミオ車両の売却について、自らの個人名義で契約書を作成し、売却代金を個人名義である口座に振り込ませた。
・そして、請求人が購入したBMW車両については、その注文書を税理士に提示してその購入の事実を報告した
・車両売却にかかる契約書や口座の通帳など、売却代金の存在が判明し得る書類は税理士に提示しなかった
・乙取締役がデミオ車両を売却した後ほどなくして売却代金の存在を隠す目的で、税理士に対しては虚偽の説明をしている
・請求人は、乙取締役には法人の資産売却に関する十分な知識経験がなく、細かい内容を意識せずに本件契約書を作成した旨を主張した
・しかしながら、法人の名義かつ所有に係る車両を売却する場合には、特段の事情のない限り、売主を所有者である当該法人とし、売却代金の振込口座名義も当該法人とするはずである
・審判所の調査の結果によっても、前記特段の事情があったとは認められない
・乙取締役は、売却代金の振込先を本件口座に指定するために意図的に自らを売主として手続をしたものと認められる。
・乙取締役は、売却代金の存在を隠す目的で、個人名義でデミオ車両を売却して売却代金を本件口座に振り込ませた上、税理士に対しデミオ車両を零円で下取りしてもらい廃車にした旨の虚偽の説明をし、もって税理士をしてこの説明に沿う虚偽の内容の平成24年3月期の総勘定元帳、貸借対照表、損益計算書を作成させた
乙取締役が代表取締役から請求人の事業全般について一任されている取締役であり、請求人の税務書類の作成を依頼した税理士に応対していたことからすると、上記の取締役の行為及び認識を請求人の行為及び認識と同視することができるから、請求人による隠蔽があったと認められる
・国税通則法第68条第1項による重加算税を課し得るためには、納税者が故意に課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽、仮装行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に、申告に際し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していること(過少申告の故意)までを必要とするものではない(最高裁昭和62年5月8日判決)
・したがって、重加算税を賦課するには納税者の積極的な過少申告の意図の存在が必要であるとする請求人の主張は、この解釈に反しており採用することはできない。
顧問税理士への虚偽説明は重加算税
この納税者(乙取締役)には悪意があったものと考えますが、重加算税の事実認定において税理士への虚偽説明も要件に含まれる、ということは認識しておくべきです。
上記、国税不服審判所の判断の中でも明確に、「取締役の行為及び認識を請求人(法人)の行為及び認識と同視することができる」として、取締役個人が顧問税理士に虚偽の説明をしたことは、法人が虚偽説明したことと同じであるとして、重加算税の要件を満たしているとしています。
このようなケースでは税理士の立場としては、税理士法等から考えても、自身の正当性を主張せざるを得ませんから、「私(税理士)はこう説明を受けました」と調査官に伝えるしかありません。
こう伝えてしまうと、納税者が税理士に虚偽説明にしたことが明らかになり、顧問先に重加算税が課されることがわかっていても、です。
顧問先への指導・注意喚起は必要
だからこそ、普段から顧問先には、「私(税理士)にウソの説明をすると、税務調査で重加算税を賦課されますよ」ときちんと伝えておくべきです。
税理士・会計事務所と顧問先の関係性は一律ではないにしても、顧問先がウソの説明をする関係性が良好とはいえません。
一方で、税理士も「この説明はウソだろう」と思っても、それ以上に突っ込んで質問することは、現実的には難しいかと思います(お客様を疑っていることになりますから)。
ですから、上記のような裁決事例を具体的に持ち出して、顧問先に事前に説明しておくことが良い関係性を作出するために大事だと考えます。