税務調査で否認される節税・否認されない節税(1/全6記事)

本記事のご紹介

本記事では、2019年10月17日に税理士向けに開催いたしました「税務調査で否認される節税・否認されない節税」セミナーを記事にしています。


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講師プロフィール

久保 憂希也 (くぼ ゆきや)


1977年 和歌山県和歌山市生まれ
1992年 智弁学園和歌山高校入学
1995年 慶應義塾大学経済学部入学
2001年 国税庁入庁、東京国税局配属
医療業、士業、飲食店、不動産関連などの税務調査を担当。また、資料調査課のプロジェクトで芸能人や風俗の税務調査にも携わる。
さらに、東京国税局にて外国人課税に関する税務調査も担当。
2008年 株式会社InspireConsultingを設立、税務調査のコンサルタントとして活動。
全国で税務調査対策研究会を開催し、数千名の税理士税務調査の正しい対応方法の講座登壇実績多数。
現在、株式会社KACHIELの代表取締役CEO。

税務調査で否認される節税・否認されない節税

はい、それでは定刻となりましたので、始めさせていただきます。
皆さんこんにちは、久保でございます。

早速ですけれども内容の方に移りたいと思いますけれども、否認される節税・否認されない節税ってこの言葉で今日キャンセル待ちが出てるらしいです。セミナー、10人ぐらい。
なんでこんなに集まるんだろう、そんなに関心高いのかなと思う。
否認される節税って言葉的に言うと、ちょっとおかしいような気がするんですよね。

否認される節税・否認されない節税という、節税っていう限りは否認されないんじゃないの?っていう認識の方も多かろうと思うんですけど、それが違うというところと、税務署、国税が考える否認の分岐点というところで具体的に話を進めたいと思います。


「節税」と提案した内容は本当に「節税」なのか?



「節税」と「租税回避」の違いという一つ目の項目からいきたいと思いますけど、私仕事上ですね、 今日もそうなんですけど、ネットとかでバシバシマニアックなワードを叩きまくるわけです。租税回避行為、相続税、法人税、所得税とか。

そんなの多分、日本で今日叩いたのが2人ぐらいしかいないと思うんですけど。 私マニアックなワードを叩くんです。

マニアックなワードを叩けば叩くほどどういうのが出てくるかっていうと、大体二つに絞られていまして、 国税庁系のいわゆる論文と、大体税理士事務所のブログ、ホームページが出てきます。

今日も今回のセミナーがありましたので、節税、租税回避、違い、とかいろいろ検索してると、 税理士さんの認識ってそんなもんなのかなっていうぐらい、たいてい内容が間違っているというのが、私の中では見受けられます。

皆さんが顧問先さんに提案したとする節税方法があったとすれば、それは本当に節税なんでしょうか? というところが今回の題材でして、タイトル通り租税回避との違いというところですね。


「合法・適法だから否認されない」のウソ



合法・適法だから否認されない、税務調査で否認されないっていうのはまったくもって嘘です。 合法・適法だから否認されないっていうふうに書かれている税理士さんのホームページ・ブログがありますけど、それは間違いです。

その間違いっていうのが何なのっていうところと、簡単に言うと節税と脱税と租税回避の違いをまず学んでいただきたいんですけど。

(例1)同族会社に対する不動産管理料



例えばですね、これも機能も税務調査対策研究会がここでありまして、 この何人かの方受講されてましたけども、昨日も話したんですが、例えば同族会社に対する不動産管理料です。 最近めっちゃ多いですからね。

節税の基本的な考え方って今日の中でもいくつか出てくるんですけど、パターン1、節税のパターン1は簡単でして、税率の低い方に流す、ただこれだけです。

今の時代で考えると法人税率が圧倒的に低くて、所得税率がまた上がっちゃってる。 昔ほどではないにしても、所得税率が高い、法人税率が低い。 相続の場合っていうのは資産の額によって違いますけども。

