専従者と配偶者・扶養控除の判断基準
専従者と配偶者・扶養控除の判断基準

著者プロフィール

久保憂希也

久保 憂希也(くぼ ゆきや)

元国税調査官・株式会社KACHIEL代表取締役 CEO
1977年 和歌山県和歌山市生まれ
1992年 智弁学園和歌山高校入学
1995年 慶應義塾大学経済学部入学
2001年 国税庁入庁、東京国税局配属 医療業、士業、飲食店、不動産関連などの税務調査を担当、また、資料調査課のプロジェクトで芸能人や風俗等の税務調査にも携わる。さらに、東京国税局にて外国人課税に関する税務調査も担当。
2008年 株式会社 InspireConsultingを設立し、税務調査のコンサルタントとして活動し、現在は全国で税務調査対策研究会を開催し、数千名の税理士に税務調査の正しい対応方法を教えている。

専従者と配偶者・扶養控除の判断基準

 今回は、個人事業主における青色専従者と、その配偶者控除および扶養控除の関係について解説します。
 この論点は、税理士・会計事務所でも誤った判断をしていることが多く、特に確定申告時期には注意が必要となります。

専従者は事業主を配偶者控除に入れることができるのか?

 まず、実務上よくある、個人事業主の所得が低いケースから考えてみましょう。

  • 個人事業主が妻を専従者にして専従者給与を支払っている
  • 個人事業主の決算を組むと赤字(正確には、合計所得金額が38万円以下)

 このようなケースでは、個人事業主である夫を、専従者である妻の配偶者控除とすることができます。

「No.1191 配偶者控除」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1191.htm

 ここは要件がごっちゃになりやすいところですが、あくまでも、

事業主の青色専従者として給与の支給を受けている



専従者の合計所得金額が38万円以下(専従者の給与収入で103万円超)であっても


配偶者控除・扶養控除の対象にならない

ということです。
 上記が「逆になる」ケースでは、専従者が事業主を配偶者・扶養にいれる、ということですから、所得基準にしたがって当然に控除対象になる、というわけです。
 シンプルに考えると、(原則として)【専従者は扶養親族になることはできません】という判断基準で考えるべきで、裏を返すと、事業主自身は所得額によっては扶養に入ることができます。

扶養控除に入れることはできるのか?

 さらに考えると下記のような事例では、こう考えることになります。

  • 事業主A(夫)の事業所得は38万円以下
  • Aの青色専従者B(Aの妻)の専従者給与は年間に103万円以下
  • AとBの息子C(会社員)は専従者ではなく、AB両親がそのままでは生活をできないので仕送りをしている(生計を一にしている)
  • CはAとBを扶養親族にできるか?

 繰り返しますが、「専従者は扶養親族になることはできない」のが原則的な考え方ですので、CはAを扶養親族にはできますが、Bを扶養親族にすることはできません。

 所得税基本通達2-48においても、その青色事業専従者を自己の扶養親族とすることができない者とは、青色事業専従者に対して給与を支払っている事業主およびその事業主と生計を一にする者とされていることから、CはBを扶養親族にできないことがわかります。

所得税基本通達2-48(青色事業専従者等の範囲)
法第2条第1項第33号に規定する「青色事業専従者等」とは、その配偶者が居住者の同一生計配偶者に該当するかどうかを判定する場合における当該居住者又は当該居住者と生計を一にする居住者の青色事業専従者等をいうのであるから、例えば年の中途までこれらの者以外の者の青色事業専従者等であった場合であっても、これらの者の青色事業専従者等に該当しないときは、同号の青色事業専従者等に含まれないことに留意する。
「No.1180 扶養控除」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1180.htm

青色専従者給与の妥当性

 また、似たようなよくある疑問として、下記のような事例があげられます。

「事業主の所得よりも、専従者給与の方が高い場合、専従者給与の全額を必要経費に算入できますか?」

 確かに、事業主の所得よりも専従者給与の方が高くなることは、上記の扶養と同じように正直違和感があるところではありますが・・・
 青色専従者給与の額が必要経費になるかどうかは、所得税法第57条第1項および所得税施行令164条に規定されているとおり、あくまでもその勤務の状況などからみて、労務の対価として適正なものであるかどうかで判断することになり、事業主の所得と比較するわけではありませんから、必要経費になる、と判断することができます。

 公開裁決事例の中でも、この論点が争われた事案があります。

「青色事業専従者給与の支払に充てられた資金の原資が請求人の給与収入から請求人の事業に振り替えられたもの(事業主借)であることを理由に、青色事業専従者給与の支払額全額が、請求人の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入できないとした原処分庁の主張を排斥した事例」(平成27年4月13日裁決)
https://www.kfs.go.jp/service/JP/99/07/index.html

 この裁決事例の中で不服審判所の判断として、

「本件給料が事業主借勘定に振り替えられ事業用とされた現金から支払われているところ、所得税法第57条は、事業収入以外から事業に流入した資金により青色事業専従者給与が支払われた場合に、当該支払を必要経費に算入することを認めない旨を規定したものと解するのは相当ではない。」

と明示しています。

専従者控除は支払いを要件としない

 さて、本稿の最後になりますが、こちらも実務上誤りやすい(白色の)専従者控除について触れておきましょう。
 青色専従者給与と相違し、専従者控除は「実際に支払った給与」が要件とされるわけではありません。

「No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2075.htm

 ですから、白色申告の個人事業主に関しては、妻(などの親族)が事業の手伝いをしている事実があれば、専従者控除が認められることになります。