理由附記の制度とその程度③
理由附記の制度とその程度③

著者プロフィール

久保憂希也

久保 憂希也(くぼ ゆきや)

元国税調査官・株式会社KACHIEL代表取締役 CEO
1977年 和歌山県和歌山市生まれ
1992年 智弁学園和歌山高校入学
1995年 慶應義塾大学経済学部入学
2001年 国税庁入庁、東京国税局配属 医療業、士業、飲食店、不動産関連などの税務調査を担当、また、資料調査課のプロジェクトで芸能人や風俗等の税務調査にも携わる。さらに、東京国税局にて外国人課税に関する税務調査も担当。
2008年 株式会社 InspireConsultingを設立し、税務調査のコンサルタントとして活動し、現在は全国で税務調査対策研究会を開催し、数千名の税理士に税務調査の正しい対応方法を教えている。

理由附記の制度とその程度③

 前回・前々回から引続き「理由の附記」について解説しますが、今回が最終回で「記載の程度」について解説します。

理由附記には程度も求められる

 課税処分を受けた場合に、理由附記の記載がない場合は、ただちに違法な処分として取消しの対象になります。
 一方で、理由附記の記載内容が、

「○○のため更正する」

など、簡略的な記載も認められていません。これは、理由附記には程度が求められるからです。

 少し話は逸れますが、課税処分を受けた場合に不服申立てを行うことがありますが、不服申立ての争点として、課税処分内容とは別に、理由附記の程度を加えることが有効です。
 なぜなら、「理由附記の程度を満たしていない」という争いで勝てれば、課税処分の内容によらず、それだけで処分全体が取消しとなるからです。
 納税者側が理由附記の程度で争うことはわりと簡単で(何かの理由・根拠は必要ですが)「理由附記の程度が満たされていない」と主張するだけです。これに対して、国税側が適正な反論をできなければ、納税者が勝つことになります。
 課税処分の内容で争うことは大変ですが、理由附記の程度で争うことは簡単で、かつ課税処分の内容とは関係なく勝てる可能性があるので、効果大です。

理由附記の程度はどの程度?

 さて、理由附記の程度については、その判断基準は

【その調査の内容を知らない第三者が理由附記を見ただけで処分の理由がわかる】

ことになります。

 例えば、自身が立会った顧問先の税務調査において、課税処分を受けた場合に、その理由附記を知人の税理士に見せたところ、「なるほど、こういう理由で更正されたのか」と理解できる程度、ということです。

 そもそも論ですが、法律上は「理由附記を要する」としか規定されていないにもかかわらず、実際のところは「理由附記の程度まで要する」とされているのは、多数の裁判の積み重ねであるわけですが、これには2つの理由があるとされています。

(1)不服申立てに便宜を与える

 課税処分を受けた後に、不服申立てをするかどうかはあくまでも納税者の判断ですが、不服申立てをするのであれば、課税処分の内容のみならず、その理由・根拠・経緯などがわからなければ、不服申立てをすることができない、もしくは、できても納税者が不利になります。

 もちろん、税務調査に立ち会った税理士が、引続き不服申立ての代理人となるのであれば、その事情など詳細は理解されているわけですが、不服申立てから新たに弁護士を入れる、税理士を変える場合などは、理由附記からその内容等を把握できなければ、適正に不服申立てが行えないことになります。

 このことから、第三者がその内容を読んで理解できる程度まで理由附記が求められるのは、納税者の不服申立てに便宜を与えることが1つの理由となっています。

(2)国税側の判断の慎重を担保して恣意を抑制する

 税務調査の現場では、口頭で何とでも言える調査官も、理由附記の段階にあると記載が難しくなるケースがあります。
 このように、理由附記に程度を求めると、「どのような根拠で更正したのか?」に加え、その判断過程も記載が求められますから、これによって、国税側も安易な課税処分はせず、判断の慎重が求められることになります。

 極端な例ではありますが、調査官が「ムカついた」などの理由で課税処分されてしまうと、納税者の公平性・公正性が担保されないことになります。
 このような恣意や主観を排除することも理由附記の程度まで求められる背景です。

青色申告の却下と取消し

 本稿の最後となりますが、理由附記の程度についてさらに掘り下げて理解したいという方は、下記2つを参考にしてください。

理由附記の程度の裁決
http://www.kfs.go.jp/service/MP/03/0601000000.html
「更正処分の理由附記-行政手続法に定める処分理由と税法上の処分理由の異同について-」
https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/ronsou/84/01/index.htm

理由附記については、その法的根拠と、求められる程度を知っておくことが必要となります。