[soudan 03540] 外貨で受け取った年金を円預金に入金したときの為替差損益について
2024年5月07日

税務相互相談会の皆さん


下記について教えて下さい。


【税  目】


国際税務(内藤昌史税理士)


【対象顧客】


個人


【前  提】


・個人事業主(日本国籍のいわゆる永住者)が外国から、外貨(EUR)で公的年金等を受け取り、

 一定金額が貯まった後、同じ金融機関の円預金口座へ振替しています。


・上記外貨預金には、同公的年金等以外の入金はありません。


【質  問】


上記前提において、円預金口座への入金時に為替差損益(決済差損益/雑所得)を認識する必要はありますでしょうか?

下記参考書籍では、為替差損益は往復の取引である必要性が記述されています。

上記前提の場合、「外貨→円貨」の一方通行の取引とも言えるため、為替差損益を認識する必要はないように思えます。

ただ、上記事例の場合、国税庁の質疑応答事例にある「外貨の保有状態に実質的な変化がない外貨建預貯金の預入及び払出」とは言えず、

また、円預金へ入金することにより、実際に為替差損益分の経済的価値の流入又は流出があり、

さらに、その為替差損益を合理的に計算することができる(外貨預金には公的年金等以外の入金はないため、公的年金等から生じた為替差損益であると特定できる)ため、

為替差損益を認識する必要があるようにも思えます。


先生のご見解をお聞かせください。



【参考条文・通達・URL等】


所得税法57条の3

所得税法施行令167条の6

国税庁質疑応答事例「外貨建て預貯金の預入及び払出に係る為替差損益の取り扱い」

令和 4 年 改 訂 版 Q & A 不 動 産 所 得 を め ぐ る 税 務 大蔵財務協会 高野弘美、黒田治彦著

78頁『為替差損益は、円貨→外貨→円貨というように往復によって発生しますが、円貨→外貨→外貨建てによる資産の取得、円貨→外貨→異なる外貨という場合も

外貨建取引となり、実現したものとなります (法57の3①、167の6①)。

つまり、外貨建の預金の預入れ及び払出しでも、同一の外国通貨 で行われる限り、その預入れ及び払出しは、外国通貨 で行われる預 貯金の預入れに

類するものとして外貨建取引に該 当せず、為替差損 益 を 認 識 す る 必 要 は あ り ま せ ん ( 令 1 6 7 の 6 ② )。』


入門外国人の税務 税務研究会出版局 阿部行輝監修/渕香織著126頁

『為替差損益は、たとえば、日本の銀行口座に入っている日本円で米ドルを購入して、それを再度日本円に戻した時に最初の日本円と比べて差が出ている場合に

認識するものであり、必ず往復の取引から発生するものと考えます。~中略~仮に、日本人の駐在員が、アメリカで稼いだ給与所得を駐在が終わった後、

アメリカのドル口座から日本の円口座に送金をする時に、為替差益に対して課税は発生しません。

為替差益を認識するためには、必ず往復の取引である必要がありますが、この取引は、一方通行の取引なので比較する対象が存在しません。』


情報通信類 課税関係訴訟事件判決速報(No.1652)東京国税局 課税第一部 国税訟務官室 令和5年5月24日判決 国側勝訴(相手側上告及び上告受理申立て)

外国通貨によって他の種類の外国通貨又は有価証券を取得する取引で生じる為替差益は、

新たに得た経済的利益として所得に該当するとされた事例


【事件の概要】

 X(納税者)は、スイス連邦に所在する銀行(本件外国銀行)との間で締結した投資一任契約(本件投資一任契約)に基づき、

 本件外国銀行に対して自己の資産の運用を一任し、その運用の一環として、運用対象資産に属する外国通貨(A)により、

 他の種類の外国通貨(B)又は有価証券(外国通貨(B)等)を取得する取引(本件各取引)を行った。

 Xは、本件各取引の大部分は、外国通貨の邦貨換金(円転)を含まない取引であるから所得が生ずることはないとして、

 同取引により生じる為替差損益(本件各為替差損益)を含めずに所得税及び復興特別所得税(所得税等)の確定申告をした。

 Y(課税庁)は、本件各為替差損益は雑所得に該当するとして、Xの所得税等の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(本件各処分)を行ったところ、

 Xは、本件各処分のうち、円転を含む取引から生じた為替差損益の額を超える部分の取消しを求めて、本訴を提起した。


【本件の主な争点】

本件各為替差損益は、「収入すべき金額」(所得税法36条1項)として認識されるか否か。


【裁判所の判断】

東京高裁は、第一審判決を引用し、外貨建ての取引において外国為替相場の変動により発生する為替差益は所得税法36条1項等の規定により

課税の対象となると判断した上で、①為替差損益が確定していない状況で課税するのは権利確定主義に違反する、

②Xは本件外国銀行に対して為替差益の支払を求める権利を有しない旨のXの各主張に対しては、要旨以下のとおり判示した。


 所得税法36条1項は、現実の収入がなくても、その収入の原因となる権利が確定した場合には、その時点で所得の実現があったものとして

 課税所得を計算するという建前(権利確定主義)を採用していると考えられるところ、本件各取引に関しては、同取引によって、

 取引前まで保有していた外国通貨(A)の為替変動リスクに影響されることのない外国通貨(B)等を取得することができる権利が確定し、

 同権利の確定によって、同取引時点における為替レートによる外国通貨(B)等の取得価額の円換算額から、

 その取得のために要した外国通貨(A)の取得価額の円換算額を控除した差額に相当する経済的価値の流入又は流出(収入又は損失)が生ずることになるから、

 本件各為替差益の収入の原因となる権利が確定するのは、本件各取引の時点であるということができる。

 本件投資一任契約の内容に照らせば、本件外国銀行によって行われた本件各取引の成果はXに帰属するのであって、そうである以上、

 本件各取引によって生じた為替差損益についても、本件各取引の都度、Xの所得として認識することができるから、

 Xが本件外国銀行に対して本件各取引の都度為替差益の支払を求めることができなかったとしても、課税要件上その都度権利が確定したとみることを妨げない。」



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