ということを考えると所得税から法人税に流せば、それだけで税率の差分が生まれますので、 絶対的な永久差異としての節税になる、これはもう馬鹿でも分かる論理です。

一方で、個人の方がもう大体行為計算否認とか、租税回避行為とか調べていただくと、 個人の不動産関連のものばっかり出てくると思うんですけども、個人の方が不動産をお持ちでして、 別に何億円でもいいんですけど、不動産収入が1億円あったとしましょう。

不動産収入1億円だと、普通にいく人って全然普通にいるわけなんですけど、 個人の名義で持たれています、ということですね。実際にはここに借りている人がいると。 という状況なので、今のこの取引でいうと借りている人が貸主である方に対して賃料を払っているという状況なんですけども、 これは当然ですけど不動産所得なので、総合課税で税率がすごい高い、当たり前の話ですね。

一方でやる方法としては、こんなの誰でも考えつくわけですけども、 法人作って、同族法人作って奥さんを代表取締役にして、子供2人を取締役にして、自分以外の親族だけで法人を作ると。 不動産管理手数料が、これサブリースでもいいですよ。

サブリースしてからこっち側に貸し付けてもいいですし、 こっちから上がってくるお金は10%とかっていう抜いても、 不動産管理料でも、どっちでも結局所得は同じですけれども、10%として払いましょうと、いうふうに設定する。

例えばの話ですよ。そうすると結果としては1,000万円が、所得が流れますので、奥さんが専業主婦で働いてない、 子供2人も働いてないということになると、役員報酬を年額で600、200、200を取ったら、 給与所得控除が当然ありますので、というふうに考えると、所得分散になってめちゃくちゃ節税になる。

1,000万円がこっち側の所得で、おそらく住民税まで考えると50%超の実効税率になってるわけですけども、 その税率が所得税が下がって、こっち側の法人税が実際にほとんど発生せず、所得税の源泉だけ発生すると。これ馬鹿でも分かる理論です。

ここからなんですけど、ではです、これが節税だというふうにおっしゃってる人がいたとして、 私が皆さんの顧問先さんだとして、普通に思うのは何を思うかっていうと、10%なんてもっといけるでしょうと。じゃあ20%いっときますかと。 20%だとこれ2,000万円になりますから、奥さんが1,000万円取って子供2人で500万円ずつ取れば、 法人の所得ゼロになりますし、まだ1,000万円ぐらいだったら給与所得控除も使えますし、全然いけるねという話です。

では、いやいやいや20%がいけるんだったら先生、いっときますかと、30%です。 って言って、これがどこまでいったら節税なのか、どこまでいったら租税回避なのか、どこにいったら脱税なのか。

今のこの話は、気をつけていただきたいのは、不動産管理料を払ってもいけないとか 払っていいとかっていう法律はない以上、別に払うのは自然なわけです。 いくら払わなきゃならないとかいくらまでだったら損金不算入になるとか、そういう規定もないわけです。 ということは何%にしなきゃならないという法律もないわけなので、別に何%にしてもいいんですよ、法律上は。 だから何%にしても合法です、何%にしても適法です。

ですけど、一般的に言われているところで言うと、20%あたりから国税側が目を付けるってわけですよ。 何だったっけって言うと、不動産管理会社の一般的な不動産管理料の相場が8%から9%だから。 大体10%くらいだったら国税は認めるけども、20%ぐらいになったらさすがにって言うことで、否認されるってわけです。

いやいやいやおかしいじゃないですかと。 今言ってることは率を変えただけですよねと。 率を変えただけで何で否認される分岐点が来るんですかと。 この分岐点は実際にはどこまでか分からないわけですけど、実際何で来るんですかと、いう話なわけです。

てことは今の例でざっくり言うと、10%だと節税になるかもしれないですけども、30%だと租税回避って言われる可能性もあると。 なんやねんと、どこに線引きがあんねん、節税ですと。 これ節税ではございません、やってることは。 租税回避行為の色が黒い方なのか、白い方なのか話をしてるだけです、私が今言ってるのは。

(例2)社長に対する(役員報酬とは別に)業務委託料



次の例でいきましょう。 これも実際に見たことがあるんですけれども、なかなかダイナミックなことを 考えられる方がいらっしゃいますね、世の中には。

社長に役員報酬をもちろん払っているんですが、社長の役員報酬が高い。 そうすると給与所得控除が縮小されて所得税の税率も上がっている。 社会保険料はもっと上がっているわけですから、役員報酬を減らして、外注費に、業務委託料に振り替える。 例えば役員報酬を月額8万円とかに抑えて業務委託料に振り替える。
それをすると法人側は所得を当然圧縮できますし、業務委託料は定期同額っていうルールはございませんから、 法人側としては業務委託料で支払えるのであれば仕入税額控除も取れる。 うん、完璧。 社長に対して、役員に対して、取締役に対して業務委託料を支払ってはいけないという法律はございません、あるんだったらぜひ教えていただきたいんですが。

では例えばです、社長に対して役員報酬を8万円で設定してあって年額100万円だと。 業務委託料を2,000万円、3,000万円払っている会社があったとして、 そこで税務調査に入られたとして、調査団は何をもって否認すると思います?これって。

だって法律ないんですよ。 税法の中で、社長に対して役員に対して業務委託料を払ってはならないという法律がないんですよ。 法律はないんだけども、どうやって否認すると思います? これちなみにですね、すごい特殊なケースだと認められるのもあるんですよ。

これ私が実際に見たケースでどういうケースかっていうと、これは個別事案なので、絶対的に認められるってわけじゃないんですけど。 この中にも多分、芸能関係の仕事の顧問先を持たれてる方だったらいらっしゃるかもしれないですけど、 あるバンドグループがありまして、そこのバンドグループが、簡単に言うとそこのリーダーが社長の会社があるんです、法人があるんですね。 実際にはそれを物販収益とか、イベントとかって主催もやりながら自分たちのバンドとして出ているわけです。

で、実際にコンサートがあります。 コンサートがあるとバンドのメンバー実際に4人いるわけなんですけども、残り3人は役員ではございません。 実際にはその会社に、所属しているバンドマンと同じですよ、他のバンドマンと同じです、扱いは。 コンサートがあります、コンサートをイベント収入から経費を差し引いた金額に対して、 半分を歌手であったりとか芸能人に対してお金を払うっていうルール設定をしてる会社なんですよ。

残り3人は、これは簡単ですね、イベント収入があって全体の粗利が出て、その4分の1ずつを受け取ればいいわけですから。 ですけど、そのボーカルの方は社長なんですよ。 これどうするかっていうと、同じように業務委託料を払うわけですよね。 あるいは役員報酬と違う、別に業務委託料が発生してることはこれ間違いがないんです。

これはあくまでも個別事案ですけど、認められたケースは実際に知ってるんです。 こういう特殊なケース以外は、実際に社長に対して業務委託料なんて払えるわけがないんです。 こんなものが認められるんだったら、定期同額の意味なんてないですし、業務委託料変動させまくって、利益調整すればいいんですよ、という話になるんです。 じゃあ、もう一回話しますけど、何法で、何法の何条で否認をするんですか、という話になると、分からんねと。 だって法律にないんだから。


違法 ⇒ 脱税/合法 ⇒ 節税 ただし、節税目的は租税回避



ということで「節税」と「租税回避」の違いということですね。 ですから、あえて書かせていただくと、皆さんが顧問先さんに提案していたりとか、 ホームページ、ブログで書かれているものが、実際には節税かどうかっていう判断は、 どういうふうにしなきゃならないかっていうと、実は節税っていう言葉自体はかなり範囲が広くて。

節税、脱税、脱税がクロであれば節税はシロというふうに考えていただいたらいいんですけども、 この中に、この間にですね、この間に租税回避行為がずっとあるということですよ。

だから正確に言えば、節税と租税回避の境界線なんて誰も分からないです。 さっきの不動産管理料の、いや10%だったら行ける? 20%だったら駄目? 誰がのたまったやん、と、知りませんがな。

実際は不動産管理の役務提供をどの程度やってるのかっていうものにもよるでしょうし、 事実判断は個別の事案によって変わってきますけど、節税がシロだと考えれば脱税がクロで、その間にグレーの租税回避がずっとあるわけです。 白っぽい租税回避もあれば、黒っぽい租税回避もあるということなんです。

だから皆さんが顧問先さんに何を提案しているのか私は分からないですけど、 実際にブログなんか、ホームページなんかを拝見させていただくと、 いや明らかにこれ、租税回避行為でしょうというふうなものが普通に載っているわけです。 だから結構書き方としては危険になるわけです。

「利益の繰延」は節税にならないのか?



で、この後に租税回避行為が否認される具体的な中身であったりとかを検証していくんですけど、 その前に結構勘違いされている方が多かろうと思いますので、 利益の繰延は節税にならないのかなるのかっていう論点って、 結構ここ数年は流行った議論ですけど、私はそもそも国税の出身ですから、 利益の繰延なんかやって何が嬉しいの?って。

例えば保険入って、14年とか15年でピークきて、そこでまた益金当たって、 あれはもう、益金消すためにまた保険に入るっていう、もう永久のループみたいのずっと繰り返してて、みんな。
利益の繰延なんて節税にならないでしょうっていうふうに、 ずっと国税なのでそう思って生きてきたんですけど、実際になるパターンというのがありますね。

3つの節税になるパターン



なるパターンは三つあります。

例えば14年後、15年後に、その先分からないですけど退職をされる社長、 創業社長がいて、大きな退職金で損金が決まってるってパターンであれば、 当然、利益繰り延べて、所得繰り延べて、そこに損金当てるっていうことなのであれば、 そこで当て切っちゃって、損金にすれば、当然ですけど節税になります。

あと一時的なものですけど株価の対策ですね。 相続税の対策であったりとか、株を移転するときに使われますけども株価の対策。 株価下げっていうのは一瞬で下げれますので。 ということで考えると、割と一瞬でできる。

これはごめんなさい、もう考え方次第だと、いうふうにはっきり言わせていただきたいんですけど、 実行税率が実際にこれから下がると思われるのであれば、絶対的に繰り延べた方が税率は下がります。

おそらくですが、ここから10年間法人税率が上がることは私はないと思っていますが、何の保障もありません。 ここ5年間で実効税率すごい下がってますよね、実際に。 この5年間ってことは7、8年前に保険に入ってて、今、解約もしくは満期を迎えた保険があるとするなら、 それは相当な節税になってるはずなんですよ。

それは当たり前ですよ、繰り延べて税率が下がってるだけですから。 国際競争力の問題で税率は基本的に下がり続ける、法人税率は下がり続けるっていうふうに言われているので、 そういった意味において言うと、下がる方に相場が、法人税率が下がるというふうに張るのであれば、繰り延べる意味はあるんですよ。

上がらないと思いますけどね、法人税率は。 消費税率上げておいて法人税率上げることは普通考えられないでしょうから、っていう考え方もあるってことですね。 ですから利益を繰り延べるっていうところの節税においては意味がないことではない。
先ほど言った通り基本的な考え方としては、税率が高い方から低い方に移す、これ基本的な一つ目の考え方ですね。

二つ目の考え方は利益を繰り延べることによって、損金に当てるとか一時的な株価対策するとか、 将来的な実効税率が下がる方に張るのであれば、それは節税になっている、というのが二つ目の考え方です。
これいくつかの考え方がまだ出てくるんですが、節税の考え方です。

次回は、「否認リスク」を考える際には「否認根拠は何か?」を考えるについて、解説させていただきます。
次回記事は下記リンクから